解説: SIT |
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発明思考法の原理
- SIT (構造化発明思考法) による「発明思考法の開発」コースの紹介 |
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Peretz Manor (イスラエル)
Regba通信 (Peretz Manor編集), 2000年12月 6日 |
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訳:
中川 徹 (大阪学院大学) 2002年 7月24日
掲載: 2002.10. . |
編集ノート
(中川 徹, 2002年 9月 27日)
本稿は, 2002年6月3日に, イスラエルのPeretz Manor氏から送られてきたものである。氏は, 小生のTRIZCON2002論文を読み, "I read it, and I like it"と書いてこの資料 (他若干) を送ってきた。氏が編集する"Regba 通信" (Regbaはイスラエル北部にある村の名前) に掲載したものであるという。イスラエルのOpen University が主催するSIT法 (構造化発明思考法) のコースの紹介の最初の部分である。ここには, イスラエルのSIT法 (TRIZを簡易化した方法) の根底にある考え方が明快に書かれている。「発明のための思考は, ランダムな発散的思考でなく, ある種の制約のもとの集中的思考である」という考えである。これが, 従来の (西側の) 「発想法」の諸技法と, TRIZとを区別し, そして, イスラエルのSIT法がさらに明確にした原理である。この原理は, Maimon & Horowitzの論文 (1997) で明確にされた。本稿はその考えを簡潔に分かりやすく述べている。(この考えはSickafusのUSITにも受け継がれている。)
小生は早速Perez Manor氏にメールをして, 本稿の翻訳と, 英文・和文でのホームページ掲載の許可を頂いた。その後多忙であったため, 訳が7月下旬, 掲載が10月になってしまった。このような貴重な原稿の和訳と掲載を許可下さったManor氏に感謝する。
著者: Peretz Manor (Regba, Israel): Email: peretz-m@bezeqint.net
発明思考法の原理
- SIT
(構造化発明思考法) による「発明思考法の開発」コースの紹介
Peretz Manor
Regba通信 (Peretz Manor編集), 2000年12月 6日
本稿は, イスラエルのOpen University のTAFNIT において開発された, 発明思考法の基本的な原理を記したものである。
発明思考法の原理
「発明的解決策」という用語が, 発明思考法の理論の中心に位置している。発明的な解決策は, 独創的で, 単純で, エレガントで, 驚くようなもので, 興味深いものである。発明的解決策を思いつく能力を向上させることは, 組織にとって, 大きな相対優位性をもたらすものと考えられる。特に今日では, 相対優位性を作り出す従来からのツール (知識を持っているとか, 財務的なてこ入れとか, 高水準のマンパワーだとか) が, もはや誰にでも手に入るものになっているので, 一層その意味が大きい。
問題解決を必要とするすべての分野で, 二つのタイプの解決策を区別できる。ありきたりの解決策と発明的な解決策である。二つのタイプの解決策の大きな違いの一つは, ありきたりの解決策の場合には, それに到達する方法が構造化され, (最適化とか, 類推だとかに) 再構築可能だけれども, 発明的解決策の場合には, その解決策にどのようにして到達するかが混沌としていることである。発明の過程を記したものは, 「突然のインスピレーション」, 「閃光のようなひらめき」, 「創造性の噴出」といった, 曖昧なものが普通である。発明者がその解決策を思いついたときの感覚をこれらが的確に表わしているかもしれないが, そのような記述は実際に何の役にも立たない。他の問題を将来解決するために発明の過程を再構築できないからである。
創造的な解決策を追い求めるのは, 非常に刺激的でチャレンジングである。創造的な解決策を探求する雰囲気を奨励したいと思う組織は, 生産的な作業環境を用意する。そのような環境を形成するには, 組織はそのメンバーに, より一層創造的なものを意識的に選択させるようなツールを提供しなければならない。「創造的であれ」と求めたり, ブレーンストーミングのセッションをするだけでは十分でない。ありきたりでないアイデアを奨励する自由な雰囲気もまた重要である。しかし, 発明の全過程を通して支援するしっかりしたツールがもしなければ, 新規なアイデアが現れるにしても, その質を保証することができない。[一方, われわれの] 発明的思考法を実装すれば, 解決策の質を保証するであろう。
創造性に対する非常に高い関心があるにもかかわらず, その研究が始まったのは比較的最近である。その理由は, 創造性というものが本来的に科学的研究の対象にならないテーマであると信じられてきたからである。このような信念を導き出したのは, 偉大な創造者たち自身であった。創造性は彼らに天が与えたものだと, 彼らは主張した。彼らの中のある者たちは, 自分たちが天上の力と人類との間の仲介者であるとさえ考えた。このアプローチはこの30年間で変化し, 今日では創造性は, 認知心理学をはじめとして, 人工知能などの他分野, そして, 工学, 宣伝, 科学などの特定の応用分野での, 正当な研究対象であるとみなされるようになった。
創造性の初期の研究では,創造的なアイデアを思いつく能力は多数のアイデアを思いつく能力と結びついており,その多数のアイデアからベストのものを選べばよいと結論づけられた。多数のアイデアを得ることを意図した思考プロセスは「発散的思考 (diffused thinking) 」と呼ばれる。研究の一つの成果として, 創造性テストというものさえ開発され, そこでは, 被験者は一つの問題に対して多数の解決策を提案することが求められた。そのようなテストの古典的なものが, 特定のオブジェクトに対して複数の利用法を見つけ出させるものである。
創造性を向上させるための技法で, 発散的思考から導かれたものは, その多くの部分で, ランダムな要素を一つの基礎にしている。これは容易に理解できることである。なぜなら, 数 (量) が多いことが大事なら, アイデアをランダムに作り出してもよいだろうから。また, これらの技法のもう一つの主要な要素は, 「判断の延期」という概念である。提起されたアイデアに対する判断は, すべてのアイデアを出してしまうまで延期しなければならないと考える。ブレーンストーミング, 強制類推 (forced analogies), 水平思考 (lateral thinking), 形態分析 (morphological analysis) などの技法が, 創造性は数 (量) に連結しているという仮定を基礎にした多くの技法の代表的なものである。創造性向上のためのワークショップとして今日知られているものの大部分が, これらの技法に依存していることに注意しておかねばならない。
発散的思考に基づく従来技法を調べてみると, 多くの場合に効果的でないことが分かった。研究の結果, ブレーンストーミングのセッションの参加者たちはグループでの思考に傾きがち (自然に生まれるリーダーのアイデアにチームの大部分が追随する) であり, 判断の延期がアイデアの創造的な質を向上させず, かえって質の向上を阻害する, といったことが分かった。 (他方 [後述のように] , 判断を先行させることが, 創造性をユニークに向上させることが分かった)。ランダムな発見の技法も, よい結果をもたらさなかった。ランダムな類推は新規なアイデアを思いつく助けにはならなかった。さらに, 優れて創造的な科学者たちが, 自分たちの思考プロセスを記述するのに, (発散的思考でなく) 集中的思考の方がより適切であると主張した。
近年, 研究が進んできて, 創造性は多数のアイデアを思いつく能力とは結びついていない, ことが分かってきた。特に創造的な人たちの思考プロセスを調査した結果, 彼らは自分で設定したゴールに向かって, 体系的に意図的に進んでいくことが分かった。この人たちは極めて少数の解決策だけを考えている。そして, 彼らの思考プロセスを望ましい道筋に向けて行く彼らの能力は, 創造的な解決策が備えるべき質を前もって見通して決定しておく彼らの能力の結果であるようにみえる。
創造的解決策を見つける方法で, このような研究の知見に一致するものが, 最近, Open University で開発された。「発明的思考法 (Inventive Thinking)」が, 創造的解決策を見つけるように問題解決者を導く方法として構成されたものである。通常の予想とは逆に, その方法は空想や自由な連想を奨励しない。また, 思考の束縛から解放しようとはしない。それらの反対である。その方法は問題解決者に, (自分からは設定しないような) 制限を強制する。このような制限が創造的解決策に彼を導くのである。この制限は問題を一層難しくするので, 解決策探索の途上で問題解決者はたびたび困難に出会う。そのときに, この技法は思考の道具 (戦術) を提供して, 困難を克服するのを助ける。
発明的思考法は, 古典的技法の基礎であった「判断の延期」の原理に従わない。目標解決策の方向を示す明確な判断基準が, 問題解決の初期段階でこの技法により提供され, それによって, 不適当な選択肢は不適当だと判断されて棄却される。その判断基準は, 解決策がどれだけ良いかを調べて判断するのではない (なぜなら, 問題解決の初期段階でそのような基準を予測することは不可能である)。そうではなく, その解決策がユニークでおもしろいか (すなわち, 発明的解決策の可能性があるか) を判断する。
創造性という用語は通常 3つの要素に適用される。創造的な人, 創造的プロセス, そして創造的解決策である。これらの用語は, 発明的思考法の一つの面を強調するのに役立つ。他の諸技法は直接的に人に働く (例えば, 快適な作業環境を用意したり, 創造性のために適した心理状態を用意したりする), あるいはプロセスに働く (例えば, 発散的思考の訓練を試みる)。 それに対して, 発明的思考法は創造的解決策に集中する。この方法の原理を使っている問題解決者は, 解決策を創造的にするためにどんな特性が要求されているかを決める。これをするのは, もちろん, 解決策がどんなものかを知る前である。だから, 発明的思考法は, 問題解決者に, どのように考えるべきかではなく, 何を考えるべきかを教えるのである。
発明思考法は, ロシア人科学者 ゲンリッヒ・アルトシュラーが開発した原理を基礎にしている。アルトシュラーはありきたりでない解決策に到達するのを助ける思考の枠組みを開発したいと望み,
ランダムな発想という考えを受け入れなかった。50万件のありきたりでない/発明的な解決策を調査し,
その解決策を見つける前の問題状況と比較した結果, 彼はつぎのような結論を得た。
(1) 発明的解決策は矛盾の克服を基礎にしている (矛盾とは, 解決策の中に共存し得ないように見える複数の要求をいう)。
(2) 発明的解決策は, 矛盾を克服するための有限個の方法を基礎にしている
(この方法とは, 思考のツールや戦術をいう)。
(3) さまざまのタイプの矛盾の間に共通点を見出し, それらの矛盾を克服する有効な戦術に到達することが可能である。
アルトシュラーの弟子, ゲナディ・フィルコフスキー (Genady Falkovski) が, アルトシュラーの考えをイスラエルにもたらせた。ゲナディはOpen University に職を得て, アルトシュラーの方法をさらに発展させた。ゲナディ・フィルコフスキー, および彼を継承した人々, ヤコブ・ゴールデンベルグ (Jacob Goldenberg) 博士, ロニ・ホロウィッツ (Roni Horowitz) 博士, ギディ・ギルダ (Gidi Gilda) 博士などの仕事によって, アルトシュラーのもともとの方法から, 一層効果的で, 単純で, 学びやすいものが作られた。その方法は最初, 技術問題を解決するのに使われていたが, 研究が進むにつれて, その方法の基礎にあるアイデアは普遍的なもので, さまざまな分野において創造的な解決策を見つけるのに役立つことが明らかになった。
近年, Open University は「マーケッティングと宣伝における発明的思考法」という新しいコースを開いた。現在までに, 発明的/創造的思考法に関して, 2編の博士論文が, テルアビブ大学工学部とエルサレム・ヘブル大学物理学部で作られた。「発明的思考法の開発」は, テルアビブ大学工学部の4年次生に対する学術コースである。このコースはまた, ワイツマン研究所で修士および博士過程の学生のための選択コースの一つとして提供され, さらに, エルサレム・ヘブル大学の経営・マーケッティング学部でも提供されている。
創造性研究の他の諸方法とは反対に, 発明的思考法は学界で尊重される立場を築き上げたのである。
著者紹介: Peretz Manor: イスラエルのTechnion Israel Technology Institue卒業, 機械工学専攻。通信システムおよびSIT法の企業適用についてのコンサルタントかつデザイナー。構造化発明思考法 (SIT) の基礎およびアドバンスコースを修得。TAFNIT (Moshav Shitufi RegbaにあるOpen University) が支援して開催するSITコースの, 運営・マーケッティング・内容設計について責任を持つ。 E-mail: peretz-m@bezeqint.net
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最終更新日 : 2002.10. 1
連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp