基調講演: 科学のためのTRIZ


科学機器の進化および科学への応用における発明の方法論

Andrei A. Seryi (オックスフォード大学、加速器科学のためのJohn Adams研究所、英国)
欧州TRIZ協会(ETRIA) TRIZ Future 国際会議 (TFC2017)、基調講演、
2017年10月5日、ラッペエンランタ工科大学、フィンランド

和文紹介: 中川 徹 (大阪学院大学), 2017年10月14日

掲載: 2017.10.17

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  編集ノート (中川 徹、2017年10月14日)

本件は、先週のETRIA TRIZ Future 2017国際会議で発表された、Andrei Seryi 教授による非常に印象的な基調講演です。Seryi 教授はその発表スライド(PDFで110枚)を本『TRIZホームページ』に掲載することを許可くださいました。スライド枚数が非常に多いので、私はこのHTMLページを作り、新たに節見出しをつけてスライドをGIF画像で一覧できるようにしました。より鮮明で詳細な図は、元のPDFファイル(英文)で参照ください。
これらのスライドを和訳掲載することの許可を教授からいただいておりますが、随分と時間を要すると思います。そこで、とりあえずここに編集ノートと目次を和文にし、スライドは英文のままですが、和文の節見出しをつけて掲載することにいたします。
(注: ETRIAは本国際会議の論文を適当な出版社から本または電子ジャーナルとして出版することを計画しており、そのために各著者にその論文/スライドをWeb サイトなどに掲載しないように指示しております。ただし、基調講演はこの出版計画に含まれていませんので、各著者の判断によりWebサイトなどに掲載することを許可しています。)

Seryi 教授は旧ソ連のノボシビルスク近郊の生まれです。子どものころ、雑誌などでサイエンスフィクションや発明クイズなどを読むことが好きだったとのことで、その中にはHenry AltovというペンネームでTRIZの創始者Genrikh Altshullerが書いたものも多くあったことでしょう。1986年にノボシビルスク国立大学 (NSU) 物理学科を卒業し、また物理学の博士の学位を得ています。その後、Budker核物理学研究所(ロシア、1982-1997)、Saclay 原子核研究センター(パリ近郊)、フェルミラボ(シカゴ)、スタンフォード線形加速器センター(1999-2010)、オックスフォード大学(2010-) などにおいて、高エネルギー物理学の諸分野で仕事をしています。
オックスフォードでは、John Adams 加速器研究センターの所長として、高エネルギー物理学の用途についてより真剣に考え、また科学研究における創造性の方法論を教えることを始めたと言います。そして、教授はTRIZに再会し、その深さを知ることになりました。教授は2015年に『加速器、レーザー、プラズマの物理学を統合する』という本を出版し、物理学のこれらの3分野での教授の研究と洞察のすべてを統合して記述しています。

基調講演で話されたのは、科学一般について仕事をし、あるいは興味を持っている人たちのために、教授の考えを簡潔に説明したものです。 この講演は、最先端の物理学のための科学装置について詳細に記述した図などを含んでいます。その背景にある物理学を理解するのは困難だとあなたは感じられるかもしれません。わたしもそう感じます。 しかし著者は、議論すべき本質的な点をはっきりとまた平易に示しています。 例えば、将来を予測するには注意が必要!、さまざまな研究の方向を評価するには、根本的な科学知識の探求目的だけでなく、その有用性についても、コストについても考慮するべきだ、などです。

TRIZの使い方についての著者の洞察もまた大変深いものです。40の発明原理についてのいくつかの易しい説明に加えて、発明原理35「パラメータの変更」については特によく説明されています。 体積Vや表面積Sなどの単純なパラメータを使う代わりに、その比V/Sを使うと、パラメータ値の変更はわれわれに多くの刺激を与えてくれます。また、考察の枠組みを変えること、そしてガウスの発散定理をも、この「パラメータの変更」の原理と関連させて説明しています。
「反システム」というTRIZの概念もまたあまりなじみがないかもしれません。霧箱(Cloud chamber) (すなわち、過冷却の気体中で高エネルギー粒子が液滴を生成することを利用した高エネルギー粒子検出器)を知れば、その「反システム」として泡箱(Bubble chamber) (すなわち、気体を飽和させた液中で、高エネルギー粒子が気体の泡を生成することを利用した高エネルギー粒子検出器)を考えつくことができただろう、といいます。
「スーパーシステムへの移行」という概念もまた、(技術)システムの進化を理解する上で大事なTRIZの概念です。新しい方法やツールは、多数の構成要素を組み込んで一つのシステムとして実現されます。そしてそれが有用になるのは、社会的、ビジネス的、技術的などの目的のより大きなシステム(上位システム、すなわちスーパーシステム)の一部として働くときだけです。

「TRIZは科学にとって有用になり得る。インスピレーションを与えるものとして、非常に効果的な諸技法のツールボックスとして、異なる学問分野を結びつける方法として、そして世界を見る新しい見方として。」 −−これがSeryi 教授の結論です。それは、物理学の最先端で多くの業績を挙げ、そしてTRIZをマスターした、一人の指導的科学者の証言です。TRIZが広く理解され、多くの研究者や技術者によって、科学の諸分野で実地に活用されることを願っています。 -- 本件の優れた基調講演とその掲載許可に対して、著者 Seryi 教授、ETIRIA、およびTRIZCON2017組織委員会に厚く感謝します。

基調講演の際に私はつぎのような質問をしました。 「非常に印象的なご講演をありがとうございます。先生は「科学のためのTRIZ」について話され、科学機器(装置)の進化について、TRIZの観点から多数の事例と洞察を示されました。 科学のための装置を設計し建設することは本質的には工学の性格を持ちますから、工学を起源とするTRIZが支援できることは自然なことと思われます。 それで、「科学的革命はツールによって駆動される」という観点で、TRIZが科学をよく支援できることは分かります。 一方、ご講演の最初に先生は、「科学的革命は概念によって駆動される」というもう一つの観点にも言及されました。今回のご講演で話されました洞察の内のいくつかは、この概念駆動という性格にある程度の関連があるように、私には思われます。TRIZが概念駆動のやりかたで科学に貢献する可能性について、先生はどのようにお考えでしょうか?」
--- (中川) これは現在まだよく分かっていない問題です。TRIZの思想家の人たちのよい文献を見つけ、自分でもさらに考察したいと思っています。(なお、 本ホームページでは、昨年8月に「学術界における「創造的な研究の方法」とは?「創造的な問題解決の一般的方法論(CrePS)」は寄与しうるのか?」という題で、某先生と私の問題提起/討論を載せています。参照いただけますと幸いです。)

 

  スライドの目次 (作成: 中川 徹)

科学機器の進化および科学への応用における発明の方法論

Andrei A. Seryi  (オックスフォード大学)、ETRIA TRIZ Future Conference 2017、基調講演、 2017年10月5日、フィンランド

 

タイトル:  科学機器の進化および科学への応用における発明の方法論

1. はじめに

2017年度のノーベル物理学賞
科学革命を何が駆動するのか?
ツール駆動の科学
将来と科学の予測 -- 注意が必要
将来と科学の予測 -- 方法論が必要

2.  科学機器の進化 -- 進化のパターンや原理を見つけることができるか?

TRIZの観点から科学機器を見る動機
高エネルギー物理学のための二つの科学装置
スタンフォード e+e- 線形加速器(SLC)
LIGO(レーザー干渉計重力波観測所) -- 極端に高い感度の要求
極端に高い安定性と感度の要求
CLICの安定性とLIGOの感度を達成するための「入れ子の原理」
詩歌やSF詩歌に現れる「入れ子の原理」

3. 科学と社会のための加速器

科学と社会における加速器の位置づけ
霧箱と泡箱 -- システムと反システムの例
加速器の集束方式 -- システムと反システムのもう一つの例
         (弱集束加速器、弱集束と強集束、強集束)
誘導放出抑制顕微鏡(STED)(2014年度ノーベル化学賞) -- 「入れ子原理」と「システム-反システム原理」の例
線形加速器の相互作用領域 -- 外部の場を打ち消す(「入れ子原理」と「システム-反システム原理」のもう一つの例)

4. 発明する方法 -- TRIZ(発明問題解決の理論)

TRIZの簡単な紹介
TRIZを科学に使えるか? -- Yes. 非常にうまく。ただし、いくつかのコメント
科学のためのTRIZ -- 「科学のためのTRIZ」を創る試みとしての著作

5. TRIZの40の発明原理 -- 加速器科学における分かりやすい事例

簡単な紹介
発明原理1. 分割 -- 多葉の鋼板で作ったコリメータ
発明原理3. 局所的品質 -- Nb被覆した銅製キャビティ
発明原理8. 反対の力(による釣り合い) -- 中性粒子ビームによるプラズマの加熱
発明原理18. 振動と共鳴 -- 確率冷却法と光確率冷却法
発明原理20. 有用作用の継続 -- 満タン注入法
発明原理21. 高速実行(スキッピング) -- γ-tジャンプ法で遷移エネルギーを越える
発明原理26. コピー -- シンクロトロン放射の形状モニター
発明原理34. 排除と再生 -- 半導体の可飽和吸収ミラー(SESAM)
発明原理35. パラメータの変更 -- 広く、かつ深い意味で、有用である
         (体積/表面積の比のパラメータの変更; V/Sパラメータの変更は物理学の基本的な対称性(ガウスの発散定理)を想起させる; 
           パラメータの変更は座標系の変更をも含んでもよい)

6. 衝突型加速器とTRIZの原理

2013年度ノーベル物理学賞: ヒッグス粒子の発見 -- ヒッグス粒子と超伝導 (異なる領域での同じ問題と同じ解決策)
加速器の進化 -- 概観
推計の技法 -- 科学装置の発明において不足している重要な技法
加速器の進化 -- 装置の大型化に伴うコストを考慮せよ
ニュートリノ実験の進化
重力波検出装置の進化
衝突型加速器を従来方式で次期巨大システムを建設できるか?
次期衝突型加速器をプラズマ加速方式で作れるか? -- 発明原理27. 高価な長寿命より安価な短寿命

7. 光源の一層の進化

異なる研究方向の重要性を評価するための指標 -- 根本の知識の探求 vs. 有用性
シンクロトロン放射(SR)光源 -- その有用性
レーザー-プラズマ加速ビームを用いた撮像
コヒーレント・シンクロトロン放射光源(自由電子レーザー(FEL))
光源の一層の進化 -- TRIZの進化の一般法則(スーパーシステムへの移行)

8. 結論 -- TRIZは科学にとって非常に有用である

 

 

本ページの先頭

スライド目次

スライド(英文) PDF (12.7 MB) 1. はじめに 2. 科学機器の進化 3. 加速器 4. TRIZ 5. 40 の発明原理 6. 加速器とTRIZ 7. 光源の進化 8. 結論   英文ページ

 


 

  基調講演スライド                 ==> PDF (英文)  (112頁、12.7 MB)

科学機器の進化および科学への応用における発明の方法論

Andrei A. Seryi  (オックスフォード大学)、ETRIA TRIZ Future Conference 2017、基調講演、 2017年10月5日、フィンランド

 

タイトル:  科学機器の進化および科学への応用における発明の方法論

 

1. はじめに

2017年度のノーベル物理学賞

科学革命を何が駆動するのか?-- ツール駆動の科学

将来と科学の予測 -- 注意が必要

将来と科学の予測 -- 方法論が必要

 

2.  科学機器の進化 -- 進化のパターンや原理を見つけることができるか?

TRIZの観点から科学機器を見る動機

高エネルギー物理学のための二つの科学装置

スタンフォード e+e- 線形加速器(SLC)

LIGO(レーザー干渉計重力波観測所) -- 極端に高い感度の要求

極端に高い安定性と感度の要求

CLICの安定性とLIGOの感度を達成するための「入れ子の原理」

詩歌やSF詩歌に現れる「入れ子の原理」

 

 

3. 科学と社会のための加速器

科学と社会における加速器の位置づけ

霧箱と泡箱 -- システムと反システムの例

加速器の集束方式 -- システムと反システムのもう一つの例    

弱集束加速器

弱集束と強集束

強集束

誘導放出抑制顕微鏡(STED)(2014年度ノーベル化学賞) -- 「入れ子原理」と「システム-反システム原理」の例

線形加速器の相互作用領域 -- 外部の場を打ち消す(「入れ子原理」と「システム-反システム原理」のもう一つの例)

 

4. 発明する方法 -- TRIZ(発明問題解決の理論)

TRIZの簡単な紹介

TRIZを科学に使えるか? -- Yes. 非常にうまく。ただし、いくつかのコメント

科学のためのTRIZ -- 「科学のためのTRIZ」を創る試みとしての著作

 

 

5. TRIZの40の発明原理 -- 加速器科学における分かりやすい事例

簡単な紹介

発明原理1. 分割 -- 多葉の鋼板で作ったコリメータ

発明原理3. 局所的品質 -- Nb被覆した銅製キャビティ

発明原理8. 反対の力(による釣り合い) -- 中性粒子ビームによるプラズマの加熱

発明原理18. 振動と共鳴 -- 確率冷却法と光確率冷却法

発明原理20. 有用作用の継続 -- 満タン注入法

発明原理21. 高速実行(スキッピング) -- γ-tジャンプ法で遷移エネルギーを越える

発明原理26. コピー -- シンクロトロン放射の形状モニター

発明原理34. 排除と再生 -- 半導体の可飽和吸収ミラー(SESAM)

発明原理35. パラメータの変更 -- 広く、かつ深い意味で、有用である

体積/表面積の比のパラメータの変更

V/Sパラメータの変更は物理学の基本的な対称性(ガウスの発散定理)を想起させる

パラメータの変更は座標系の変更をも含んでもよい

 

 

6. 衝突型加速器とTRIZの原理

 

2013年度ノーベル物理学賞: ヒッグス粒子の発見 -- ヒッグス粒子と超伝導 (異なる領域での同じ問題と同じ解決策)

加速器の進化 -- 概観

推計の技法 -- 科学装置の発明において不足している重要な技法

加速器の進化 -- 装置の大型化に伴うコストを考慮せよ

ニュートリノ実験の進化

重力波検出装置の進化

衝突型加速器を従来方式で次期巨大システムを建設できるか?

次期衝突型加速器をプラズマ加速方式で作れるか? -- 発明原理27. 高価な長寿命より安価な短寿命

 

 

7. 光源の一層の進化

異なる研究方向の重要性を評価するための指標 -- 根本の知識の探求 vs. 有用性

シンクロトロン放射(SR)光源 -- その有用性

レーザー-プラズマ加速ビームを用いた撮像   

コヒーレント・シンクロトロン放射光源(自由電子レーザー(FEL))

光源の一層の進化 -- TRIZの進化の一般法則(スーパーシステムへの移行)

 

 

8. 結論 -- TRIZは科学にとって非常に有用である

本ページの先頭

スライド目次

スライド(英文) PDF (12.7 MB) 1. はじめに 2. 科学機器の進化 3. 加速器 4. TRIZ 5. 40 の発明原理 6. 加速器とTRIZ 7. 光源の進化 8. 結論   英文ページ

 

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『TRIZ 実践と効用』シリーズ

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最終更新日 : 2017.10.17    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp