高原論文 [49] CGK 2018 | |
個人の幸せと世界の価値実現、その両立の成立時期 |
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掲載:2020. 1. 14; 更新: 2021.12.23 |
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編集ノート (中川 徹、2020年 1月 12日)
本ページは、高原利生さんの2018年の論文です。「個人の幸せ」と「世界の価値」(その個人をとりまく社会、国、全世界のレベルでの客観的な価値)とをどうすれば両立して実現できるのか?という、人生にとっても世界にとっても非常に根源的な大きな問題をとり上げています。
目次 (論文先頭)
謝辞
論文 [49] PDF | 高原利生論文集(第5集) 高原論文2018-2019 |
論文 [49] CGK 2018 論文 [49] PDF
高原 利生 (−)
The Time to Realize the Way of Life in Which
Happiness and Objective Value of the World are Compatible
TAKAHARA Toshio (-)
第69回電気・情報関連学会中国支部連合大会(CGK2018)、 R18-27-15
『TRIZホームページ』掲載、2020年 1月14日
注: 表記について:
過去に述べた内容と他文献からの引用は青字で示す。
緑字は例または注を示す。
濃赤字は 強調 を示す。
下線は、文章上の単語の強調か、課題を示す。
1 はじめに:生き方 [FIT2013,16,17,18] [IEICE2018]
人の生き方の検討を行ってきた[FIT2017,18] [IEICE2018]。本稿はこれらに続く検討である。これら「大きな問題」[IPSJ2017]についてのAI(人工知能)の課題も述べる。
理想の生き方は、主観的幸せと世界の客観的な価値実現が両立した生き方である[THPJ2018/1-4]。片方だけでは足らないのは自明なので、これは、当然の前提と考える。しかし内容が抽象的かつ曖昧である。
人が生きることは、価値を実現するために、
1. 感情,潜在意識[ES],態度と、
2. 論理によって、認識や行動という外界とのやり取りをすること、
と単純に考える。感情,潜在意識,態度は、後天的に作られた世界観に規定される。価値は、「種の存続−個の生持続−個の生の属性の向上」というこの順に次第に小さくなる連鎖の系列ととらえる。
この価値の実現を行うのが生き方である。最後の「個の生の属性」の内容はまだ不明確である。これらの価値は、今までの人類の歴史という事実の総括による世界観が作る。価値や態度を決める世界観と論理(方法)は、従来、哲学と言われてきた。(3までは既発表内容をまとめる。)
2. 論理,方法は矛盾モデルと根源的網羅思考 [THPJ2012] [FIT2013, 16]
世界観、論理(方法)が哲学であった。思考の論理,方法として矛盾モデルと根源的網羅思考を提案している。これは、物事の始まりと運動,変化を扱う論理である。
世界も人の行動も、運動の集合体と考え、「項1−関係(運動)−項2」という矛盾モデルの集合体で近似する。
大きく二種の矛盾がある。一つは二項の差をなくす変化,変更で、もう一つは二項の両立を目指す運動である。前者は、差異解消矛盾といい通常の変化,変更であり、後者は、弁証法の通常の矛盾で(両立)矛盾という。この(両立)矛盾の特別の形に一体型矛盾がある。二項を変化させつつ永続運動をする矛盾である。
根源的網羅思考は、内容的には、粒度を管理し、矛盾モデルの運用、運動により、事実と価値のより大きな全体と本質、価値を求め続ける思考である。粒度とは、認識、変更の影響の及ぶオブジェクトの空間、時間、属性の範囲である。問題にしている「価値」の粒度は、どの空間範囲の誰・何のための、いつの時間範囲の、どのような属性内容の価値であるかである。根源的網羅思考は、方法的には、仮説を立てそれを検証する過程を続ける、演繹や帰納を包含する思考である。そのため、相互規定し合うオブジェクト、粒度、網羅の三つの概念で全てを再把握する。
矛盾モデルの内容を具体的に決めるのは粒度である。世界も人も、複数の矛盾モデルの集合体で近似することが多いので、思考の殆どは、関連する複数の矛盾が同時に成り立つ粒度を決めることである。複数の矛盾が同時に成り立つということは、各矛盾の全ての時間、空間、属性の粒度が両立するということである。
3 世界観が決める生き方の原理、価値観 [FIT2017, 18] [IEICE2018] [THPJ2018/1-4]
世界観と論理(方法)が哲学であった。世界観とは、人とその外界からなる世界の、過去、現在、未来の像である。
「種の存続−個の生−個の生の属性」という連鎖の中の「個の生の属性」は、生き方によって動的に得られる価値で、生き方と同時に得られる運動,矛盾である。
準備と仮説:
1.全体が、Aと、単なる非AではないBで網羅されているとき、その全体に関して、Aの(真の)反対はBであるということにする。
2.論理的に、人と対象との関係は、対象を人と切り離した対象として操作する関係と、その反対、人と対象を一体として扱う関係で網羅されている。
3.生きる上で最も根本的な矛盾は、今の人の態度、行動の根本を現に決めている対象化とその反対、一体化の矛盾であり、その解はこの二者の弁証法的止揚である。
4.ヘーゲルの弁証法によると歴史と論理は大きな粒度で一致する。真理は、論理的に正しくかつ歴史的に確認されたものでなければならない。
歴史を展望して対象化と一体化を探す。
この闘いをどう解決すべきかが集団のリーダーの悩みの種だった。約六千年前のある時、物々交換という偶然の解決策が得られ広まっていく。物々交換は「所有」というあるものを自分(達)に引き付ける一方向一体化概念の成立後に生まれた。「所有」が最初に生まれた一体化だった。
それから約二千年経ち、今から約四千年前、増えた多くの個をまとめるために集団や神への「帰属」が始まる。これはあるものに自分(達)を引き付けるもう一つの一方向一体化である。こうして、対象化と「対」になる「所有」や「帰属」という初歩的な一方向の一体化が生まれ、共同観念による制度ができ文化が誕生する。これが対象化と一方向一体化の矛盾の始まりである。
化石燃料利用による産業革命、資本主義は、対象化を急速に発展させ人の価値を高めたが、対象の価値を高めなかった。対象の価値を高める原理が要る。こうして双方向一体化によって対象の価値を高め、同時に対象化の問題も解決する必要があることが明きらかになった。
農業革命後の人類の歴史を総括した結果、今後の生き方を規定する基本法則、原理は、対象化と一体化、批判と謙虚さ、自由と愛の矛盾であると分かった。この三つはほぼ同じものである。[FIT2017, 18] [IEICE2018]
対象化は、対象を自分と切り離した対象として操作する態度と行動である。
対象化の価値を、対象を変更する能力である自由としている。操作できる力が大きいほど、人はより自由になる。
批判は、否定でなく双方の意見の弁証法的止揚である。
一体化、愛は、自分と対象を一体として扱い、双方の価値を高める態度と行動である。対象は、人に限らない。
一体化の価値は、自分と対象を一体として扱う愛の広さ、強さである。[FIT2016, 17, 18] [IEICE2018]
誠実さと、偽善,欺瞞でないことが、前提である。
論理と歴史の二面から問題が定式化できた。しかし、解決は今後の課題である。
4 生き方の原理,価値観の成立時期と歴史的変容
理想の生き方は、主観的幸せと世界の客観的な価値実現が両立した生き方である[THPJ2018/1-4]。
対象化、媒介化、間接化が、人に意識を起こさせる。
対象化、媒介化、間接化は、生命の知覚、操作の開始を経て、次のように進んで行く。年代は世界での始まりの時期であり地域差がある。第一段階: 200万年前の道具、言葉の利用開始以降。
第二段階: 10万年前の火の利用開始以降。
第三段階: 1万年前の農耕開始以降。
第四段階: 6千年前の物々交換開始以降。
第五段階: 4千年前の文化・文明の誕生以降。初歩的生き方の原理の誕生。
第六段階: 今の資本主義の時代から今後。対象化と一体化、自由と愛の矛盾を解決する生き方の原理の完成。
新しい意識的生き方には、[個の主観] と [客観の全体] の差の意識が必要である。それはいつ生じたか?
主観と客観の原型は、第一段階の言葉や道具の使用と同時期、約二百万年前に産まれた。言語、初歩的な道具の使用という対象化は、主観と客観の原型を作る。しかし生まれた当初、主観は初歩的で、客観と主観は矛盾ではなかった。単なる一般的抽象的静的関係に過ぎなかった。
第三段階:一万年前の農耕開始が、対象化の新しい段階を生んだ。
第四段階:六千年前の物々交換開始で、対象化の反対概念、一方向一体化「所有」ができた。
第五段階で、人と外界の間に文化・文明が誕生した。これは、外界に働きかけるのを、道具を媒介して行う技術,共同観念を媒介して行う制度、認識を、体系的に行う科学,一体的に行う芸術の四つからなる。進化だけの他の生命と異なり、価値増大が、文化・文明の四つの要素の媒介化手段により行われるようになった時期が、個と全体の差の意識誕生時期である。これ以降、意識的に制度など文化・文明による社会変更などが行われていく。この時期の文化・文明の運動は、対象化と一方向一体化の矛盾であった。この間、政治は、宗教と独裁政治の並立が一貫している。
四千年経ち、今、第六段階で、対象化と一体化の矛盾の解決という定式化ができた。物々交換後、六千年かかって、主観的幸せと世界の客観的な価値実現の両立が見通せる課題になった。抽象的な主観と客観の統一が、労働と生活の中での、個人の一瞬の生き方の理想である、対象化と一体化の統一、自由と愛の統一、批判と謙虚さの統一によって実現できる可能性ができた。
この解決が今後の課題である。解がポスト資本主義の原動力になる可能性がある。
以上は、ユバル・ノア・ハラリ [YNH2011] などとの違いである。そもそも、ハラリやアドラーには、主観的幸せと世界の客観的な価値実現の両立を求める意識がない。
5 課題
解決の課題例を二つ述べる。
例1: 労働を、対象化と一体化の統一により、利益を増すための合理性に加え、全ての人間や対象の価値を増すことも目的とするようにする。労働条件改善が問題ではない。
例2: 思考や議論を、批判と謙虚さの統一により、過去の自分、相手の考えの弁証法的止揚に変える。
この二つは、全く実現されていないが、ほとんど、豊かな生き方の全てである。
「大きな問題」 [IPSJ2017] に問題定式化や解決がないのが今である。本や書かれたものには答えがない。根源的網羅思考により、常に相対化を行い、常により上の価値、事実把握を行い解決を行う必要がある。
問題には矛盾の粒度を見つけることが必要だが、オブジェクト、粒度、網羅は同時に決まる三項の矛盾で、無数の組み合わせがある。故に問題は殆ど潜在意識が解いている [ES]。定式化できた一部がAI化されている。
また、実現すべき理想,実現の目的と事実の構造の差の意識、今の事実の全体の中の位置の意識が薄い。そのため人にもAIにも難しい。[THPJ2018/4]
今回の問題のAI化の課題を述べる。人の課題でもある。
1. 抽象的で大きな法則を発見することが難しい。
2. 大きな問題を分割し個々に展開して行くと全体像が分からなくなる。そこから生じる複数の粒度の同時成立の定式化を求め哲学の再把握を行ったのが [FIT2016, 17, 18] [IEICE2018] [THPJ2018/1-4] と今回であった。これは人にもAIにも難しく、哲学は常に再把握を続ける必要がある。
3. 時間が経つに従い、概念が変化していく問題だった。概念変化が起こる条件、内容の定式化も、一体型矛盾の今後の課題である。
謝辞
いつもご支援を頂く中川徹大阪学院大学名誉教授に深く御礼申し上げる。
参考文献
[YNH2011] ユバル・ノア・ハラリ「サピエンス全史, 文明の構造と人類の幸福」河出書房新社2016. (原著2011, 英訳2014)
[ES] Ed Sickafus, "Subconscious Problem Solving Using Hazy Heuristics", International Journal of Systematic Innovation, ICSI2015, Vol. 3, 2015.
他の引用資料は、中川徹教授のウェブサイト「TRIZホームページ」「学会等発表・研究ノート・技術ノート」http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/indexGen-Paper.html#paper0中の高原利生論文集1-参照
[FIT2013] 高原利生, "世界構造の中の方法と粒度についてのノート", FIT2013. D-001, Sept. 2013.
[CGK2017] TAKAHARA Toshio, "Radical Enumerative Thinking and Contradiction as the Way of Life", CGK, R17-25-07, 2017.
[IEICE2018] 高原利生, "矛盾モデルと根源的網羅思考による人類史の論理と価値実現", 2018信学総大, A-12-1, Mar. 2018.
[FIT2018] TAKAHARA Toshio, "Logical Possibility of Ideal Way of Life; Barter as a Background of Homo Sapiens", FIT, N-018, 2018.
[THPJ2018/1-4] 高原利生, "未完成の哲学ノート(2018年)−矛盾モデルと根源的網羅思考による人類の生き方の基本原理についてのノート−", 中川徹TRIZホームページ, 2018. 投稿中。
論文 [49] PDF | 高原利生論文集(第5集) 高原論文2018-2019 |
最終更新日: 2021.12.23 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp