TRIZ/USIT教材
総称化 (一般化法) - USITの一つのプロセス
 Ed Sickafus (Ntelleck, USA)
 "Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent", Ntelleck, Grosse Isle, MI, USA (1997), 11章
 訳: 中川  徹 (大阪学院大学), 2002年 9月23日 

 無断転載禁止    [掲載: 2002年10月 1日]


 

 編集ノート (中川 徹, 2002年 9月23日)

本稿は, 表記のように, Ed Sickafus博士のUSIT教科書 "Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent" (1997年) の第11章を和訳したものである。英語の原書について, またその後のUSIT法の発展については, 原著者のWebサイトを参照されたい。
       USIT法Webサイト (Ed Sickafus)   URL:  http://www.u-sit.net/

このような英語の教科書の一部を翻訳して, 無料の公開のホームページに掲載するのは異例のことである。本来は教科書全体を翻訳して出版できるとよいのだが, 教科書の密度が高くて翻訳が容易でなく, 488頁という大部のために果たせていない。日本の読者のUSIT法理解のために特別な許可を頂いたSickafus博士に心から感謝する。

       著者:  Ed Sickafus (フォード社を引退, 現在 Ntelleck社)  E-mail:  Ed Sickafus <ntelleck@ic.net>
 
この章は, USIT法の解決策生成法の説明の最後の章である。先週掲載したように, 小生らは, 「TRIZのすべての解決策生成法を再整理して, USIT法の5種の解法に再構築する」という共同研究を行い, 論文投稿した。その際, USIT教科書の解決策生成法の部分をもう一度読み直し, この章の含蓄の深さを再認識した次第である。

Sickafusの原書では「Generification」という言葉を使っており, 「総称化」と訳した。具体的な事物を指す言葉 (単語) に対して, 類似した一群の事物をまとめて呼ぶ言葉 (単語) が「総称」である。それは, 指し示す意味範囲が一段広くなっており, 概念として一段抽象化したもの, 一般化したものである。この章でSickafusは, 抽象化・一般化して考える方法を, できるだけ詳細に, しっかりと意識的に制御して, 飛躍せずに一段ずつ進む方法として記述している。そのため, 「抽象化 (Abstraction)」とか「一般化 (Generalization)」といった漠然とした用語を避けて, 「総称化 (Generification)」 という用語を使ったのだと理解される。

ただ, やはり 「総称化」という語はあまり一般的でないので, 中川はUSITの第5解法の名称として「一般化」という語を選択した。そのため, 今回の訳では, 表題やサブタイトル, あるいは各節の初出のところなどに, 「総称化 (一般化)」と記述した。煩わしい面もあるが, ご理解いただきたい。

本章はUSITの第5解法「解決策一般化法」を, その最も広く深い意味で解説している。USITの解決策生成技法の体系全体については, 中川・古謝・三原がまとめたものを参照されたい。

本ページの先頭 章の先頭  1. 総称化 2. 解決策空間 3. 総称の世界 4. 問題の総称化 (バターを融かす問題) 5. 情報の総称化 6. オブジェクトの総称化
7. 属性の総称化 8. 機能の総称化 (ネジの機能)  9. 解決策生成法の総称化 10. トランスデューサの総称化 11. 解決策の総称化 12. まとめ USITの解決策生成法 (中川ら) 



Ed Sickafus 著 『統合的構造化発明思考法 (USIT): 発明のしかた』

    第11章  総称化 (一般化法) - USITの一つのプロセス

新しい解決策コンセプトを探しだすには, 解決策生成技法を効果的に適用して, 似た効果と似ていない効果とを吟味することにより達成される。このような吟味の機会は, 総称化 (一般化) のプロセスを通じて起こる。このプロセスは, まず, 直面するある種の束縛から分析者をリラックスさせ, ついで, 解決策を理解する基礎となる効果を識別させるように, デザインされている。
 

11.1  総称化 (一般化) が心理的障壁を減少させる

いままで, 一つの問題の「解決策空間」について言及してきた。これは, 一つの問題に対して多数の解決策が存在するだろうことを意味している。いくつかは自明であろうし, 少数のものは非常に創造的で, 特許を申請して保護するに値するだろう。また, 心理的障壁がこの空間での動きを妨げ, 非常に発明的な解決策を見出せなくすることがある, ことを示してきた。それらの障壁は発明家を段階的な改良にだけ限定する効果がある。技術分野の分析者たちが, 曖昧さを避けるために技術用語を精密に, 明示的に使い, 解釈しようとするところから, これらの障壁が生じる。そのような障壁をどうしたら防止できるだろうか? 「総称化 (generification, 一般化)」こそ, 技術者ができる防止策である。

総称化 (一般化) とは, 技術的な用語や概念を総称的な (一般的な) 用語と概念で置き替え, 曖昧性を許すことである。このプロセスは概念的な思考を誘発し, オブジェクト, 属性, および機能の意外な連想を誘発する。 - これが創造性の鍵である。

言語的であれ, 図的であれ, USITの分析のすべての側面に, 総称化 (一般化) は適用される。問題に対しても, また, 情報, オブジェクト, 属性, 機能, 解決策生成法, 変換操作 (transducers), あるいは解決策に対しても, 同様に適用される。総称化の成功の鍵は, がっちりして精密な技術用語が典型的に支配しているところに, 曖昧性を持ち込むことである。
 

11.2  解決策空間

分析者が解決策空間の全体に広くアクセスすることは, USITのような方法論, 特に総称化 (一般化) の方法, を使わないと難しい。技術的概念による心理的障壁を認識し克服することを分析者がマスターすると, 広がった解決策空間を直ちに見通せるようになる。

同じ問題に対して二つの異なる程度の総称化 (一般化) を適用したとすると, きっと解決策空間の異なる領域に導かれることだろう。総称化の程度がより高ければ, より広い解決策空間に導かれるだろう。分析者がUSITの創造的なプロセスを最大限に強めたいと思えば, USITのすべての側面での総称化 (一般化) を実践することが, 当然必要である。

解決策空間とか, コンセプトレベルの解決策という概念もまた, 心理的 [障壁を克服するための一つの方法] であるかもしれない。問題の核心は, 工学的な解決策とコンセプトレベルの解決策とを分離しようとするときに経験する困難さにある。分析者が技術フィルタ [注: 仕様, 数値, 図面, コスト, 納期などの技術的詳細をいう] を完全に横に置き, 純粋にコンセプトレベルの解決策に焦点を絞らないかぎり, この心理的障壁が存在する。
 

11.3  総称の世界 (一般化した世界)

解決策空間に加えて,「問題空間」 というものがある。それは, 解こうとする問題に関連する一つの領域を意味する。この概念がわれわれに問題の解決策空間を拡張することを可能にする。それは, 与えられた問題を完全に総称化 (一般化) した形で吟味することにより行われる。[拡張された空間で] われわれは新しい解決策コンセプトに出会うが, そのうちのいくつかはもともとの工学システムにすぐに適応できないかもしれない。それらは閉世界のオブジェクトから導かれたものではあるが, その閉世界の拡張された [解決策] コンセプトに属するものである。そのような世界を総称化世界 (一般化世界) と呼ぶと有用であろう。

問題に対する総称化世界は, 閉世界の見方から, もとの問題宣言を総称化 (一般化) することによって導かれる。これがどのようにして実現されるかを例示するために, 一つの例題をつぎに復習しよう。
 

11.4  問題の総称化 (一般化) :  多数のバター片を融かす問題

多数のバター片の問題の宣言文はもともとつぎのように書かれていた。「蒸気加熱ジャケットつきの大鍋の中の多数のバター片をもっと速く融かす方法を見出せ。」この宣言文は単純で, 問題の核心を捉えており, 問題の核心に焦点を絞った一群のオブジェクトたちを含んでおり, 問題に対する簡単な絵を示唆している。それはかなり良く定義された問題宣言文である。さらに, それはUSITのプロセスを開始するのに十分である。オブジェクト群は明確であり, この問題宣言文から, 閉世界ダイアグラムおよび定性変化グラフを構築することができる。この宣言文から出発して, 問題の解決策空間の探索を始めることができよう。

このバター片を融かす問題には, ひとつの総称化 (一般化) 問題空間が関連づけられており, それを探求すると, 通常の閉世界法の扱いでは発見されないかもしれないような, もっと一般的 (総称的)な解決策を導くことができる。総称化 (一般化) 問題空間を同定するUSITのプロセスは, 新しい展望を求めて, 問題宣言文を体系的に一般化することである。そこで, 上記の問題宣言文を吟味して, この体系的プロセスを始めてみよう。

     「蒸気加熱ジャケットつきの大鍋の中の多数のバター片をもっと速く融かす方法を見出せ。」

総称化 (一般化) のプロセスは, 問題の主概念を失うことなく, 問題宣言文を変えていく, 単純化のステップたちからなる。いままでのいくつかの単語を新しいいくつかの単語と交換する。このことはもちろん, 交換するたびに問題宣言文が異なることを意味する。だから, 問題を解こうとする者は, 元の宣言文を新しいものに変換する間, 問題の本来の概念を維持するように制御しなければならない。この意識的な変換こそが創造的プロセスであり, その過程で, 問題を解こうとする者は, 問題の個々の要素の意味を熟慮し, 新しい解釈の可能性を見出すことを強いられる。

総称化のプロセスは, その総称化を行っている分析者に最も役立つものであり, その他の人たちにとっては意義が少ないことに留意する必要がある。このプロセスは曖昧性を作り出すので, 最終結果をもともとの問題に翻訳し直すことは, 総称的な宣言文を作り出した分析者 [注: およびその原形や経過を知った者] にしかできない。しかしながら, その他の人たちも, 総称化した問題の解決プロセスに, (その解決結果をもとの問題に翻訳し直すことができなくても,) 意味のある寄与をすることができる。

われわれのバター片の問題は, 情報を失うことなく, つぎのように単純化できる。
    「蒸気加熱ジャケットつきの大鍋の中の多数のバター片をもっと速く融かせ。」

これは, 問題の技術的概念を失うことなく, 語句を落としたり, より短い語句で置き替えたりする試行錯誤のプロセスである。そこでは, 技術的な語句を, より総称的な語句で置き替えることも含む。一つ一つのステップで, 単純化し, 創造的思考の地平を広げることが, 目標である。各ステップでは, 熟慮した上で小さな変更を行う。

「(多数の) 片」という語 [注: 原文: "patties"] は, 問題を理解するのにあまり有用でないことは明らかである。この語はバターの形を説明しているだけであり, 有用である以上に制約的であろう。[そこで, これを消すと:]
     「蒸気加熱ジャケットつきの大鍋の中のバターをもっと速く融かせ。」

最初からわれわれの問題の焦点はバターを「融かす」ことにあった。それがもとの問題の状況である。しかしながら, 「融かす」というのは, むしろ制限的な概念であり, われわれの注意を間違った方向に向ける恐れがある。実際, バターをもっと速く「加熱する」ことが, 「融かす」ためにわれわれがしなければならないことである。[よって:]
     「蒸気加熱ジャケットつきの大鍋の中のバターをもっと速く加熱せよ。」

ハイフンつきの語は単純化の機会をしばしば提供するので, [そのような語 (ここでは "a steam-jacketed vat") の] ハイフンで繋いだ二つのコンセプトをばらすとよい。
     「ジャケットつきの大鍋の中のバターを, 蒸気を使ってもっと速く加熱せよ。」

[さらに,] 「ジャケットつきの」というのは, 大鍋の形あるいは構造を表現している。それは, もとの問題のシステムに翻訳し直した解決策を見つけるのには関係があるだろう。しかし総称化の精神においては, 問題宣言の詳細で, それを除いても全体的な問題のコンセプトを失わないようなものは, 省略してしまいたい。このケースでは, つぎのように言って十分である。
     「大鍋の中のバターを, 蒸気を使ってもっと速く加熱せよ。」

いまやわれわれの焦点は「もっと速く加熱する」ことにあるから, 加熱されるのが「バター」であることはあまり関係がない (重要性がない) ようにみえる。これが「固体」あるいは単に「オブジェクト」であってもかまわないだろう。どちらに置き替えても問題の基本的な物理 (メカニズム) を失うものでない。
     「大鍋の中のオブジェクトを, 蒸気を使ってもっと速く加熱せよ。」

もちろん, 「大鍋」もまた制限的であり, 「容器」としても全くかまわない。
     「容器の中のオブジェクトを, 蒸気を使ってもっと速く加熱せよ。」

総称化のプロセスにおいて, われわれは特定的なメタファ (比喩) をより制約の少ないメタファで徐々に置き替えている。選択すべきメタファは, もとのメタファの機能概念を保持できるものである。上記の問題宣言文において, 「蒸気」というのはどちらかというと制約的なメタファである。それは熱い気体または液体だと思えばよい。すなわち, 「熱い流体」。実際, 閉世界の外においては, 熱い流体というのは,  熱を運ぶ媒体のどんなものをも表せるメタファである。
     「容器の中のオブジェクトを, 熱い流体を使ってもっと速く加熱せよ。」

語順を少し変えて, また, あまり重要でない副詞を一つ消去すると, 宣言文がもっと良くなるだろう。
     「熱い流体を使って, 容器の中のオブジェクトを, 速く加熱せよ。」

このようにして, われわれは随分単純な総称的な問題宣言文に到達した。それはもとの問題宣言文の基本的な技術的概念を含み, それでいて, もとの制約を含まない。この総称的問題に対する概念的な解決策は, もとの特定の問題に対する概念的解決策になりうる。

総称的問題に対する解決策がもとの問題状況にうまく適合しないことがあるかもしれない。それでもなお, いくつかの解決策は, 閉世界の解決策を生成するための雛形として有用であろう。これを扱う方法は, 総称的問題の見方が, 閉世界の問題の見方よりも広い解決策空間で, 総称的解決策を見つけ出すことを可能にしていることを, 考慮することである。そこでいまや分析者は, 閉世界のオブジェクトによって総称的解決策を再定式化しなければならない。このようにして, 総称的解決策が, 閉世界内の解決策に翻訳し直す飛び石となる。さらにもし, 最終的な解決策が閉世界の中に確かに含まれるならば, それは発明的な解決策である可能性が高い。MaimonとHorowitz [3] は, 「発明的解決策であるための十分条件は, 閉世界オブジェクトの組の中にあることと, 問題の特性を解決していることである」 と示唆している。[訳注: 原著文献[3]は"発表予定"となっている。1997年に発表された論文は, 本TRIZホームページに2000年3月に翻訳掲載している。]

もとの問題, すなわち,
     「蒸気加熱ジャケットつきの大鍋の中の多数のバター片をもっと速く融かす方法を見出せ。」
が, 総称的に (すなわち一般化して) 見た結果,
     「熱い流体を使って, 容器の中のオブジェクトを, 速く加熱せよ。」
となった。この問題宣言文と問題状況のスケッチがあれば, 直ちに一つの解決策を思いつく問題解決者たちもいるだろう。熱を直接に適用することが, 問題の時間的側面に関係している。「熱い流体」というメタファは, その環境の中に存在しているだろう複数の熱源を考える道を開く。この問題状況では, 環境は一つの乳製品会社の中である。いまや自明な解決策は, 熱い流体をオブジェクトに直接向けることである。これによって, 容器の壁を通しての熱伝導に依存しなくてよく, 容器の加熱と, 熱伝導の接触面積の少なさに伴う時間的ロスがなくて済む。熱い流体の源は, 蒸気, 空気, ミルク, 油脂, 排気ガス, 液体バター, その他でありうる。総称化された問題空間ではこれらすべてが受容される。バターと両立しない流体を技術的に組み込んで解決策を見出すことは, 発明をする機会になる。このアイデアを閉世界に翻訳し直すと, 与えられた熱源 (すなわち, 蒸気) を, 大鍋の外側に向けるのではなく, 大鍋の中のバターに直接向ければよい。

問題宣言文の総称化は, 新しいメタファを創り出す創造的なプロセスであり, そのメタファは問題の中のオブジェクトの技術的な機能を捉え, それでいて, それらの状況下での制約を除去したものである。変換された総称的な問題宣言文は, より広い問題空間とそれに関連づけられた解決策空間を調べるために導入される。さらに, もとの問題宣言文を一般化する過程そのものが, 発明的解決策を発見する助けとなる。
 

11.5  情報の総称化 (一般化)

USITの情報収集段階において, 問題解決者が焦点を絞る試みをするにつれて, 情報はどんどん篩に掛けられる (フィルターされる)。「最小限の情報」の必要を強調することは, このフィルタリングの過程を奨励することを意図している。しかしながら, 分析者が経験を積むにつれて, 情報 (収集) 段階での総称化が随分の利益をもたらす。関係しない情報を無視することによって焦点が鋭くなる一方, 総称化は用心深いフィルタリングをするように注意を払う。すなわち, 関係がある, 精選された総称的情報を求め, 保持しようとするのである。

われわれはみんな, 高度に訓練を受けた技術問題解決者として, 連想による問題解決の経験をもっている。すなわち, われわれの経験の内的データベースを探索して, 今現在の問題と似た特徴をもった問題で, 解決されたものを見つけるのである。このプロセスの成功経験が, その手順をわれわれの無意識の中に刻み込んでいる。総称化 (一般化) は, 技術用語による心理的な制約を取り払って, 解決した問題例の探索を広げるのである。それと同時に, 総称化は, 情報収集段階において, 「関連する情報」の意味を広げ, より豊かにする。

情報収集段階において複雑なオブジェクトに出会うたびに, それらに総称化を適用できないかと考えてみるべきである。これは収集する情報の種類に影響を与える。その結果は, 選択した特定の総称化の方法にいくらか依存するだろう。例えば, 「蒸気ジャケットつきの大鍋」を考えてみよう。蒸気ジャケットつきの大鍋は, バター容器と蒸気容器が入れ子になったものとして単純化されるかもしれない。一度概念的に分離されると, これらの個々の「容器」は, 過去に経験した他の容器のコンセプトをわれわれに思い起こさせる。
 

11.6  オブジェクトの総称化 (一般化)

閉世界のオブジェクトたちを選択し, 焦点に合わせて絞り込んだときに, 可能ならいつでも, 総称的なオブジェクトで置き替えることを [USITでは] 奨励する。これは, 元のシステムにおけるそのオブジェクトの機能を理解することによってできる。オブジェクトの役割が同定できれば, その同じ役割をより総称的なオブジェクトで達成できないだろうかと考える。

「蒸気ジャケットつきの大鍋」のことをもう一度考えよう。「バター容器」としては, おばあさんの陶器のバター作り壺, ミルク屋さんのステンレスの容器, あるいはスーパーマーケットの紙のパッケージなどを思い起こさせるだろう。同様に, 「蒸気の容器」としては, 蒸気パイプ, 昔の蒸気機関車のボイラー, やかん, さらには, 地熱の蒸気孔, などのコンセプトを生み出すことであろう。これらのオブジェクトたちの中の一つを蒸気ジャケットつきの大鍋に置き替えようというのではない。そうではなくて, 十分に総称的 (一般的) な語で置き替え, これらのどれをも, そしてその他の容器のコンセプトをも, 問題解決プロセスの間に考えることを許そうというのである。「容器」というのが「蒸気ジャケットつきの大鍋」よりもずっと総称的である。それは特定の鍋の役割もするし, その他の関連するコンセプトおよびもっと多くのものすべてを許容する。
 

11.7 属性の総称化 (一般化)

属性たちは一つのオブジェクトを定義し他と区別する特定の特性たちであり, 機能に対する「ハンドル」という役もする -- すなわち, 機能はさまざまな属性に作用する。技術者たちが属性を記述するのに使う典型的な用語には, 心理的障壁が明白に存在する。創造的思考の一つの特徴は, これらの用語をその現象論的な意味を失うことなく総称化することにある。

われわれの「蒸気ジャケットつき大鍋」は, 属性たち (と特性値たち) を使って, つぎのように特徴づけられるだろう。ステンレススチール304製で, 比熱が0.11 カロリー/グラム, 熱膨張率は17×10-6, 重量12ポンド, 容量は1000立方インチ, などなど。このように特徴づけられた環境では, 発明というよりも, 最適化思考の方に導かれていくだろう。

他方で,  (特性値なしで)  もっと総称的な用語で置き替えてみる。 -- 例えば, 固体, 熱伝導性, エネルギー内包, 熱膨張, 重量, 容積, など。そうすれば, 創造的な思考に一層導きやすい環境を創り出すだろう。特定の問題と, そのオブジェクトたちの組および関連する機能たちを考えることによって, よりよいメタファ (比喩) を見つけだせるだろう。
 

11.8  機能の総称化 (一般化)

発明に至る最も創造的なパスは, 機能の総称化のパスである。このプロセスは, 驚きを発見し, 速やかに発明の新しい展望に導く。ここでも再び強調すべきことは, 機能を厳密に技術的に解釈することではなく, 機能を, 技術的な概念のロスなしに, 現象論的に解釈することである。機能の目的とは, 属性を関連づけること, 属性を活性化すること, 属性の値を変更すること, 属性を変えること, 属性の変化を防ぐこと, あるいは, 属性を脱活性化することである。

機能の総称化 (一般化) の例

ネジはごく普通のオブジェクトである。その使い方について大抵の人は知っている。さまざまな種類のネジがいままでに発明されてきて, ネジにはさらに多くの応用例がある。しかし, 私の推測では, もし何人かの技術者たちに, 「一つのネジの簡単なスケッチを描き, その簡単な応用例を示して下さい」というと, きっと似たようなものを書いてくるだろう。おそらく, その形の方が, 応用例よりも似たものになるだろう。[このようなステレオタイプ (すなわち, 心理的障壁) を打破するために,] ネジの機能を同定し, それからその機能を総称化 (一般化) すると, ネジに対する多様な概念に導かれるようになる。

1.  調節器としてのネジ


ネジの一つの使い方として, 固定した板に対して, 一つの可動板の高さを変えるために使っている場合を考えよう (図参照)。このネジの機能はつぎのように表せる。
     「可動板をネジの溝にはめ合わせ, ネジの軸を回すことによって, 可動板と固定板との距離を変えて, 可動板の高さを変える。」

このように記述した機能を総称化 (一般化) することによって, いくつかのより一般的な機能の記述が得られ, それに関連した総称化オブジェクトたちや効果たちが得られる (ある一つのものからまた別のものが得られる)。これを,
       総称化 (一般化) した記述  ==> 関連したオブジェクトたち (または効果たち)
[の形式で書き出すと以下のようである]。

ネジの総称化によって, ネジとは, 「円柱形または円錐形に巻いた坂道あるいはくさびである」という考えに導かれた。

2. クランプとしてのネジ


もう一つの使い方として, 二つの板を固定するのに使っているネジを考えよう (図参照)。このネジの機能はつぎのようである。
     「"ネジ動作"を用いて, 二つの板をネジの頭に押しつけることにより, 一つの板をもう一つの板に固定する」
この場合, ネジの溝は第二の板とはめ合わされているが, 第一の板とはそうでない。第一の板は, ネジの頭と第二の板との間でできる万力に捕まっている。

この機能の記述を総称化して二つの作用に表現することにより, つぎのような記述と連想されるオブジェクトたちや効果たちが得られる:

ネジの機能の総称化 (一般化) によって, ネジとは, 「円柱形または円錐形に配置した圧縮装置である」との考えに導かれた。

3. 留め具としてのネジ


[さらにもう一つの使い方として,] 自らネジを切る能力を利用して, 一つの板をより大きな本体に取り付けるのに使っているネジを考えよう (図参照) [注: 原著の図は次の4.項のものと入れ替わっている。誤りを訂正した]。このネジの機能はつぎのようである。
     「一つの大きな方の本体に自分自身の足場としてのネジ穴を切りつつ, 一つのものをもう一つの大きなものに取り付ける」

この記述を総称化して三つの作用とすることにより, つぎのような記述とそれから連想したオブジェクトたちおよび効果たちが導かれる:

ネジ [の機能] の総称化によって, ネジとは, 「円筒形または円錐形に自分でネジ穴を開けていくもの」との考えに導かれた。

4.  穴開けとしてのネジ


またもう一つの使い方として, 先端 (あるいは溝) にある物質を挿入する, あるいは穴にネジを切ったり, 穴に潤滑をしたりするために, あるものに穴を開けていく (押し入って, 貫通する) のに使っているネジを考えよう [図参照]。このネジの機能はつぎのようである。
    「あるものに押し入り (あるいは貫通して), そのものの中にある物質を持ち込む」

この記述を総称化 (一般化) して二つの作用にすると, つぎの記述とそれから連想したオブジェクトたちや効果たちが導かれる。

ネジ [の機能] の総称化によって, 「物質を携えて押し入る (あるいは貫通する) もの」 としてのネジの考えに導かれた。

5.  掛け具としてのネジ


掛け具 (ハンガー) としてのネジを考えよう (図参照)。このネジの機能は,
     「加重を支える」 こと。

この記述の総称化は, つぎのような記述とそれから連想したオブジェクトたちや効果たちを導く。


以上に述べたように, ネジの機能の具体化は非常に多様な形を取りうる。くさび, 円錐の表面に巻いた坂道, 螺旋状の滑り台, 鍵のガイド, リフト, クランプ, 釘, てこ, ハンガー, ネジ穴切り, 穴あけ, タイヤをパンクさせるもの, 調節器, 埋め込み器, 潤滑器, その他 (あなたが思いつくもの何でも)。

注意: 複合した機能が総称化のプロセスで分離された場合には, それぞれの機能を他の機能とは独立に後続の分析を行えばよい。すなわち, 回転の機能と固定の機能とを一旦分離した後は, 回転を伴わない固定の機能を考えてもかまわない。その結果, 有用な可能性のあるずっと多くのコンセプトが, 分析に持ち込まれることになる。

これらの例は, 機能の総称化が, 発明過程を豊かにする, いかに広い範囲のコンセプトを生成するかを例示している。
 

11.9  解決策生成法の総称化 (一般化)

USITの解決策生成法そのものも総称化 (一般化) の産物である。Altshullerとその協力者たちは, 多数の特許を調べて解決策生成の原理を見つけ出した。これらをまとめたものが, 40の解決策生成のヒューリスティックス [すなわち, 40の発明原理] として表になっている。イスラエルの人々はこれらを一般化して4種の「策略」 にし, それらを, 統合 (unification), 次元の増大, 乗算 (多数化), および 除算 (分割) と呼んだ。本研究は, 解決策生成法の章で述べたように, これらをさらに単純化したものである。
 

付録D [注: 原書の"付録3"から訂正] に示すUSITのヒューリスティックスは, 総称化 (一般化) のことを心に止めつつ, 考え・適用するべきである。適用事例は総称化の演習を考えるきっかけとしてだけ, 例示した。分析者は想像力を働かせて, これらの例からもっと有用な応用に踏み出すべきである。実際, これらの例を, 分析者自身が経験した解決策の状況で置き替えることにより, 随分と得るところがあるだろう。
 

11.10  トランスデューサの総称化 (一般化)

USITの「トランスデューサ」 (変換機能) の概念は, 機能の総称化 (一般化)を助けるものである。解決策テンプレートにおいて, 望ましい (あるいは必要な) 初期属性と最終属性, および関連する機能は, USITの一つのトランスデューサとしてつぎのように書ける:
       [初期属性]  [関連する機能]  [最終属性]

ここで, 分かっている関連機能を, トランスダクション (機能連鎖) 現象として記述するために, その機能を入力遷移部と出力遷移部に分割して記入する。
        [初期属性]  [これから遷移して  .....   遷移の結果 ]  [最終属性]

ここに生まれたギャップ [すなわち, 上記の "...." 部] は, 他のトランスダクションのステップを挿入することにより, 新しい解決策のパスを見出す機会を示している。
       [初期属性]  [これから遷移して ... ]  [新しいステップ]  [ ... 遷移の結果]  [最終属性]

バターを融かす問題に対しては, つぎのように発展させてもよかった。
      [温度]  [高温の流体の中のエネルギー伝達]  [融解した固体]
      [温度]  [エネルギー伝達 ... ]  [ 新しいステップ]  [... 流体を加熱する]  [融けたバター]

この象徴的な例では [解決に必要な] 技術は明白である。この問題は [簡単すぎて] トランスデューサの総称化 (一般化) の適用を納得させるにはもの足りない。その理由は, 新しい解決策によって時間を短縮すべきことにある。その一方, この方法で, 「[新しいステップ]」としてステップを追加すると, 目標に逆らう方向に働いているように見える。おそらく, 賢明な読者は, 時間を短縮するような新しいトランスダクションのリンクを見付けるだろう。時間を短縮する自明なアプローチは, クリティカルパス上のオブジェクトを少なくすること, あるいは, 機能を統合することである。
 

11.11 解決策の総称化 (一般化)

USITのプロセスによって (あるいはどんなプロセスによってでも) 分析者が発見した特定の個々の解決策は, 総称化 (一般化) の候補である。特定の解決策を総称化したものは, もっと他の解決策を作り出すための一種のテンプレートとなる。総称化という手段によって, 解決策がその他の解決策のための飛び石になる。それらは解決策空間を探索するための効果的なパスを作り出すので, 制限すべきではない。すなわち, 解決策空間の境界を, USITの分析における閉世界条件によって制限すべきではない。解決策の総称化は分析者の思考における閉世界の制限を緩和させるのを助ける。


図11.1  総称化によって, より広い解決策空間にアクセスできる

上図に示すように, 総称化した問題空間における解決策は, 閉世界の解決策空間中の解決策に至る飛び石となることができる。総称化した問題空間における問題への解決策は, 大幅なパラダイムシフトを引き起こす可能性がより大きい。これは, われわれが総称化世界の問題空間を導入したしかたによって引き起こされた。それは問題の制約, そして閉世界の制約を緩和させることを引き起こす。すなわち, 心理的障壁をさらに除去するのである。
 

11.12  まとめ

総称化 (一般化) はUSITの全プロセスにおいて基本的な役割を演じている。それは創造的思考の本質的要素である。総称化が問題解決の一つのプロセスとなると, 心理的障壁が乗り越えられ, 発明的な解決策へのパスが切り開かれる。総称化をUSITのアルゴリズム群の一つと言っているけれども, USITアルゴリズムのそのステップに来たときに機械的に実行する演習といった低い位置に置くべきではない。そうではなくて, 総称化 (一般化) は常時かつ広範に行うべきものであり, 問題解決の一つの思考モードとなるほどでなければならない。それはしばしば, 喜びと驚きをもたらし, 問題解決をより一層楽しくする。優れたメタファ (比喩) には宝が隠されている。
 
 
 
 
本ページの先頭 章の先頭  1. 総称化 2. 解決策空間 3. 総称の世界 4. 問題の総称化 (バターを融かす問題) 5. 情報の総称化 6. オブジェクトの総称化
7. 属性の総称化 8. 機能の総称化 (ネジの機能)  9. 解決策生成法の総称化 10. トランスデューサの総称化 11. 解決策の総称化 12. まとめ USITの解決策生成法 (中川ら) 

 
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最終更新日 : 2002.10. 1     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp