USIT講義ノート:
USIT ニュースレター と ミニ講義  (第2集) 
Ed Sickafus (Ntelleck, USA),
第 7号 2004年 1月 5日 〜  第10号 1月26日
  訳:古謝 秀明 (富士写真フィルム) ・
      中川 徹 (大阪学院大学), 2004年 2月〜7月8日
    

和訳掲載号: (7)  (8)  (9)  (10)          [掲載: 2004. 7.13]

[追記・調整: 2013. 1.27]   [英文原文(PDF) 掲載: 2013. 1.27]

 For going back to the English page, press: 

 注:  USITニュースレター についての説明は, この親ページを参照下さい。

第1集 (第1号 2003.11.15 〜 第6号 2004.12.22) 参照  

 

  編集ノート (中川  徹, 2004. 7.13): 
Mannの教科書の翻訳・出版が完了しましたので、SickafusさんのこのUSITのミニ講義の和訳の連載を再開します。今回は4号分をまとめていま す。]

追記 (中川 徹、2013. 1.21):   9年ぶりにUSITニュースレターの和訳掲載を再開します。Sickafus 博士の許可を得て、英文原文 (PDF版) もこの『TRIZホームページ』に掲載できることになりました。

 

USIT Website: http://www.u-sit.net/

Dr. Ed Sickafus:   Email: NTELLECK@u-sit.net

 
 (号) 発行年月日   ミニ講義 の 内容 掲載日(和訳) 英文原文 (PDF)
(7) 2004. 1. 5 ミニ講義(7) USITにおける問題の分析 -- 閉世界ダイアグラム 2004.  7.13 2013. 1.7
(8) 2004. 1.12 ミニ講義(8) 定性変化グラフ − 問題分析のツール 2004.  7.13 2013. 1.7
(9)  2004. 1.19 ミニ講義 (9) 定性変化グラフ (続き)  (きたないインクの問題) 2004.  7.13 2013. 1.7
(10) 2004. 1.26 ミニ講義 (10) 定性変化グラフの完成 (きたないインクの問題) 2004.  7.13  2013. 1.7
 
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    USITニュースレター  No. 7  (2004年 1月 5日)   Ed Sickafus    

「USIT (統合的構造化発明思考法) は, 構造化されていないブレインストーミングが行き詰まってしまったときに, 革新的な解決策のコンセプトを発見するために問題に対する常套的ではない見方を作り出すのに使う問題解決の方法論である。」

読者の皆さんに:

このニュースレターは先週休みまし た (もし毎週の配信を期待しておられればの話ですが)。残念ながら、毎週定期的に出すことは (できるだけ心がけていますが) できません。特にこの四半期は長期間の休みがあることと思っています。  

[訳注:  Sickafus さんは大の旅行好きです。きっと旅をエンジョイして来られるのでしょう。(中川, 2004. 2.24) ]

  
  ミ ニ講義-07

USITにおける 問題の分析 - 閉世界ダイアグラム

出版業者の問題のつづき - 「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。」

復習:  前回のミニ講義-06では、直感的な解決策10件を列挙した。それはこの例題の問題に取り組みはじめてから浮かんだアイデアをまとめたものである。

私たちはいまから問題の分析に進む。分析は二つのパートに分けられている。

第一のパート(1) は、「閉世界ダイヤグラム」と呼ばれ、選ばれたオブジェクト間の意図された機能的関係を、各オブジェクトの最も重要な機能を使って示す。
第二のパート (2)は、「定性変化グラフ」と呼ばれ、問題の望ましくない効果に対して諸属性がどのように貢献しているかの傾向 [すなわち、効果と属性の相関関係、依存関係] を明らかにする。
一方は理想の意図を描き、他方は実際の振る舞いを描く。この比較がいろいろなことを気づかせてくれる。  

「閉世界ダイヤグラム」:

閉世界」というのは、適切に定義された問題で選択された「最小限のオブジェクトの 組」のことをいう。[閉世界ダイアグラムは] オブジェクト名を四角形の中に書き、四角形同士を機能の重要性の階層によって結合し、その結合は各オブジェクトに1つだけ認められた機能 (すなわち、最も 重要な機能) を表す。

機能を特定し順位づける思考プロセスに取り組むことは、[各オブジェクトあたり] 一つだけの機能を選ぶように強制されると、ひらめきを与えてくれるものであり、あるときはびっくりするものであり、そして常に役に立ち、思考を刺激するも のである。

新聞紙:  明 らかに新聞紙は、紙の上にパターンを描いたインクで構成され、情報伝達という目的を持っている。読みやすさは色彩のコントラストを要求し、また、分かりやすさは輪郭がくっきりとした文字を必要とする。しかし、新聞紙はこの問題のオブジェクトとして選択されなかった(私によっては。他の人は選択したかもしれ ないが)。

空気:  本来の設計では空気は環境媒体と想定されており、最初の紙保管、そして印刷プロセス、および最後の裁断、折りたたみ、積み上げ、搬出などの工程での環境媒体である。空気は、紙やインクに対して設計された機能性を持っていない。

紙:  紙は、「インクを最初に紙上に置かれたところに結合する」という1つの主機能を持っている。つまり、「局所化させる」、そして予め決めた形を維持する機能 である。紙はまた、印刷時から廃却時まで、インクとの色彩のコントラストを提供しなければならない。

インク:  インクの主機能は、塗られた場所でその塗られた形を、それが廃却されるまで保持することである。インクはまた、紙との色彩のコントラストを提供しなければ ならないし、紙に結合しなければならない。

上記に記述した主機能を示す「閉世界ダイヤグラム」を下図に示す。インクが紙よりも重要である。もしインクがなかったら、紙の必要もなくなるだろう。紙の最重要機能は、インクを局所化させることである。空気は「環境的」オブジェクトであ り、インクあるいは紙と機能的結合関係を設計されていない。

[次回の] ミニ講義-08では、「定性変化グラフ」を提示しよう。閉世界ダイヤグラムと定性変化グラフは、SIT から採用した。(SIT は現在では、Dr. Roni HorowitzによるASITとして知られている)。USITの歴史とSITとの関係はUSIT教科書"Unified Structured Inventive Thinking - How to Invent"で論じている。 [訳注: このあたりのことは、『TRIZホームページ』に掲載した「USIT の成立と進化」 (Ed Sickafus & 中川  徹, 2001年3月23日掲載) を参照されたい。] 教科書にはまた、問題分析のためのこれら二つの方法の他の事例も載せている。オブジェクトの階層性の検証についても、事例を挙げて議論している。  

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分析の非一義性       (USITクラスへの説明)

問題の分析は明らかに個人的な判断である。一つの与えられた問題に対しても、私たちの中の二人が まったく同じ分析結果をつくり出すことはないだろう。そうであるべきなのだ。USITの分析ツールの目標は、各問題解決者にその人の能力の極限まで、問題を展開するように奨励することである。間違うこと を恐れる な。図書館で調べたり、よく知っている専門家と討論したりして、後で間違いを正すことだろう。そのような議論は、あなたが自分の思考をまず展開していたときに、はるかに有益になるだろう。あなたの分析を展開することは、基礎の現象論についてあなたのできる限りのところまで行くことを意味する。 

 

古謝秀明・中 川 徹 訳 (2004. 2. 5, 2004. 2.24)  [掲載: 2004. 7.13]

  USITニュースレター  No. 8  (2004年 1月12日)   Ed Sickafus   

  ミニ講義-08

定性変化グラフ − 問題分析のツール

出版業者の問題の続き − 「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。」

復習:  ミニ講義-07で 構築した閉世界ダイアグラムは、インク、紙、そして空気が関わっている。インクを最も重要なオブジェクトとして選んだ。紙はインクを局在化させている。空気は他のどのオブジェクトとも機能的に結合していないから、[ダイアグラム上でも] 他のオブジェクトと結びつけていない。私たちの直感的な解決策のいくつかには空気が関係していたが、[そのような解決策は] 多分これからもっと増えるだろう。

これまでに私たちは2つのUSIT分析ツールを使用した。根本原因推定のダイヤグラムと閉世界ダイヤグラムである。根本原因推定 のダイヤグラムによって、私たちは問題の原因となる属性 (「要因属性」) を特定できる。私たちはこれから「定性変化グラフ」に取り組み、望ましくない 効果を悪化させる原因となる属性の依存関係を特定しよう。これによって私たちが直面する問題をより明確に定義できるだろう。 

 

定性変化グラフを構築する手順:

1.  直交する2組の座標軸を描き、2つのグラフとする (両グラフの軸の名称を同じにする)。

2.  片方 [左側] のグラフには右上りの直線、もう片方 [右側] には右下りの直線を描く。

3.  共通の縦軸には、「望ましくない効果」と記入し、上向きの矢印を付けて、上に行くほど望ましくない効果が悪化することを示す。

4.  横軸には閉世界の各オブジェクトの名称を記入したボックスを書き並べる (両グラフの横軸に同じように全オブジェクトを書き込む)。

5.  各オブジェクトの下に問題の原因となる属性として特定されたもの を全てリストアップする。ただし、その属性がどちらのグラフに属するか、次項のテストをまず行なうこと。

6.  テスト:  属性の強さを増加させると望ましくない効果がさらに悪化するなら、その属性を左のグラフに配置し、逆なら右のグラフに配置する。

こ れらのグラフの一つ一つ [すなわち、記述したどれか一つの属性を横軸に選んだグラフ] は、問題の各特性を、解決策コンセプトの源になる可能性として表わしている。これらのグラフで、もし私たちがこれらの問題特性のどれか一つに関して質的な変化 (定性的変化) を引き起こすことができれば、解決策コンセプトを得ることができる。ここのグラフでの問題の特性は数学的な関数ではなく、一般的な (定性的な) 依存関係を表している。

問題の特性群から解決策コンセプ トを見つけるには、リストアップされた各属性を個別に取り扱う。そして、

(1) 私たちの意図に明らかに反するように働いている属性を、私たちの意図に沿うように働かせる、あるいは、
(2) 傾きを 強制的にゼロに する (すなわち、問題の原因となる属性を取り除くことを意味する)。

問題の原因となる属性を私たちの 意図に沿うように働かせることは、属性の強さを変化させる(増加あるいは減少させる)ことを必要とするかもしれない。

 

次のミニ講義までのあなたの演習 [宿題]  は、「きたないインク」の問題について、定性変化グラフを構築することである。既に分かっている問題の原因となる属性 (「要因属性」) から始めなさい。しかし、機会に恵まれたなら、それぞれの属性について、基礎的な現象論をより深いレベルで考えるようにしなさい。そうするとあなたは、追加の属性を得るだろう。


ミニ講義と質問       (このクラスへのコメント)

観察:  このUSITミニ講義にはいままで読者から一つも質問がない。

結論:   (1)  この講義は私がいままでに書いたものの中でベストの講義集である。あるいは、
           (2)  この講義をだれも読んでいない。あるいは、
           (3)  誰も質問をできるだけ十分に理解していない。

私は (1) であることを願っている。

 

古謝秀明・中川  徹 訳 (2004. 2.26, 2004. 7. 3)  [掲載: 2004. 7.13]


   USITニュースレター  No. 9  (2004年 1月19日)   Ed Sickafus    

今回のミニ講義は原稿の段階で長くなりすぎたので、2部に分割しました。後半はつぎの号に掲載します。そのおかげで、今回途中になった定性変化グラフを [次回までに] あなた自身が完成させれば、いままでに学んだことを練習できるという利点があります。

ミニ講義-09

定性変化グラフ  (きたないインクの問題)

出版業者の問題の続き − 「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。」

復習: ミニ講義-08で「定性変化グラフ」を定義し、これを「きたないインク」の問題に適用して演習するよう に薦めた。

定性変化グラフは、望ましくない効果を一層悪くする要因属性の依存関係を特定するのに用いる。このツールは問題点を分析する。一方、閉世界ダイヤグラムは同じシステムをそれが働くように設計されたままに分析する (つまり、何も問題が ないとして分析する)。

2つの定性変化グラフに共通の縦軸は、望ましくない効果として「インクがなすりつけられる可能性」と名付けることができるだろう。この効果は上に行くほど悪くなる。悪くなる方向 を上向きに選ぶのは、ちょっと奇異に感じるかもしれないが、常套的でない視点をもたらすために選んだ。

紙、インク、空気というオブジェク トを各グラフの横軸の3つのボックスに追加する。各オブジェクトの下に列挙すべき要因属性は、ミニ講義-04, -05ですでに見つけたものである。要因属性は、紙について12項目、インクが紙に結合しないことについて7項目、インク同士が結合しないことについて7項目、そして空気に関して3項目ある。インクに関する2つの属性 (温度と粘度) は、インクが紙に結合しないこと、インク同士が結合しないことの両方に共通である。これらの属性は、インクがなすりつけられる可能性に関連して、同じ依存関係を持っているかもしれないし、違うかもしれない。この演習を進めながら、それを明らかにしよう。すでに特定した要因属性のそれぞ れを検討し、その属性がどちらの依存関係のグラフに当てはまるかをテストしよう。

私たちがやろうとしていること は、要因属性を特定しようとして行った思考プロセスをもう一度反復することである。これは時間の無駄だろうか?私はそうは思わない。最初の回 [のプロセス] では属性を特定しただけだが、この2回目では属性の依存性の影響を探す。実践してみれば、このような反復は、最初の考えを明確にし、訂正を可能にし、見落 としていたアイデアを思いついて理解を深め、要因属性を追加することがわかるだろう。(あなたは私の間違い、再考、新しいアイデア に気づくだろう。)

現象論とモデル:

諸属性を特定するとき、そして特に属性の依存関係を特定するとき、自分の思考をガイドするメンタルモデルを作り上げていくことが必要になる。これらのメンタルモデルは、その人の訓練や経験、そして技術的直感に対応して創られる個人的発明である。それらは基礎的な現象論への窓であり、あなたの能力一杯を使ってモデルを構築するように薦められる。初期のモデルは学部レベルの訓練から構築できる。モ デルを繰り返し使うことによって、より一層の改良を思いつくだろう。このようにして、モデルは使うにつれて成長する。その分野の専門家はあなたがモデルを改良するのを助けてくれるだろう。しかし、彼らに簡単に会えるとは限らないので、自分の能力に頼って [モデル構築を] 始めるしかない。モデルを構築する私の最初の試みは、ミニ講義-04の第2パラグラフに展開している。そこに列挙した 仮定に誰も異議を唱えなかった。

しかし私は、私のモデルを拡 張して界面効果の解釈を可能にする必要性を感じている。不溶性のインク粒子と液相のインクとの界面、不溶性のインク粒子と空気との界面、そして液相のインクと空気との界面に関するものである。インク粒子は常に (ドライ、ウエットどちらの状態ででも)、液相のインクからの少なくとも単分子の層で被覆されている (最 もありそうなのは、インク粒子が親水性だと想定するなら、水分子 [の層] である)。これは、コロイド懸濁液中でインク粒子が濡れているための前提として必要なことである。インク粒子に吸着された水の単分子層は、粒子−粒子結合 を支えるのに十分だろう。液相のインクで粒子間がさらに離れると、液体は剪断に対して支えられないから、インク粒子は互いに滑るようになる。そして、粘性流動をするようになる。私はこの拡張モデルを使用して、属性の依存関係を特定することを試みよう。

[訳注:  以下の記述は基本的に各オブジェクトごとに、そして以前に列挙した諸属性ごとに記述されている。ただしその記述スタイルは必ずしも箇条書きスタイルでな く、取り上げている属性名が文中に埋もれて下線で強調している形になっている。そこで、この訳ではできるだけ分かりやすくするために、取り上げる属性名を 明示して段落を区切って示した。] 

紙の諸属性:

滑らかさ:   紙の滑らかさは「鍵と鍵穴」型の物理的結合を妨げるものと考えられる。紙が滑らかになればなるほど、どんな「鍵と鍵穴」型の結合もより浅くなり、その結果より弱くなる。そして、インクがなすりつけられる可能性もより大きくなる。こうして、滑らかさは左側のグラフ (L) の下に記述される。

吸収:  インクの紙への吸収が不十分であれば、液相のインクを除去することが少なくなりすぎると考えられ、残されたインク粒子が他のインク粒子や紙と接触して結合 を作れないままに放置すると考えられる。こうして、紙への吸収の度合いが少なくなるほど、インクがなすりつけられる可能性が大き くなる (よって、右側のグラフ (R) に割り当てられる)。

これは、更に2つの基礎的な 現象 を想起させる。イ ンクの紙に対する親和性と、インクとインクとの親和性である。すると、次のようなアイデアが浮かんだ。

解決策コンセプト[11]:  インクを着色粒子と吸収性の液体で構成された2成分の懸濁液 (コロイド液) として設計する。インクが紙に塗布されるまでは、液体が粒子の移動を (コロイド流体として) 可能にする。一旦 インクが紙に塗られると、(設計によって) 液体はすぐに紙に吸収され、紙の表面に乾いたインク粒子を残す。搬送液による潤滑性を失った乾燥インクは、よりなすりつけられにくくなる。
(このコンセプトはミニ講義-06のコンセプト[3] とは異なるモデルに関わっていることに注意されたい。)

インクの紙への吸収」というとき、「吸着」と「吸収」とが何を意味するのか? という疑問をもたらす。これに関して私の辞書は私の好みに合うほど十分に明確ではない。だから私はあなたに私の解釈を提供しよう (これを採用してもしなくても、どちらでも結構だ)。例えば、こぼした水をペーパータオルで拭き取るとき、2つの効果が存在する:溶解と毛細管現象である。

「溶解」: 紙の微細繊維を互いに結合しているバインダを水が部分的に溶解して糊のような液体を形成し、残りの乾 いた紙に固着させる。こうして、ペーパタオルに染み込んだ領域に渡って分散 している水分子によって、水と非溶解性の紙の微細繊維が混在するようになる。[訳注: ここの記述は何かおかしいと感じる。] 実際、使われた紙に対して水が多すぎると、水がバインダを完全に溶かし込み、(水がこぼれていた場所に)糊状の液体を残すことになる。

「毛細管現象」:  これに対して吸着は、紙の表面に液体を単に物理的な結合で保持し、このときバインダの液中への溶解は全く起きない。しかし、紙の開孔性は孔を提供し、その 中に液体が染み透り、紙の濡れ性と水の表面張力(これらは相互に依存する属性)に応じて、その孔の壁に吸着する。

 密度:  紙の密度が高いと、孔の径と密度が小さくなり、イン クの吸着量が下がる (L)。

物理的結合: 紙によるイン クの物理的結合が不十分であると、「鍵と鍵穴」型の結合 (すなわち、上述のように、2つのオブジェクトの形態の不規則性が単純 に関与しているもの)が過少になり、また、分子同士を互いに保持する力である ファンデルワールス結合が過少になる (すなわち、結合の表面密度が低くなる)。ファンデルワールス結合が弱いと、[インクと紙との間に] 滑りを許し (すなわち、分子間のせん断を許し)、インクのなすりつけを許すことになる(R)。

化学的結合:  私はいま気がついたのだが、ミニ講義-04において私は紙に対する化学的結合をも列挙したが、ミニ講 義-05ではそれを外していた。化学的結合は分子中で原子同士を互 いに保持するものであり、分子と分子の結合よりも強い結合を必要とする。ミニ講義-04ではまた、「紙の「含水率」は結合のための「化学的活性」には関与 しないかもしれない(?)」と言及し、それをミニ講義-05にも引き継いだ。しかし、化学的結合と物理的結合との混乱 を避けるために、私はいまこれも外す (取り止める) ことにする。

親水性:  紙の水に対する親和性は、少なくとも、インクの水の成分との物理的結合を可能にする。そこで、水に対する親和性が少ないほど、よりなすりつけられやすくなる(R)。

転送速度:  紙の転送速度が大きいと、集積場所に達するまでのインクが乾くための時間が短くなる(L)。

巻取圧力:  集積あるいは巻取圧力が高いと、インクの揮発成分が逃げるのが少なくなり、その結果、乾燥が遅くなって、なすりつけを助 ける (L)。

透過性:  浸透性が低いと、同様にインクの揮発成分が逃げるのが少なくなって、なすりつけを助ける(R)。


        図:  二つの定性変化グラフ。インクのなすりつけの機会に関わる諸属性の依存性を示す。

宿題:  さて今度はあなたの番だ。このニュースレターの次号が出るまでに、以下の演習を完成させなさい。「インクと紙の属性に関して、定性変化グ ラフでの依存関係を完成させてみなさい。これには以下のものを含む。                                                                                    


演習の目的    (クラスへのコメント)

こういった演習をする理由について、あなたが たがつぎのことを知っているものと私は思っている。すなわち、これらの演習は「あなたが理解しているものをあなたが示して見せるためではなくて、自分が何 を理解していないかをあなた自身が見つけるためである。」

これはprestidigitator の演技の見物人に譬えることができる。すなわち、その見物人はすぐに「分 かっ た! あのトリックはどうやったのか分かったぞ!」と叫ぶ。もちろん、そう叫んだからといって本当に分かったことの証明にはならない。そのトリックを再現してみせないとだめである。ジャッグリング (お手玉) を理解するのはすばらしい。ジャッグリングができるのはもっとすばらしい。

それでも心配しなくてもよい。定性変化グラフのテストをするわけでないから。

 

 古謝秀明・中川 徹 訳 (2004. 5. 5, 2004. 7. 4)  [掲載: 2004. 7.13]

 


  USITニュースレター  No.10  (2004年 1月26日)   Ed Sickafus   

前回のミニ講義-09は「新聞用紙上のインクがきたない」問題について、定性変化グラフを半分まで作った。そしてあなたが [宿題として] 残りを完成させた。今回のミニ講義で私が完成させたグラフを見せしよう。

  ミニ講義-10

「き たないインクの問題に対する定性変化グラフ」の完成

出版業者の問題のつづき − 「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。」

復習: ミニ講義-09では、定性変化グラフへの 記入が「紙の諸属性」に関する部分まで進んだ。今回、インクと空気の諸属性について考察しよう。

インクの諸属性で、紙への結合に関わるもの:

濡れ性:    インクの濡れ性が欠如していると、紙への濡れ面積を最小化しようとするので、より多くのインクが空気にさらされたまま になる。(R)

表面張力:  表面張力が高いと、液体が液滴を形成する傾向を高めるので、同様により多くのインクが空気にさらされたままになる。(L)

濡れ面積:  上記のことは、より基礎的な現象に導く。濡れ面積 (接触面積) の減少と濡れた領域での紙への結合力の低下である。どちらも、インクのなすり付けに貢献する。(R)

結合力:  上記により (R)。

粘度:  インクの粘度が高いと、インクの流れが遅くなり、浸入可能なはずの紙の空孔へのインクの染み込みを減少させ、鍵と鍵穴の型の物理的結合を強める機会を減少させる。(L)

温度:  (ミニ講義-04, -05で言及した) インクの温度は、いまは、結合形成に関係しないように私には思える。

蒸気圧:  インクの蒸気圧が低いと、乾燥に要する時間が長くなり、より長期間なすりつけが起きる状態になる。(R) [一方、] もし「結合促進剤」といったものが新聞用インクにあって (専門家に確認する必要あり) 高い蒸気圧になっているとすれば、それが速くに消失してしまうかもしれず、乾燥所用時間が長くなる(L)。「液の高速ロスは、相対飽和度(インク微粒子の濃度)を増加させ、十分な結合が形成されないうちに粗大粒子の析出を引き起こすかも知れない。」(これは、私の想像力で拡張した考えだ)。コロイド状のインク懸濁液からの液体の消失が、液体成分の速すぎる蒸発 (すなわち、インクの高蒸気圧による) によって引き起こされるかもしれない。(L)

拡散速度:  また、紙への速すぎる拡散速度 (微粒子があとに残ったままになる) によっても、上記のような「液の高速ロス」が引き起こされる かも知れない。(L)

インクの諸属性で、インク同士の結合に関するもの:

液体含有率:  インクの液体含有率が高いと粒子と粒子の分離度が増加するだろう。その結果、粒子同士の衝突頻度が減少し、インクの粒子−粒子結合の形成 [所用] 時間が長くなる。(R)

蒸気圧:  インクの液体成分の蒸気圧が低いと蒸発速度が遅くなり、結合形成 [所用] 時間が長くなる。(R)

温度:  同様に、温度が低いと蒸発速度が遅くなり、結合形成 [所用] 時間が長くなる。(R)

溶媒和:  液相中でのインク微粒子の溶媒和は、液相中の含有水の一部を、微粒子と水和状態になるように縛りつけ、そして水分子を水和状態に保つ傾向を持続するようにするだろう。インク微粒子が水和状態になればなるほど、粒子−粒子結合強度が下がり、よりなすりつけが起きる可能性が高くなる(仮定であり、チェックする必要があるが)。従って、溶媒和の度合いが高いとなすりつけの可能性が高くなる。(L)

粘性:  上記のことは、水和していない水が除去されたインク粒子(すなわち、名目的には「乾いた」状態のインク)が低粘度であることに等しいだろ う。この、水和微粒子が低粘度を支えている「乾いた」インクは、非水和性の微粒子の場合より乾燥 [所用] 時間が [見かけ上] 短くなるだろう。[従って、(「乾いた」状態の) インクの粘性が低いとなすりつけの可能性が高くなる。(R) ]

乾いたときに脆い:  乾いているが水和状態のインクは、水和微粒子の結合が弱いことによる脆さによって、なすりつけが起きやすくなるだろう。すなわち、脆さが高いとき、なすりつけられやすい。 (L)

潮解性:  液体インクの潮解性が高いと、空気中から水分子の吸着を許容し、その結果乾燥が遅くなり、なすりつけられる時間が長くなる。(L)

空気の諸属性で、インクの乾燥に関するもの:

湿度:  空気の湿度が高いと、インク表面の水蒸気の密度が上がり、その結果、[インクの水分の] 凝集速度が高くなり、蒸発速度が下がる。(L)

温度:  空気の温度が高いと、高い湿度を許し、乾燥が遅くなる。 (L) 
[訳注:  この原文の記述は誤 り。(いままでの「蒸気圧」の記述でもそうだが) 水などの「飽和蒸気圧」と「蒸気圧」(「分圧」) との区別をしていないための混乱がある。温度が上 がると、飽和蒸気圧が上がる。「湿度」は、そのときの空気中の水の「蒸気圧」(分圧)の「飽和蒸気圧」に対する比率。温度が上がれば、同じ湿度でも蒸発が より速く進む。空気中の水蒸気圧が同じままで温度が上がれば、蒸発はさらに速くなる。よってここは、温度: (R)]

流速:  液状のインク上を横切る空気の速度が大きいと、インク表面近傍の湿度が下がり、その結果蒸発速度が増し、乾燥 [所用] 時間が短くなる。(R)

以上の考察結果を下記の定性変化 グラフにまとめた。異なった用語で表現されたさまざまなアイデアの間の冗長性や重複を、ここでは除外しようとしていない。それは、同じ効果に対する違った表現が、過去の経験の記憶の違ったものを呼び覚ますだろう、と考えるからである。


図:  二つの定性変化グラフ: インクのなけりつけの可能性に関して、
紙・インク・空気の諸属性の依存性を示す

実験計画について:

企業技術者たちがUSITを適用しようとするときによくある問題は、「適切に定義された問題」を定式化するときに起きるものであり、そこでは根本原 因を明確にすることが要求される。ありがちな問題は、彼らが問題分析のこの時点 [すなわち、定性変化グラフを作る時点] に達してもまだ、真の根本原因を判断できていないことである。あまりにも多くのUSIT研修のクラスでこのような状況に直面したので、私は (ミニ講義-03掲載の) 根本原因を推定するツールを開発した。そのツールが考えられる 要因属性を特定するのに対して、ここの定性変化グラフはそれら の属性の依存関係 を特定する。これは、効率的な実験計画を実施するために必要なことのほんの始まりである。実験計画の実施によって、推定した根本原因 (群) を真の根本原因 (群) として検証し、順位づけすることができるだろう。

USITの解決技法の適用:

私たちはこれから、USITの解決技法の適用に進 み、ニュース レターの次号からそれを取り上げよう。あなたが少し内省してみると、解決技法を構造化問題解決法の最後のフェーズ としてグループ化することは、少し実際と異なるところがあると分かるだろう。その理由は、あなたの心の動きは非常に速くアイデアを思い出したり生成したり しており、事実、いままでに始終、解決策コンセプトを生成してきているからである。それにもかかわらず、このように組織化することは、この方法論の全体像を展開するのに役に立つ。


読者からの フィードバック  (M.S.)

「定性変化グラフに関するテストはしな いと保証してくれましたね。だけど、私が心配 だったのはちょっと別のことです。語彙テストあるいはスペリングテストで、「最近のニュースレターで使われた語」のテストがあるかと心配でした。... prestidigitator???  これは日常では見ませんね。...実際, 私はいままでこの単語を見たことがないと思います。字引を引いてみました。USITニュースレターの今号から私は少なくとも一つのことを学んだと言えま す。... :-)  [笑っている記号です。念のため。] 実は、言いたかったのは、まじめな話、このニュースレターを書いて下さっていることに感謝しています。学習に役立っています。」(読者: M.S.)

応答: 一言説明しておきます (お詫びの印として)。トランプでの手品 (prestidigitation) は私の趣味なのです。

ノート: 私は読者M.S.のことを、"disgruntled" (不平のある) の反対の語として、ちょっとひねって"gruntled" readerと呼ぶことにしました。そして、私の英語辞書をみて"gruntled" という見出し語がないことを発見しました。私もまた一つ学びました。

(更新: 私の上下2巻のOxford English Dictionary には, "gruntle"という語がありました。--「1. 小さな低い唸り声を出すこと。豚について言い、ときには他の動物についてもいうが、人についていうことは稀」。まったく恥ずかしい限りです。取りやめで す。 :( )

あなたのフィードバックや意見をお寄せ下さい:   Ntelleck@u-sit.net

To be creative, U-SIT and think.

 

古謝秀明・中川 徹 訳 (2004. 7. 7, 2004. 7. 8)  [掲載: 2004. 7.13]

 

[ニュースレターの次号からは「USITの解決策生成法」になりますので、第3集にする予定です。(中川)]

   

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最終更新日 : 2004. 7.13.  [調整: 2013. 1.27]   連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp