TRIZ論文: TRIZシンポジウム2007 論文
"TRIZ"の製造系への応用〜
プリンター完成工程における慢性不良撲滅の取組み

古賀陽介 (パナソニック コミュニケーションズ株式会社)

日本TRIZ協議会主催 第3回TRIZシンポジウム、2007年8月30日〜9月1日、東芝研修センター (横浜市港北区)
掲載:2007.12.23.    著者の許可を得て掲載。無断転載禁止。

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編集ノート (中川徹、2007年12月22日)

本件は、今年8月末の 第3回TRIZシンポジウムにおいて、その第1日にシングルトラックで発表されたものです。(基調講演を別にして) 今回のTRIZシンポジウムの最大の成果であると私 (および多数の人々) は思います。論文集 (Proceedings) には、和文および英文でスライドを収録しています。本サイトには、著者の快諾を得て、スライドの全文を和文ページおよび英文ページのそれぞれで掲載し、多くの方に知っていただけるようにいたしました。

私の「Personal Report of Japan TRIZ Symposium 2007」で、この発表を紹介し (2007.11.18)、その最後に所感としてつぎのように書きました (今回和訳)。

*** [中川所感] 本事例は多くの点で非常に印象的である。大きな問題に対して短期間で解決を実現したこと、そのために、多数の解決策アイデアを生成し、実効のある対策を導きだし、多数の対策を同時に実施したこと、などである。スライドのいくつかの写真でよく分かるのは、工場の人々がこのプロジェクトに真剣に参加し、自分たち自身の意識の変革を体験したことである。本発表は、TQCスタイルの品質管理の活動を、TRIZの考え方 (思想) をバックにしたずっと進んだものに向上させるための、非常に優れた事例でもある。

-- 本事例は、(著者が) 日本語および英語できちんとしたドキュメントとして書き下し、広く公表 (雑誌/学会/Webなど) する価値があると考える。

このような素晴らしい活動をし、それを公表いただきました著者古賀陽介さんおよびパナソニックコミュニケーションズ株式会社に厚くお礼申しあげます。

本ページは、以下のように構成しています。(並行した英文ページもあります。)

(a) 著者による論文概要 (和文) (HTML版) および PDF 版

(b) 中川による紹介:  「Personal Report of the Third TRIZ Symposium in Japan, 2007」(中川 徹) の関連部分を和訳した。

(c) スライド全文 (和文)  PDF (2.7 MB)

 

本ページの先頭 論文概要 (和文) 論文概要 (和文) 紹介(中川) スライド (和文) PDF スライド (英文) PDF TRIZシンポジウム2007 Personal Report (中川) 英文ページ

 


[1] 論文概要

TRIZの製造系への応用

〜プリンター完成工程における慢性不良撲滅の取組み〜

古賀陽介 (パナソニック コミュニケーションズ株式会社)

概要

   パナソニックコミュニケーションズ(株)(以下 PCCと略す)における科学的手法の推進はおおよそ、@企画段階においてQFD手法、A開発設計段階における技術課題に対してTRIZ手法、B設計パラメータの絞込み・検証段階において品質工学をそれぞれ活用し、短期間で、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)を満足し、商品化する取組みを実践している。

   その中で、TRIZ手法の取組みは、開発設計段階における技術課題解決シーンからスタートし、近年企画段階における構想設計にまで適用範囲を拡大し推進している。

   今回発表する取組みは、従来より更にTRIZ手法の活用シーンを広げる試みとして、生産現場への適用方法を模索し、製造現場のメンバーと共に実践し、大きな成果に結びつけたものである。

   具体的には、プリンターの完成工程において、様々な手法を適用しながら、工程改善に取組んできた中で、最後に残った慢性不良を無くすことに対して、TRIZを核としたPCC独自の課題解決プロセス(なぜと聞かない「なぜなぜ展開」・TRIZ手法・キーグラフ)を導入・実践し成果に結びつけた。

内容説明

  PCCでは、2001年にTRIZ導入以降、研究開発・設計への適用を中心に、より上流としての企画あるいは、知財戦略など、技術課題解決をベースに取組み拡大を図ってきた。今発表では、従来の適用範囲(企画〜設計)を越えて、新たに製造現場・工程改善まで拡大させる取組みである。

  対象としたプリンターの完成工程において過去1年以上に渡って品質工学などを用いての工程改善を推進していたが、本体完成後の検査で不具合とされる一部の不良が慢性化していた。そこで、TRIZ手法を用いた改善プロセスに取組み、過去に類を見ない改善行動を喚起し、諦められていた不良を短期間で撲滅するに到った。

  慢性不良撲滅に成功した大きなポイントを以下に示す。

1.複数手法の連携活用によるアイデア創出

2.関係者全員を巻き込んだ活動

3.アイデア創出後の分類と実践

4.全てを考え尽くすマネジメント (成功の最大のポイント)

  @なぜと聞かない「なぜなぜ展開」とTRIZ視点活用

従来の原因・責任追求型では人は全てを語らない。
過去のしがらみ・固定観念の縛りなく、600を越える原因の洗い出し

  A大小問わず個人、組織様々に多量のアイデア創出

時間・空間で分離などTRIZ思考で誘導し、500を超えるアイデアを一気に創出・階層化

  B新しい対策マネジメントの実施

従来のような少数対策選定や優先順位マネジメントに替えて、いっぺんに数多くの対策を実施
単独対策の効果検証には着目しないマネジメント

上記取組みに対して、発表する。

 

論文概要 (和文) PDF 形式 ( 1頁、217 KB)    


[2] 本論文の紹介 (中川 徹、2007年12月 8日)

中川 徹: 「Personal Report of Japan TRIZ Symposium 2007」 (2007.11.18、『TRIZホームページ』掲載 (英文)) 中の関連部分を和訳して示す。

古賀陽介 (パナソニックコミュニケーションズ) [5] が発表した実践事例は素晴らしいものであった。その題目は「"TRIZ"の製造系への応用〜プリンター完成工程における慢性不良撲滅の取組み」である。パナソニックコミュニケーションズ株式会社 (PCC)は、TRIZを全社的に適用し、また広い範囲の問題に適用している点で、[日本で] 最も活発な企業である。同社は、「経営品質推進本部」の中にすでに数十人のTRIZエキスパートを養成しており、社内のさまざまな部門をサポートして (さらに松下グループの他の企業をもサポートして) 活動している。今回発表された事例は、2005年の春に同社佐賀工場において、カラーレーザプリンタの製造プロセスに適用されたものである。この貴重な事例を再現するために、私はこのレビュで12枚のスライドを引用しよう。

つぎのスライドが本発表の位置づけを示したもので、PCCにおいてTRIZの適用をさらに下流段階の製造工程にまで展開しようとするものである。著者はこの発表事例において、TRIZを製造段階に適用しよう、もっと直接的に言えば、工場の改善に適用しようと試みている。

その工場は新しいカラーレーザプリンタを製造していたが、当初多くのトラブルを抱えていた。さまざまな対策をして、トラブルは減少してきたけれども、まだなお二つの大きな問題が残っていた。その一つは、プリンタカートリッジの製造工程 (3階)、もう一つは本体組立工程 (1階) にあった。TRIZチームはまず、プリンタカートリッジの製造工程の問題解決を支援し、それをうまく解決した。それを見て、1階の工程のマネジャが、「本体組立工程のより大きな問題の解決を支援してほしい」と、TRIZチームに要請してきた。その問題というのは、プリンタの欠陥率が高いことで、その大抵はプリントした紙にスポットやすじが現れることであった。

つぎのスライドに示すのが、「工場改善のためのTRIZ適用」のアプローチの全体像であり、今回の「1階工程の問題」、すなわち、上記二番目に書いた、より大きな問題に実際に適用したものである。このプロセスの段階を追って、図や写真を交えて、以下に説明していこう。

第一ステップは、問題 (あるいは望ましくない結果) を明確に述べることで、現在の状況を理解し、問題の原因を見つけることである。そのようなステップにおいては、PCCのTRIZグループは通常、「なぜなぜ展開」を適用する。それは、「なぜ?」「なぜ?」と数段階に渡って尋ねていき、「根本原因」まで遡ろうとするものである。しかしながら、著者はこの事例にはこの方法を使わなかった。その理由は、「なぜ?」という質問が、メンバたちの誰かあるいは自分たち自身を非難するように聞こえ、メンバの気持ちを閉ざさせる傾向があるからだという。著者は、工場のその部門の全員を集め勉強会を行い、トラブルの状況を説明した後、部門全員の参加で「ブレインライティング・セッション」を行った。全員が求められたのは、「なぜ欠陥が起こるのか?」という質問に対して、考えを自由に書き出すことであった。部門の全員がそのブレインライティングに参加し、30分間で合計638件のアイデアを書き出した (つぎのスライドの右下の写真を参照)。

その後、これらすべてのアイデアをTRIZチームが分析した。それには、下記のスライドに示すような「キーグラフ法」を使い、メンバたちが言及した項目間の関連を見つけ出し、諸原因の中に潜む主たる構造を明らかにすることを目指した。この分析の結果分かったのは、欠陥の主原因がほこりであること、同時にメンバの意識の改革が不可欠なことであった。この欠陥はまた科学的な方法でも分析した。例えば、ほこりを顕微鏡で観察するなどである。

ついで、ブレインライティングで書き出されたすべてのコメント (原因に関するものおよび改善のアイデアに関するもの) を分析して、グループ分けをした。枠組みとして、 4M (作業 (人)(Man)、設備(Machine)、方法 (Method)、材料 (Material)) + 1 (環境 (塵埃)) を用いた。グループ分けの結果をつぎのスライドに示す。

ついで、すべてのアイデアをさらに分類して、つぎのスライドに示すような、要因に関するツリー型の階層図の形式にまとめた。

ついで、工場のメンバたちが書いたアイデアを、上記のツリー構造の枠組みを維持して、解決策の体系に組み上げていった。スライドの右部分に示すように、それらのアイデアをすぐに実践できるかどうかで分類した。すなわち、可能 (すぐに適用できる)、条件つき (いくらかの準備の後に、あるいは、比較的小さな問題を解決してから後に適用できる)、困難 (大きな準備を要する、または、望ましいが適用困難) という分類である。これらの分類でのアイデア数を、スライドの右端の欄に示した。このようにして、膨大な数の解決策 (対策取り組み案) を得た (ただし、スライドの「対策案 (抜粋)」の各箱には2〜3件 (英語のスライドには1件だけ) しか示していない)。(解決策のいくつかの例を、この後のスライドに示す。)

 

それから、多数の解決策を実施可能な対策として組み上げ、それらを実際に実施した。つぎのスライドに示すのは、作業 (あるいは、人々の作業スタイルや行動) に関係した対策の数例である。(1) 清掃時間を1日1回から1日3回に増やし、時間ごとに清掃すべき場所を分け、担当者のローテーションを明瞭に掲示した。(2) クリーンルームの入り口の下駄箱で、靴を入れる場所を指定した。すなわち、クリーンルーム用の上履きを上部に入れ、外用の下履きを下部に入れる。(3) 髪の毛を作業帽の中に入れるというしつけを強化した。これらすべての対策を同時に実施したのである。

これらの多数の対策を実施した結果、製品の欠陥率はずっと減少したが、それでもまだゼロにはならなかった。そこで、問題とその解決策をTRIZの観点から再度チェックした。例えば、つぎのスライドに示すように、塵やほこりを真空掃除機で吸い取るのだけれども、少しのほこりがまだ残ってしまう。それはわれわれにはよく見えないからだ。そこで、TRIZのソフトウェアツールの'Prediction'モジュールの助けを得て、「ブラックライト」を導入して塵やほこりをもっと明瞭に見えるようにした (ブラックライトとは、紫外線源であり、人の目には見えないけれども、ほこりに当てると可視光領域の蛍光を励起することができる)。解決策を見つけるためのこれらの活動を、TRIZの専門家チームがガイドした。

ついには、この工場全体で、638件のアイデアに対応して549件の対策を実施した。これらすべての対策を実施した結果は、毎月の欠陥率をプロットしたつぎのグラフで明瞭に分かる。欠陥率はプロジェクトがスタートした2005年4月以来劇的に減少し、ついに8月にはほこりに関する問題に関連してはゼロになった。これらの結果は、年間ではおおよそ1億円のコスト節減と評価される。

このプロジェクトが工場の人々に与えた影響は、つぎに示す写真で明瞭に見ることができる。

著者のまとめのスライドでは、「TRIZ流の工場改善法」の要点をつぎのように述べている。

また、さらに最後のスライドで、「TRIZエキスパートと工場のすべての人々との協力 (共同作業)」を要点として挙げ、そこでのTRIZエキスパートの役割は、「工場の人々が自分たちの作業のしかたや作業の場を改善するアイデアを創り出すように、TRIZの考え方を使ってガイドする」ことであると述べている。

*** [中川所感] 本事例は多くの点で非常に印象的である。大きな問題に対して短期間で解決を実現したこと、そのために、多数の解決策アイデアを生成し、実効のある対策を導きだし、多数の対策を同時に実施したこと、などである。スライドのいくつかの写真でよく分かるのは、工場の人々がこのプロジェクトに真剣に参加し、自分たち自身の意識の変革を体験したことである。本発表は、TQCスタイルの品質管理の活動を、TRIZの考え方 (思想) をバックにしたずっと進んだものに向上させるための、非常に優れた事例でもある。

-- 本事例は、(著者が) 日本語および英語できちんとしたドキュメントとして書き下し、広く公表 (雑誌/学会/Webなど) する価値があると考える。

-- [(2007年11月17日追記) 私はこの発表を私のWebサイトに掲載させてほしいと要請し、すでに著者から承認を得ている。近い将来に、本発表のスライドの全文を和文および英訳 (の改訂版) で、この『TRIZホームページ』で読めるようになるであろう。]

 

[3] 発表スライド 全文 (和文)

 

スライド (和文) PDF形式 (41スライド、4スライド/頁、2.7 MB)

 


[4] 英文ページ

英文ページ

スライド (英文) PDF形式 (41スライド、4スライド/頁、2.3 MB)

 

 

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最終更新日 : 2007.12.23.     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp