TRIZフォーラム: 学会参加報告(10):
ETRIA "TRIZ Future 2004" Conference: 
欧州 TRIZ協会主催 TRIZ国際会議
    2004年11月 3〜 5日, フィレンツェ, イタリア
     中川 徹 (大阪学院大学)
     2004年12月12日 (英文)  [掲載: 2004.12.14]
     概要和文 (2004年12月12日)  [掲載: 2004.12.14.]
 

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今回のETRIA 国際会議には日本から沢口学氏 (産業能率大学) と小生が参加した。学会で発表された論文を全編レ ビューして, 詳細な学会参加報告を英文ペーに掲載する。和文ではその概要だけをここに報告する。


   会議名称:  ETRIA "TRIZ Future 2004" Conference
                        (TRIZ Future 2004: 欧州TRIZ協会主催 第 4回TRIZ国際会議)
    日時:   2004年11月 3日〜5日 
    会場:    フィレンツェ, イタリア  (Convitto della Calza)
    主催:   ETRIA (欧州TRIZ協会)    Web site:  http://www.etria.net/
    共催:   イタリアTRIZ協会 (Apeiron)   http://www.apeiron-triz.org/en/index.html,
                 フィレンツェ大学機械工学科    (フィレンツェ大学: http://www.unifi.it/ )
    参加者:   125人  (うちイタリア 56人)
  プログラム概要:
              11月 3日 (水)    Tutorial  + シンポジウム  (事例研究)
              11月 4日 (木)    シンポジウム (基調講演, 発表)
                11月 5日 (金)    シンポジウム (基調講演, 発表) 

(1) 基調報告Victor Fey (米国): 「TRIZは高く飛ぶのに、どうして低く飛べないか?」  TRIZの (ロシアでの) 能力にもかかわらず、西側諸国で普及しない原因を考察している。TRIZをやさしくする可能性を議論した上で、「やさしくすることはTRIZの能力 を損なうものである」と結論している。「TRIZをいじるな (Don't touch TRIZ!)」。これはロシアの第1世代TRIZマスター達の保守主義を表現しており、ロシア出身の第2世代TRIZマスター達からも批判を受けていた。 技術システムとしてのTRIZが新しい世代に移行しつつあることを、古い世代が認識した表現といえるのかもしれない。
   第2の基調講演は、ドイツの Hansjuergen Linde。東独の時代にTRIZを習得し、現在ドイツで活発に活動している。技術のらせん状の進化の中で、進化のボトルネックを認識し、 その矛盾を解決 して、新しい商品・サービスを開発していくための戦略を述べる。

(2) 企業での実践の面では、中小企業への普及のためにTRIZをやさしく する方法の開発と適用実践が進んでいる。オーストリアのISAACプロジェクト (Graz大学、IMG (オーストリアのコンサルティング企業)、CREAXなどの共同) が注目される。問題定義、機能分析の後に、進化のトレンドを使ったアイデア出しに集中し、アイデアの選択・評価を行う。韓国工科大学のKyeong- Won Lee助教授の、「誘蚊灯 (Mosquito Trap)」の発表は非常に面白い。 蚊を遠ざけるのではなく、蚊を炭酸ガスで誘引して、吸い込んでしまう。物質-場モデルで、「蚊と人間の間に挿入する、人間の代わりになるもの」として、こ の炭酸ガ スを説明する。酸化チタンの光触媒を使い、空気中の微量の有機物を分解して炭酸ガスを生成する。牛小屋の近くで一晩に1万匹の蚊を捕獲したという。 Vareli Souchkov のオランダでの活動、Ellen Dombが発 表した「製薬業における技術移転 (新薬の発見から、製造、動物・臨床試験、商品化への進展) への基本的なTRIZの適用」なども興味深い。

(3) 諸方法との統合と いうテーマの中で、Sergei Ikovenko が「Lean Thinking」との統合のやり方を報告した。これは、日本で川崎製鉄にコンサルティングを行い、同社の開発製造過程のさまざまな所にTRIZの考え方 を導入して、プロセスの簡易化、コスト削減、信頼性・安全性の向上などに多大な成果を挙げた結果を反映したものであるという (技術的内容は伏せられている)。

(4) TRIZの方法の開発の 面では、Simon Litwin (GEN3 Partners、米国) が「機能指向探索 (Function Oriented Search)」を強調した TRIZPlusの方法を述べている (より詳細はTRIZCON2004報告参照)。Simon Dewulf (CREAX, ベルギー) は、進化のトレンドの中に発明原理を取り込んで、さらに簡略化したやり方をソフトに取り入れている。(TRIZのいろいろな方法や原理の中で、進化のトレ ンドの表現が最も直感的で、発想を刺激するというのがいろいろな人が感じていることのようである。) また、スポンジは固体の中に気体が入っているが、それを逆転させて気体の中に固体が入っていると考えたものは粉末である。このような、逆転 (あるいは対称性/対照) を系統的に考えた図を Dewulfが示しており、簡単だが興味深い。

(5) ヨーロッパでは、大学でのTRIZ研究と産学共同の実践活動が進んで いると同時に、大学での学生に対するTRIZ教育 (創造性教育) もいろいろ試行されている。特に、チェコの二つの工科大学での、Pavel Jirman Bohuslav Busov による教育実践が注目される。学部の選択科目であるが、TRIZの考え方をきちんと講義し、セミナーでの教科書問題での演習、そして未解決問題でのプロ ジェクト研究を行っている。事例を中心にした教育、特に教師が身近な新しい問題とその解決法を常に提示していくことが大事であるという。ガラス器の製法に 関する問題など 3例が、学生の研究成果として例示された。

(6) 中川は、USITについて発表し、USITがTRIZをやさしくした のは、TRIZに新しい「全体的な構造」を持ち込んだ点が大きく寄与していることを述 べた。よく知られている「問題解決の4駒モデル」では、ユーザの具体的問題を、類比によって「(既存の) モデルの問題」に写像しようとする。USITは、より明確な問題定義と問題分析の方法を持ち、ユーザの問題をきちんと分析して、ユーザの問題ごとに「問題 の本質の理解」を作り、それにUSITオペレータを適用して新しいアイデアを出す。USITでは類比思考が要求するようなモデルの選択とモデルごとに違う 分析法を必要としない。ETRIAで何人かの人たちから、明快な説明であったと言っていただいた。論文はすでに英語と日本語で掲載済である。

(7) ETRIA での最も大きな成果は、「ヨーロッパが、大学とコンサルタント企業とユーザ企業とがうまく連携しつつ、着 実にTRIZを定着させつつある」ことを改めて感じたことである。新しい世代のTRIZが、あちらこちらで育ちつつある。もちろん日本でも育ちつつある が、その研究と実践をさらに強化して行かなければならないと思う。

なお、以下の5編の論文の和訳と英・和での『TRIZホームページ』 掲載を各著者から許可いただきました。和訳にご協力いただける方がおられましたら、ぜひご連絡下さい。

(1)  Hansjuergen Linde, Gunther Herr (ドイツ): 基調講演 'Pofessional strategic innovation contra innovationmanagement - only-'
(2)  Kyeong-Won Lee (韓国): 'Development of new mosquito traps by using Substance, Field and Resource analysis'
(3)  Valeri Souchkov (オランダ): 'Innovative Enterprise Infrastructure'
(4)  Pavel Jirman and Bohuslav Busov (チェコ): 'Case studies of TRIZ application in the diploma thesisin Technical Universities Czech Republic'
(5)  Manfred Pritsch, Hans Lercher (オーストリア): 'Implementing TRIZ based product concept development in Austrian SMEs'

今回のETRIA国際会議のProceedings (PDF版) の購入、および発表スライド全件 (PDF版) の購入に関しては、イタリアTRIZ協会 (Apeiron) のWebサイトで案内される予定です。

来年の ETRIA 国際会議 "TRIZ Future 2005" は、オーストリアの Graz で 10月〜11月に開催の予定です。ETRIAの Webサイトに近くアナウンスされるでしょう。欧州・米国・そしてアジアの動きを自分で見聞きし、肌で感じることはやはり大事なことだと思いま す。

 
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 最終更新日 :   2004.12.14.    連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp