フォーラム: 問題提起と討論

学術界における「創造的な研究の方法」とは?
「創造的な問題解決の一般的方法論(CrePS)」は寄与しうるのか?

問題提起: 某先生、2016年6月26日
応答:  中川 徹 (大阪学院大学)、2016年6月30日

討論: 片平 彰裕

掲載: 2016. 7.31; 8. 6; 8.28          
英文ページ: 掲載: 2016. 8.6

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  編集ノート (中川 徹、2016年 7月27日)

本件は、先輩の大先生からいただきましたコメント(問題提起)と、それに対する私の取り急ぎの応答から構成しています。

そのテーマは、最先端の学術研究、創造的な学術研究において、その一般的なかつ汎用的な研究方法、「創造的な研究を行う方法」があるのか?ということです。学術界(アカデミア)で沢山の研究が行われ、成果を挙げているが、「創造的な研究を行う方法」といったものの共通理解は知られていない、といいます。

TRIZ や CrePS などの方法論が、はたして学術研究を推進する方法として、何らかの意味をもつのか?と問いかけられています。

大事な大きな問題ですので、ここに独立ページとして取り上げます。

日本でも世界でも、TRIZ その他の創造性技法 は、学術界にほとんど浸透していません。残念なことです。私の返答も、まだまだ中間的なものでしかありません。

これから両者の立場からの議論を深められるようにしていきたいと考えます。ご寄稿をお願いします。

追記(2016. 8.27 中川 徹): 問題を提起し、ご意見をいただくための質問状1枚を作りました。添付します。

 

本ページの先頭 問題提起

中川の応答

問題提起と寄稿のお願い 討論     読者の声(2016.6−7) 英文ページ

 


 

 問題提起 (要旨)   某先生 (2016年6月26日)        (掲載: 2016. 7.31)

科学の最先端の創造的な(独創的な)研究が沢山、TRIZとか創造性技法とかとは関係なしに達成されている。

また、そこでは、誰にでも使える/いつでも使えるような簡単な「創造的な研究を行う方法」があるとは考えられていない。

科学の最先端の人たちで集まって「創造的な研究の方法論」に関連して(より広いテーマで)複数回のシンポジウムを開き議論したことがあるが、共通の方法論があるという認識にはならなかった

これらの経験から、TRIZの技法や新しいCrePSという方法論については(その方向をおぼろげながら理解しているつもりであるが)、最先端の科学の研究方法に直接的に深く関係しているとは思えない。

 


 応答1. 中川 徹 (2016年 6月30日)        (掲載: 2016. 7.31)

ばたばたしておりまして、きちんと考えて書くことができませんので、取り急ぎ、今思っていることを、簡単に書きます。

(1) 先生のご指摘は、現在の日本(および世界)での Academicな世界での、標準的な、さらには先端的な状況認識を反映しているのだと思います。

Academic な最先端の研究をリードするための「方法」があるのか? という問題であり、現在の Academia はそのような明確な「方法」を見いだせていない/共通認識がない のだと思います。

(2) しかしもちろん、科学技術は急速に進歩・発展しているわけですから、最先端の研究を推進すること自身は、 沢山の研究者がマスターしており、研究組織が実施しているわけです。

だから、方法がないわけでない、きっといっぱいあり、多数で多様だから、また、一部分は試行錯誤的で個別的だから、まとまった一つの(あるいは、複数の)「方法」として明示できていない

特に、簡単で、確実で、広範囲に使えて、明確に伝授できるような形での「方法」は知られていない、ということであろうかと思います。

(3) この状況は、ある意味で不思議なことです。

世界中の大学院で、研究者を育てており、最先端の研究をするための教育をしている。

その時に、個別の分野の、個別のテーマについてしか、研究(=創造的な問題解決)を進めるやり方を教えられないのだろうか?

「文献を調べろ」とか、「いろいろ実験してみよ」とか、「ともかくよく考えろ」、「あきらめるな」とかいった抽象的な、あるいは精神論的なことしか、教えられないのだろうか? 

(4) Academicな世界における、創造的な研究の方法について、古い形のものをまとめた本に野口悠紀雄『「超」発想法』講談社新書(2000) があります。 概要以下のようなことです。

(発見や) 発明のためには、「ひらめき」を得ること、 「アイデア」を出すこと が大事だ (と思われている)。 そこで、科学者・技術者たちの体験・逸話から、「ひらめき」を得たときの事例が研究された。

一般的・共通的に分かってきたこと:
(a)  基本的な知識を持っていて、学習・研究しており,
(b)  強い問題意識を持って、それ以前に長期間考えていた。 あぁでもない、こうでもないと、考え、試していた。
(c)  リラックスした心理状態のときに、ちょっとしたできごとや夢がきっかけになって、「ひらめいた」。
(d)  自分の問題に当てはめて、明確な解決策にした。

このような知見からは、まだ「方法」と呼べるものがありません。

(5) 一方、産業界では、いろいろな形で、「アイデアを生み出す方法」「システムの体系的な開発法」などが考案され実践されてきました。

旧ソ連発祥の「 TRIZ」はそれらをさらに体系的に考えたものです。

ただ、それらもまだ、本当の骨格になる方式を見いだせていなかったので、ばらばらであり、不必要に複雑になっています。

(6) 私は、(5)の状況に対して、新しい骨格を見出した。 それが6箱方式です。

(7)  (5)や(6)の成果が、Academiaになかなか浸透していないのは、残念なことです。

Academiaの研究者、特に優れた研究者の人たちは、研究をするやり方をすでに習得しています(していると思っています)から、そしてそれが大変な努力を要するものだと知っていますから、
「新しい方法が分かってきたよ」といっても、簡単には信用できないのでしょう。
あるいは、そんなものがなくてもやってきた/やっていけるという信念を持っているからでしょう。

(8) Academiaでどんな目的の「方法」が必要なのかをまず考える必要があります。 大きな視野のものからいうと、

(a) 世界の諸研究分野、研究テーマの大きな将来の方向を考える 。

(b) 一つの研究分野で、どのような研究テーマを選択するべきかを考える。

(c) ある研究テーマで、何を本当に解明するべきか、解決するべきかを考える。

(d) ある研究テーマで、解明・解決を困難にしているのが何かを考え、それを打開することを考える。

(e) ある研究テーマの個別の課題において、研究や実験の方法、実験装置の設計などのやり方を考える。

(f) さらに細部の問題・課題において、それを個別に解決する。

(9) 「6箱方式」の表現は、上記の(d)(e)(f)のスケールに適した表現になっていると思います。

(a)(b)(c) のスケールの問題についても、基本的な考え方は同じですが、やはりもう少しそれぞれに適した表現にする必要があるでしょう。

このようなスケールによる違いはありますが、研究分野や研究テーマでの違いはあまり大きくないだろうと思います。

(10) 「6箱方式」を適用したり、理解したりするのに有効なのは、まず過去の具体的な研究テーマでの、研究の(内容的な) 進み方/進め方の聞き取りをして、「6箱方式」で記述してみることだと思います。

そのうえで、現在進行中の研究テーマでの研究指導に取り入れてみることでしょう。

方法と研究テーマの両方を理解する人が必要になります。

従来の優れた研究での事例や、最新の進行中のテーマについて、実際にやってみるとよいのですが。

「創造的な問題解決の方法」=「(最先端の)研究開発の方法」 ですから、それがAcademiaに根付くことは大事なことだと思います。

その意味で、先生の問題提起は大事なことと思っています。

 


 問題提起とご寄稿のお願い:           PDF              (掲載: 2016. 8.28)

 

学術研究における創造的な問題解決に基本的な方法論があるでしょうか?

 

最先端の学術研究、創造的な学術研究において、
その一般的なかつ汎用的な研究方法、「創造的な研究を行う方法」があるでしょうか?

研究体験を一般的な言葉で説明いただけませんか? 院生や若い研究者をどう指導されていますか?

           ご意見をいただけますと幸いです。
           2016年 8月27日     中川 徹 (大阪学院大学名誉教授; 『TRIZホームページ』編集者)
              Email: nakagawa@ogu.ac.jp
             『TRIZホームページ』http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/

 

どんな目的のための方法が必要なのでしょうか? 視野のレベルで違うでしょうか?

(a) 世界の諸研究分野、研究テーマの大きな将来の方向を考える 。

(b) 一つの研究分野で、どのような研究テーマを選択するべきかを考える。

(c) ある研究テーマで、何を本当に解明するべきか、解決するべきかを考える。

(d) ある研究テーマで、解明・解決を困難にしているのが何かを考え、それを打開することを考える。

(e) ある研究テーマの個別の課題において、研究や実験の方法、実験装置の設計などのやり方を考える。

(f) さらに細部の問題・課題において、それを個別に解決する。

 

「ひらめき」を中心とした、従来の方法の考え方 

(1)  基本的な知識を持っていて、学習・研究しており,
(2)  強い問題意識を持って、それ以前に長期間考えていた。あぁでもない、こうでもないと、考え、試していた。
(3)  リラックスした心理状態のときに、ちょっとしたできごとや夢がきっかけになって、「ひらめいた」。
(4)  自分の問題に当てはめて、明確な解決策にした。

 

「6箱方式」をパラダイムとする新しい方法論

技術分野を中心に確立されてきた方法論です。

技術の分野を問わず、ビジネスや社会などの
   分野にも、広い目的で使えます。

学術研究の方法論としても使えると考えています。

上記の(d)(e) (f) に適した表現ですが、
  (a) (b) (c) にも調整して使えるものと考えています。

 

 


 討論2. 片平 彰裕 (2016年 8月 4日)        (掲載: 2016. 8. 6)

TRIZホームページに掲載された「学術界における「創造的な研究の方法」とは?」 について、自分なりに考えてみました。  
下記のように考えた結果、TRIZの技法や新しいCrePSなどの思考方法は、 最先端の科学の研究における、課題の解決案を考えることに直接的に深く関係して いると私は思います。

1.科学の最先端の創造的な(独創的な)研究が沢山、TRIZとか創造性技法とかとは関係なしに達成されている。

―> 創造学会で講演した人に課題解決の思考方法について質問しても、明確に答えが得られないことが多いので、たぶんその通りだと思います。

2.また、そこでは、誰にでも使える/いつでも使えるような簡単な「創造的な研究を行う方法」があるとは考えられていない。

―> 「考えることに方法がある」ということ自体も考えておらず、『「超」発想法』にあるように、強い問題意識を持って、あぁでもない、こうでもないと、長期間考えている人が多く、その場合は、偶然に出会った事柄がヒントになることなどで、課題を解決しているのであろうと憶測しています。

自分が遭遇している課題の解決策だけに意識が集中し、解決策を考え出すための方法には、意識が回らないということもあるでしょう。たとえ思考法があることを知っていたとしても、自分の問題は特殊であり、一般的な方法は適用できないと考えることも多いのではないでしょうか。

3.科学の最先端の人たちで集まって「創造的な研究の方法論」に関連して(より広いテーマで)複数回のシンポジウムを開き議論したことがあるが、共通の方法論があるという認識にはならなかった。

―> どんな話し合いが行われたのか是非知りたいですね。集まった人たちの問題解決方法を収集できているなら、是非それらを分析してみたいと思います。     

また、「研究の方法論」と「思考の方法論」は区別する必要があると考えます。この認識が違うと議論はすれ違いになってしまうので。

4.これらの経験から、TRIZの技法や新しいCrePSという方法論については(その方向をおぼろげながら理解しているつもりであるが)、最先端の科学の研究方法に直接的に深く関係しているとは思えない。

―> TRIZの技法や新しいCrePSなどの思考方法は、解決のためのヒントに出会う確率を高めることになり、自分が遭遇している課題の解決案を「もっと早くひらめきたい」と思う人には、役に立つと思うので、最先端の科学の研究に深く関係していると考えます。

以上から、最先端で科学の研究をされている方々も、新しい思考方法を利用することで、 課題の解決を早めて、安全、便利、快適な社会に近づけていただきたいと願っております。

 


 編集後記 (中川 徹、2016年7月28日)

これは非常に大きな問題です。最先端の科学技術の研究に携わっておられる方、指導しておられる方々から、ご寄稿いただけますようお願いいたします。

追記(2016. 8.27 中川 徹): 問題を提起し、ご意見をいただくための質問状1枚を作りました。添付します。

 

本ページの先頭 問題提起

中川の応答

問題提起と寄稿のお願い 討論     読者の声(2016.6−7) 英文ページ

 

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最終更新日 : 2016. 9.10    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp