TRIZ論文和訳

コストに関連する問題をTRIZでいかに扱うべきか?

Ellen Domb (PQR Group & TRIZ Journal 編集者、米国)
ETRIA主催 TRIZ Future 2005国際会議、2005年11月16-18日、グラーツ (オーストリア)

訳: 中川 徹 (大阪学院大学) 、2006年 7月12日

[掲載:2006. 7.18]  複製禁止

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編集ノート (中川徹、2006年 7月18日)

本稿も、昨年11月のETRIA主催の国際会議で発表され、この8ヶ月間「To Do List for TRIZ: ボランティアの協力者を求めます」のページに掲載していた懸案です。Pfisterの論文の和訳の余勢で、この懸案の翻訳をしました。TRIZを普及させるためには非常に重要な論文です。翻訳・掲載を許可いただいた著者と主催学会ETRIAに感謝いたします。

著者:   Ellen Domb (PQR Group & the TRIZ Journal 編集者、米国)   Web:   www.triz-journal.com

原題および「To Do List for TRIZ」に掲載した簡単な紹介は以下のようです。

原題:  "How to Deal with Cost-Related Issues in TRIZ"

TRIZの初心者たちの多くがコストの問題を扱おうとして困難に遭い、そこでTRIZは使えないと考えてしまう。コストの問題は広範だから、それをきちんと分析しなければならない。それと同時に、初心者たちがコスト問題をTRIZで扱いやすいように、TRIZの方法を整備し、注意を与えている。教育的に重要な論文。

詳しい紹介はこのETRIA国際会議についての中川の「Personal Report」 を参照下さい。

論文の和訳をここにHTML形式で掲載しますとともに、PDFでも掲載します

論文の目次は以下のようです。

1. はじめに

1.1 コスト問題の諸原因

1.2 TRIZの諸ツール (技法)    
     1.2.1 機能分析、矛盾マトリックス、および40の発明原理
     1.2.2 システムオペレータ (9画面法)
     1.2.3 究極の理想解 (IFR)

2. コスト関連問題のためのステップバイステップの問題解決法

3. おわりに

参考文献

 

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コストの諸原因

TRIZのツール

ステップバイステップの解決法

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ETRIA国際会議報告


コストに関連する問題をTRIZでいかに扱うべきか?

Ellen Domb
PQR Group & the TRIZ Journal 編集者
ellendomb@compuserve.com

初出: ETRIA主催 "TRIZ Future 2005" 国際会議、2005年11月16-18日、グラーツ (オーストリア)
原題: "How to Deal with Cost-Related Issues in TRIZ"
和訳: 中川 徹 (大阪学院大学)、2006年 7月12日

概要

TRIZを学んでいる人々がコストに関わる問題でしばしば困難を感じる。なぜなら、コスト削減はすべての産業での主要なテーマであるが、それでいてTRIZの多くの技法がその問題を陽に扱っていないからである。しかし、TRIZの初心者たちがTRIZの適用を最初に試みた問題でうまくいかなかった場合には、TRIZの体系を学ぼうという努力を放棄することが多いだろう。

コスト関連の問題を定式化し解決する方法を初心者たちに教えるには、彼らが、究極の理想解、システムオペレータ (9画面法)、機能分析などを十分理解し、また、問題を定義するためにパラメータや機能を使うことを、分離原理や40の発明原理などのツールを適用しようとする前に、十分理解できるようにせねばならず、彼らがそれで良い成果を容易に出せるようにそれらの技法を組織化しておかなければならない。エレクトロニクス、医療、重工業などでの製品およびサービスの事例を使って、それらの概念と、それらの概念を教える方法について明らかにしよう。

キーワード: コスト削減、コスト管理、初心者教育、システムオペレータ

 

1. はじめに

「コスト」という言葉は、製品やサービスを開発し、製造し、配送する場合の、広範囲な問題を記述するのに使われている。TRIZに新しくやってきた人たちは、往々にしてTRIZがすべての問題を立ちどころに解決してくれると期待していて、彼らの「コスト」問題の解決をサポートするツールとして、彼らが認識できるものがないと感じて、フラストになるかもしれない。もし初心者たちが最初にやった問題で成功しなかった場合には、より高度なTRIZの技量を学ぶだけの忍耐を持たないだろう。だから、この欲求不満を軽減することは、より多くの人たちがTRIZを実践するようになるために大事なことである。

初心者たちにステップ-バイ-ステップのプロセスを与えることは、教育や学習を容易にする。そのプロセスは彼らのコスト問題の原因を分析するようにさせ、そしてその問題を解消するために適切なTRIZツールを使うように彼らを導く。

1.1 コスト問題の諸原因

一つの製品やサービスのコストが高すぎると人々が不満をいうとき、TRIZ分析者も他の技法の人たちもその問題にアプローチする。もし古典的なARIZの訓練を受けた分析者なら、その問題の矛盾が生じる作用空間や作用時間を見つけ、矛盾を見つけ、矛盾を誇張し、そして解決すべき問題を定式化するという方法を使うだろう。もしシックスシグマあるいはその他の品質改善分野の訓練を受けた分析者なら、根本原因分析の方法を使うだろう。いずれにせよ、多くの状況を観察した結果、コスト問題はつぎのようなことが原因となっていることが分かっている。

1. 原材料のコスト
2. 労働のコスト
    2.a. 部品の製造
    2.b. 最終製品の組み立て、または、サービスの配送
    2.c. 最終製品またはサービスを配送する前の検査
    2.d. 製品またはサービスについて、販売後のサポート (顧客サービス)
3. 運送のコスト
    3.a. 原材料の運送
    3.b. 部品の運送
    3.c. 完成製品の運送、または、サービスを配送するのに関わる運送
4. 管理のコスト
    4.a. サプライヤーの管理
    4.b. 組織の管理 (技術開発、設計、製造、調達、サービス、サポート、販売、マーケッティング、従業員訓練、人的資源のコスト、など)
    4.c. 悪い品質のコスト (検査・分析・やり直しのための労働コスト、不良原材料や部品の取り替えのための材料のコスト、取り替えのための運送コスト、不良製品の取り替えや不良サービスの効果の補修の ための保証コスト、また、(計算不能であるが) 会社に対する顧客の評判をだめにした損害のコスト)

初心者たちがコスト問題にTRIZを適用しようとするときに、最もよくある失敗の原因は、問題を、それが最初に提示されたときのシステムレベルでだけ見ることである。システムオペレータ (9画面法) と究極の理想解が、この問題から彼らを解放できるTRIZ固有の方法である。ただ、それらは、初心者たちが普通最初に習得する方法ではない。

ポピュラーなビジネス文献には、問題を間違ったシステムレベルで見ているための問題を例示しているケースが豊富にある。『ビジネスウィーク誌 (2005年)』は、人件費が安いという理由で製造を中国にアウトソーシングし、サービスをインドにアウトソーシングした会社の、よく知られた事例を掲載している。彼らは中国およびインドの有利さが10〜15年続くだろうと見ている。しかし、ここにレビューされている特定のプロジェクトをTRIZの観点から評価してみると、この問題はそう簡単でないことが分かる。

製造コストは製品の設計を変えることによって削減できる。一回の設計変更のコストは高いかもしれないが、地球規模での管理、サプライヤーの資格審査、運送などのコストの削減を、設計変更のコストの計算に含めるべきである。同様な事例が『Inc. Magazine 誌 (2005年)』で調べられている。そこでは、自動車用フロントガラスの小規模なメーカーが、部品製造の人件費節約のために米国の業者からメキシコの業者に切り換えるように助言を受けた。その部品を吟味すると、多くの簡素化の機会があり、製造のための人件費を削減する機会があることが分かった。電子工業の業界には、高コストの生産者がその生産を低コストの生産者に転換し、その低コスト生産者からのすべての質問に答えた後で、彼らが設計をもっと単純化することができ、それを自分たちで生産することができたはずだと悟った、という事例が一杯ある。

インドの技術者たちがいま諸外国の企業のための3次元CADシミュレーションをしており、そのコストは [依頼元の] 20%である。しかし、シミュレーションと設計とを分離することのコストはどれだけなのだろう?この次の段階は、よりよいシミュレーションによる、よりよい設計 (その記事の指摘)ではなくて、すべての設計をそのインド企業に移転させることかもしれない。このことは、顧客の観点からは (よりよい製品がより安くなるから) よいことであり、そのインド企業にとっても (新しいビジネスとして) よいことであろうが、このプロセスを始めた会社にとってはよくないことである。『ビジネスウィーク』の記事を引用しよう:
インドが [より以上の段階に] 到達できるのは、安い労働力より以上のものを持ったときである。[安い労働力なら] すべての発展途上国が持っているのだから。そこで、Wipro社やその他のインドの先進企業 (Tata Consultancy社やInfosys Technologies社を含めて) は、自分たちのサービスのアップグレードをやっている。彼らは人手のステップをなくすためにプロセスの自動化を行い、かれらのお得意先の顧客についてのデータをデータマイニングするために分析ソフトを使っている。
(この記事で触れていないのは、よい事例として使っている3社のすべてが、すでにTRIZを学んでいることである!)

間違ったシステムレベルで問題が扱われているという同じ問題点を、シックスシグマの実践者たちも多く見ている。Nilakantasrinivasan (2005) は、DMAIC が失敗する5つの原因をつぎのように列挙している (DMAIC とは、シックスシグマでのプロセス最適化フェーズのことで、定義(D) - 測定 (M) - 分析 (A) - 改善 (I) - 制御 (C) のステップからなる)。

1. 検知可能性が高いだけの、プロセス中の疑似問題
2. ビジネスプロセス管理が行なわれていないための、疑似問題
3. 「完了」[したはずの] DMAICプロジェクトでの制御の欠如
4. コスト削減への過度の集中
5. DMAICの不適切な適用

TRIZをシックスシグマと組み合わせたとき、このようなDMAICの「病理」から生じる問題を、[TRIZ] 学習者が持っていることがしばしばある。

最近のあるクラスで学生が提示したのは、印刷機の一部品が時間経過によって形が変化し、印刷出力が劣化するという問題であった。その2年前に、部品のコスト削減のために、ある人がスチールのシャフトをナイロンシャフトに置き換えた (問題点4: 顧客のニーズではなくコスト削減に焦点をおいた。また、問題点3: シャフトの性能を測定する制御システムを持たなかった)。非常に基礎的なTRIZの原理を使い、基礎的な設計工学を使って、適切な剛性で時間経過にも安定な解決策をその学生は見つけた。しかし、その会社は、設計変更のコストと、この2年間の顧客の苦情という被害を受けたのである!

1.2 TRIZの諸ツール (技法)

初心者たちは通常、TRIZを一連のツールや技法として紹介され、その後、だんだん熟練してくるにつれて、TRIZを「思考システム (a thinking system)」として見るように学んでいく。考えることの必要性を [最初から] 講義しても、初心者たちがよくなる助けにはならないだろう! 初心者として、彼らがすでに習ったツールがコストの問題にも役立つことを彼らが目で見る必要がある。そうでなければ、がっかりして、TRIZを学ぼうとすることをやめることだろう。

1.2.1 機能分析、矛盾マトリックス、および40の発明原理

矛盾マトリックスと40の発明原理は、TRIZの初心者たちに最も人気が高いツールの一つである (たとえTRIZ専門家たちが、「それらの利用は低レベルの解決策に導きがちだ」と批判していても、この人気は変わらなかった)。Slocum (2002) 参照。矛盾マトリックスと40の発明原理の使い方は、TRIZの考え方をを初心者たち最初に速く伝えるのによい。特に、よりよい妥協を見つけようとするのではなく、矛盾を解消しようとするアプローチを示せる。

機能分析のどれかのバージョン ([古典的TRIZの] 物質-場分析、[Zinovy Royzenの] TOP、[IM社の] Subject-Action-Object、[II社の] Problem Formulator モデル、など) を使うのが、初心者たちが矛盾マトリックスを使うときの、普通の入り口である(初心者向けのアプローチの一つとして、Rantanen (2002) を参照)。 Sickafus (2005) が強調した一つの鍵は、機能あるいはオブジェクト (またはシステム) 間の機能的関係は、オブジェクトまたはシステムの諸属性の結果だという点である。諸属性を列挙していくことにより、分析者はシステムのコストを変えるよい機会を見出すであろう。もしこれがプリンタのシャフトの問題で行なわれていれば、あのような問題は回避できたであろう。

例えば、透明なプラスチックのコップが持っている属性は、小さな重さ、液体をうまく収容すること、よくない断熱性、液面を見るのが容易なこと、などいろいろある。もし、このコップのコストを削減することが目標であるなら、分析者はなにがコストの要因かを見つける必要がある (材料、プロセス、運送、顧客サービス、デザイン、など)。そして、コストを削減するときには、顧客が価値を認めている機能や属性を除いていないことを確認しなければならない。(Ball (2005年) も参照。)

Darrell Mann (2004年) は、アルトシュラーの矛盾マトリックス (Altshuller (1988年)) の形式を使って、「ビジネス用矛盾マトリックス」を創った。その中でMannが直接にコストのパラメータとして挙げているのは、つぎのものである。

研究開発のコスト
製造のコスト
サプライのコスト
サポートのコスト

彼はまた、古典的なアルトシュラーの矛盾マトリックスで使われているのと同じパラメータ、およびコストの増大を招くその他のパラメータをつぎのように含めている。

システムの複雑さ
制御の複雑さ
システムがつくり出す有害な因子
研究開発、製造、サプライ、およびサポートにおける時間 (納期) とリスクの問題

古典的なアルトシュラーの矛盾マトリックスでは、コスト関連の問題を記述するのに最もしばしば使われるパラメータは以下のものである (定義は Domb (1998年) を参照)。

プロセスの速さ
作用の持続時間
エネルギーの損失、材料の損失、情報の損失、時間の損失
信頼性
システムがつくり出す有害な因子
操作の容易さ、製造の容易さ、修理の容易さ
システムの複雑さ
自動化の程度
生産性

よくあることだが、問題を矛盾として定式化すると、矛盾マトリックスを陽に用いないでも、直接に解決策に導くことがある。

例えば、多くの企業は明らかにつぎのような物理的 (内在的) 矛盾をもっている。
「多くの在庫を必要とする (製造の遅れを避けるため、あるいは顧客のサービスのニーズに迅速に対応するために)」
「在庫がないことを必要とする (キャッシュフロー問題を避けるために)」

この問題は、技術的 (トレードオフ) 矛盾として、表現し直すこともできる。すなわち、
「製造の容易さ (あるいは、サービスの問題であれば、修理の容易さ) が改良されると、
材料の量が悪化する」

矛盾マトリックスを使う前でも、学生は、「製造 (または修理) の容易さと材料の量とのカップリングは、製造プロセスが多量の材料を必要としていることを示唆している」と分かる。このように理解すると、TRIZの科学的効果 (effects) の方法に直接に導かれるだろう。すなわち、他の産業での解決策を調べてみる方法である。

もしそれだけの品質の仕事が不可能なら、あるいは、もしこの矛盾の定式化が可能でなかったら、学生は古典的矛盾マトリックスまたはMannの 矛盾マトリックス (Matrix 2003) に進めばよい。

例えば、古典的矛盾マトリックスは、発明原理35 (パラメータ変化)、23 (フィードバック)、1 (分割) 、および24 (仲介) がこの矛盾を解決するのに最も多く使われていることを教えてくれる。そして実際に、これらのすべてを使った在庫管理の解決策が普通に広く存在する。

1.2.2 システムオペレータ (9画面法)

さまざまな産業界 (保健配送 (health care delivery)、エレクトロニクス、重機、化学研究など) での多数の事例を観察すると、「コスト問題の根本原因 [の一つ] が、間違ったレベルでの意思決定にある」ということが、ほとんど普遍的に正しいことを示している。この理由で、TRIZのシステムオペレータ (9画面法) (図1に示す) が、製品またはサービスのコストを改善する、一つの鍵ツールになるのである。

図1. システムオペレータの表 (9画面法)
[訳注: 著者は下位システムを上に、上位システムを下に配置しているが、
この和訳では通常用いられているより自然な順序に直した。]

  過去 (予防的) 現在 将来 (補正的)
上位システム コスト問題を予防するのに、上位システムのレベルで、何をしておけばよかったか? すぐの上位システムは何か? その上にあるのは何か? どれだけ上にいくべきか? コストが高くなりすぎる問題を補正するのに、上位システムのレベルで、何ができるだろうか?
システム このレベルで、問題を予防するのに何をしておけばよかったか? 現在の直接的な問題 製品またはサービスが作られた後で、それを配送 (提供) するコストを減ずるために、何かできることがあるか?
下位システム 下位システムのレベルで、コスト問題を予防するには、何をしておけばよかったか? 下位システムはなにか? 部品か? もっと下のレベルで解決策を求めるべきか? 下位システムが作られた後で、それらを使うコストを減ずるために、何をすることができるだろうか?

多くの人々は、正統的な品質管理の概念を適用して、補正行動の欄 [右欄] を無視するだろう。それをここに含めたのは、特定のサービスや製品をやり直す (補正する) ことが、欠陥製品を廃棄したり、欠陥サービスを受けた顧客に謝罪したりすることよりも、安価に済むかもしれないからである。この同じシステムオペレータの思考をコスト分析システムに適用して、どのレベルの解決策が必要で、どんな時間スケールの解決策を適用すべきかを決定する必要がある。

以下の事例は、矛盾の定式化とシステムオペレータの威力をよく例示している。

ある装置の製造・サービス会社のCEO が、会社をびっこにしている (と彼が表現する) コスト問題を解決するための「ブレイクスルー戦略」を必要としていた。その会社は多数の販売店 (distributors) を持っていた。その一部はその会社と共に非常に長い歴史をもっており、他の一部はずっと最近に買収の結果としてその会社に組み入れられたものであった。販売店の約15%は「付加価値がある」と表現された (彼らは顧客をよく理解しており、販売プロセスを加速し、顧客の解決策に貢献していた)。約50%は「不必要なコスト」とみなされ、何の価値も加えないもので、その他 [の約35%] はほんのときどき寄与するものたちであった。

TRIZの分析者がこの状況を物理的 (内在的) 矛盾 として表現し、

われわれは販売店を必要とする
われわれは販売店を必要としない

分離原理について説明を始めようとした。すると、そのCEOは彼を遮って、「それが解決策だ。だが、私はきらいだ」といった。どうしてかと尋ねられて、CEOが説明したのは、彼はいま解決策として、「複数の下位システム中に、複数タイプの販売店を共存させる案」 (すなわち、位相空間との類推) を見出した。しかしそのためには、契約を変更するための弁護士費用に多額を必要とするだろうことだった。

CEOはつぎにシステムオペレータを使って、彼が新しく作りたい下位システムの予防的側面と補正的側面の両方を理解し、また、新しい販売店網を管理する上位システムに必要となる予防的行動を理解した。このCEOとそのスタッフたちは、これまでにさまざまな有効でない解決策を試み、3年を費やしていた。彼らは1日以下のトレーニングしか受けていないTRIZのまったくの初心者であったが、TRIZを使って新しい戦略を開発した。その戦略は現在、実地に非常にうまく働いている。

1.2.3 究極の理想解 (IFR)

究極の理想解をコストの問題に使うのは、他の種類の問題に使う場合となんら違うものではないが、初心者にとってやはり難しいツールである。なぜなら、[利用者の] 心理的惰性に最も強くチャレンジするツールだからである。初心者が、「ひとりでに」の方法 (Mann (2004年) に多数の事例があるので参照) を使おうと、「価値の式」の方法 (Rantanen ら (2002年) に例がある) を使おうと、やはり難しい。「すべての効用を提供するが、存在しない」とか、「効用を提供するが、コストも害もない」とかいうシステムを想い描くことのチャレンジは、初心者たちの過去の経験からはあまりにも心理的な距離が離れ過ぎていることがしばしばだからである。この理由で、われわれは究極の理想解 (IFR) を [コスト問題のための] プロセスの最後に置き、解決策を改良するために使う (すなわち、もっと一般の問題解決の場合によく見られるような、プロセスの最初に置くことを避けた)。

究極の理想解 (IFR) をうまく使うと、TRIZの実践者はシステムの従来の概念や根本原因の皮相的な見方から解き放たれる。

企業でのバッチ処理の応用について、ある学生がクラスに持ってきた問題は、製造プロセスの副産物である塩水からゴミを除くのに使っている施設の、周期的なメンテナンスコストを削減せよという課題であった。彼女はIFRをいくつかのレベルで適用した。最も極端には、この製品を作るのにどうして水を使う必要かあるのかを問うものであった。その答えは、このプロセスが確立された70年前の段階で、知られていた唯一の方法だということであり、その当時は水の使用はただだったのだ。いまや、他の諸プロセスが知られており、水は高価で、汚れた後の水の処理はずっと高価である。
いまや、この会社は一つの理想的な製造プロセスに切り換えることを研究中である。(その間、彼女の宿題は25%のコスト削減であったが、彼女はTRIZをシステムレベルと下位システムレベルに適用し、60%の節約が可能なことを非常に速やかに見つけた。)

2. コスト関連問題のためのステップバイステップの問題解決法

図2はコスト問題を解くための一つのフローチャートである。TRIZの新しい理論をここに提示しているわけでない。これはツールや技法を実際的に配置して、初心者たちが有効な結果を速やかに得ることができるようにしたものである。有用な結果を得た後には、TRIZをずっと深く学び、もっと全体論的なレベル (TRIZの高度な実践者たちを特徴づけるようなレベル) で仕事ができるように、動機づけられることが大いに考えられる。

図2. コスト問題のための初心者用のフローチャート
[訳注: 図を分かりやすくするために、レイアウトの一部を修正した。]

 

3. おわりに

本件のような方法論の論文には、すべてのデータを要約してそのデータから結論的なメッセージを引き出すという意味での、結論を書くことはできない。むしろ、本論文は、TRIZコミュニティに対して、ここに提示している方法を実験し、その成功、失敗、そして改良への推奨を報告するように招請する。

TRIZの成長は、TRIZの初心者たちが早くに成功体験をもつことが容易になるようにするTRIZ専門家たちの力量に依存している。初心者たちが早くに成功体験を持てば、それ以後 [TRIZを使って] 仕事をする決心をし、それが彼ら自身の知識や能力を増進するだろう。本論文に示した簡略化したTRIZ問題解決法は、初心者たちにそのような成功体験を与える一つの方法として提唱するものである。

 

参考文献

Altshuller, Genrich (1988) Creativity as an Exact Science, Translated by Anthony Williams. Gordon & Breach, NY USA

Ball, Larry. (2005) Hierarchical TRIZ Algorithms. Chapter A, and K, especially. http://www.3mpub.com/TRIZ/

Business Week Magazine (2005) Special edition on India and China, Aug. 22, 2005.

Domb, Ellen; Miller, Joe, and MacGran, Ellen. (1998) “The 39 Features of Altshuller’s Contradiction Matrix.” The TRIZ Journal. http://www.triz-journal.com. November 1998.

Domb, Ellen and Mann, Darrell. (1999) “40 Inventive (Business) Principles with Examples”
The TRIZ Journal, http://www.triz-journal.com, Sept. 1999

Mann, Darrell. (2004) Hands-On Systematic Innovation for Business and Management, IFR Press, Clevedon, UK

Nilakantasrinivasan, Neil and Nair, Arun. (2005) “DMAIC Failure Modes.” Six Sigma Forum, May 2005 p. 30.

Rantanen, Kalevi and Domb, Ellen. (2002) Simplified TRIZ. CRC Press. Boca Raton, FL USA. Chapter 5.

Sickafus, Ed. (2005, 2004) USIT Newsletter #34, 21-24. http://www.u-sit.net

Slocum, Michael, and Domb, Ellen (2002) “Solution Dynamics as a Function of Resolution Method (Physical Contradiction v. Technical Contradiction.)” ETRIA TRIZ Futures Conference Proceedings, November 2002, reprinted in the TRIZ Journal, http://www.triz-journal.com, November 2002.

 

 

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最終更新日 : 2006. 7.18.     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp