「6箱方式」総説論文に関する査読関連の付随資料 

[A] 日本創造学会論文誌への投稿と査読経過の概要

[B] 総説論文としての再査読の要請書(査読意見への応答と論文趣旨の説明) (中川 徹、2022年1月30日) 

 

中川 徹 (大阪学院大学)、2022年7月22日

掲載: 2022. 7.22

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  編集ノート (中川 徹、2022年 7月21日)

前ページに掲載しました私の総説論文「科学技術の「抽象化の4箱方式」から、創造的問題解決の「6箱方式」へ」に関する、査読関連の付属資料の一部を掲載しておきます。

[A]  日本創造学会論文誌への投稿と査読経過の概要 

[B]  日本創造学会論文誌への 査読異議申し立て書(中川 徹、2022年1月30日) 

査読意見についての筆者の応答、および主要内容についての補足 

(a) 科学技術の基本パラダイム、「抽象化の4箱方式」、科学技術における創造について 
(b) 「創造性技法」(「創造的問題解決の諸方法」)のさまざまなアプローチと、基本パラダイムの不在について 
(c)  TRIZとUSITが、新しい展開を準備した 
(d)  「6箱方式」の導出、記述例、「創造的問題解決の基本パラダイム」であることの認識 
(e)  「6箱方式」の実践法、簡潔な実践法としてのUSIT 
(f)  各種の「創造性技法」を「6箱方式」で位置づけなおし、理解し、統合する試み 
(g)  「創造的な問題解決」の基本パラダイムをベースにした大きなビジョン 
(h)  本論文の「新規性」について、本論文が「総説論文」である必要性、  「総説論文」として発表する意義 
--- 論文 [要旨] の推敲 

 

本ページの先頭

A 主要経過

B 異議申立て書

査読への著者の応答

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

(g)

(h) 要旨推敲   総説論文のページ  

 


  

 [A]  日本創造学会論文誌への投稿と査読、査読異議申し立てに関する主要経過

年月日

発信者→受信者 主項

内容の概略

2021. 8.17

中川 →編集委員長 事前検討依頼 「6箱方式」について創造学会研究大会に投稿しました。(要旨添付)
大会後、説明を敷衍して創造学会論文誌に投稿いたしたく、原著論文ではなく、総説論文の発表枠をご検討いただきたくお願いします。
      8.17 編集委員長→中川 返信 会長他に連絡し、協議を行うことにしました。

2021.12.18

中川 →編集委員長 論文投稿 本件論文(20頁)を創造学会論文誌に投稿します(原文+マスク論文)。査読をよろしくお願いします。

  12.24

編集委員会→中川 返信 現在レフリーによる査読中です。1か月以上要する場合があります。
2022.1.24 編集委員長→中川 不採録通知 3名のレフリーが「不採録」と判定しました。各判定理由を添付。判定理由について質問等があるときは、1月31日までに連絡ください。

  1.30

中川 →編集委員長 申立て書

3名のレフリーは本件を「原著論文」として査読していますが、8月に検討依頼しましたように、「総説論文」として再査読いただきたくお願いします。また査読意見の個別の論点、総説としての本論文の意義についても、ご理解いただきたく、説明書(16頁)を提出いたします。

2022. 2. 7

編集委員長→中川 返答 理事・編集委員会で意見交換し、本誌への総説や解説ではなく、書籍としての出版をお勧めすることにしました。

      2. 8

中川 →編集委員長 再申立て 総説論文として採録しない理由は何ですか?書籍出版は準備に1年程はかかるでしょう。

      2. 8

編集委員長→中川 返答 総説論文としても掲載不可と、協議の結果結論したのです。

 

以上のような経過(概要)ですが、ここには中川の申立て書(16頁)だけを掲載させていただきます。本総説論文の趣旨を繰り返し説明しております。

 


  

 [B] 総説論文としての再査読の要請書(査読意見への応答と論文趣旨の説明) (中川 徹、2022年1月30日)

 

日本創造学会論文誌 編集委員長 xxxx 先生

                                2022年1月30日   中川 徹 

日本創造学会 論文誌 投稿論文(中川)に対する 査読結果に対する申立て書  

2021年12月18日提出  論文投稿No. 25-14

 「科学技術の「抽象化の4箱方式」から創造的問題解決の「6箱方式」へ」 (中川 徹)

 

上記投稿論文についての査読結果(査読委員A, B, C) を、2022年1月24日に受け取りました。
査読いただきまして、ありがとうございます。
ただ、(原著論文として)「不採録」とのことでありました。

私は、昨年8月の段階で、編集委員長にメールを送り、本件の研究大会での発表を論文にして投稿いたしたく、原著論文以外にも、総説・解説などを受け入れていただきたい旨を要請しました。編集委員長から「早速検討を始めた」という返事をいただきましたので、(その後の連絡はありませんでしたが)本件をまとめて投稿した次第です。
本件を、原著論文でなく総説論文として、改めて採否のご判断をいただきたくお願いいたします。

本件は、著者自身の約25年の研究内容を踏まえて、「創造的な問題解決のための基本パラダイム」が必要なのだと提唱しています。科学技術全般が、出来上がった理論(モデル)を適用するための基本パラダイム「抽象化の4箱方式」を持っていますが、新しいもの(理論・モデル)を創造するための方法(すなわち、「創造性技法」、「創造的な問題解決の方法論」)の基本パラダイムをいままで見出していなかったのだ、と指摘しています。そして、私が考え出した「6箱方式」がその新しい基本パラダイムに成る、と本件で提唱しているのです。

この内容は重要な提唱であり、それを科学技術者一般や創造性技法の研究者の皆さんに理解してもらうには、いままで筆者が発表してきた原著論文や解説だけでは不十分で、またもう一つの原著論文の形式ではよく伝わりません。筆者の従来研究をきちんと紹介しつつ、論理を追って説明することが必要です。科学技術や「創造性技法」などに関して膨大な(他者の)研究がある中で、「創造的な問題解決の基本パラダイム」を論じてきたのは筆者だけです。このような理由から、筆者の研究をまとめて、新しい提唱とその論理づけをした「総説論文」の形式にしました。(他者の関連研究を客観的に説明しようとする、レビューや解説の意味での「総説論文」ではありません。)

本件は、日本創造学会の主要テーマとその根幹に関わるものであると理解しています。「創造性技法」の主目的は、「創造的に問題解決をすること」、(特に学術的には)そのための「方法・方法論」を創ることだからです。

以上の主旨により、本件を「原著論文としてでなく、総説論文として寄稿されたもの」として、改めてその内容を評価いただき、日本創造学会としての採否の判断をいただきたくお願いいたします。

なお、その判断に際しましては、例えば、5節のまとめで列挙しています7項目の要点についてご判断いただくことも一つの方法かと思います。それらの各項目が、本件中で分かりやすく論理的に説明されているか、それらは正しいのか(誤りはないか)、それらは別の研究者がすでに発表したことか、筆者自身の既発表に加えて新しい観点を含んでいるか、などをご検討ください。その上で、本件が新しい総説論文としての価値を持っているか、その内容を日本創造学会で論じる意義があるか、などをご判断いただけますと幸いです。

また、それらのご判断を踏まえたうえで、日本創造学会として、適切な形式での採録あるいは非採録のご判断をいただきたく、お願いいたします。

なお、ページを改めて、いただきました査読意見の論点にも応答しつつ、上記7項目に沿って本総説論文の内容とその(初出当時の)新規性・(現在の)独自性、意義などについて補足いたします。
また、論文要旨の改訂版を末尾に記載しております。

 


 

査読意見についての筆者の応答、および主要内容についての補足   (2022. 1.30  中川 徹)

 

前置き:

本件を、原著論文でなく、筆者自身の研究をまとめて新しく論述している「総説論文」として、判断ください。

したがって、筆者自身の既発表の諸文献からの引用(表現の微少改変を含む)を積極的にご容認ください。

なお、査読意見は、査読委員記号とその査読理由書の段落番号で[A-1]のように記します。
また、本件は、同じタイトルで日本創造学会研究大会で発表しており、著者名をマスクすることが無意味ですので、ここにはマスクせずに記述させていただきます。
また、私自身は、マスクなしの論文原稿を査読委員の皆さんがお読みいただくことを希望します。

 

(a) 科学技術の基本パラダイム、「抽象化の4箱方式」、科学技術における創造について

   (a1)  「抽象化の4箱方式」の理解と一般性について: [C-5] [C-6] 関連

「抽象化の4箱方式」は、図1の左側の上向き矢印(「抽象化」)のことだけを言っているのではありません。よく言われている、「個別のこと(事象、事例、原因、問題など)だけで考える(問題を解こうとする)のでなく、もっと一般的に考えなさい」「一般化した概念レベル(抽象化したレベル)で考えなさい」ということです。

典型例として、二次方程式とその根の公式に言及しているのは、すべての人々が中学生の時代から、そのような「公式」(すなわち、一般的に記述した問題と、その一般的な解を利用すること)の利用を、教え込まれ、深く浸透しているからです。数学での諸公式が典型的ですが、物理学の諸理論でも、その他のどんな分野でもこのようなものが作られ、「理論」と呼ばれて使われています。この「「4箱方式」という図式をあまり見る機会がない」と言われるかもしれませんが、そのように明確に示されていないことがあるだけで、この考え方は非常に深く広く使われています。これが科学技術の考え方の根底にある、基本的な考え方(指導原理、基本方式、パラダイム)であることを、否定する科学者はいないでしょう。ただ、あまりに広く理解されていて、「抽象化の4箱方式」の図式の適切な原典を見出すことができませんでした。

  (a2)  本論文が「科学技術の4箱方式を否定し」「科学技術を否定している」という査読意見: [C-6] 関連

この査読意見は、まったくの誤解です。
本論文が言っているのは、「4箱方式は科学技術の根底にある最も重要な考え方である」、しかし、「4箱方式では、創造的な問題解決には使えない(適用できない)」と言っているのです。なぜなら、「4箱方式」は出来上がった「理論(あるいはモデル、考え方)」を使う(適用する)ための方式であり、「新しい理論(モデル、考え方)を創り出す(考え出す)ためのやり方(一般的な方法)ではない」からです。「新しい理論」というのは、これから創りたいものであって、まだ存在しないのですから、当然のことです。「創造的な問題解決」というのは、いままで知られてきた方法(理論など)では解決できなくて、何か新しい考え方を創り出す(導入する)必要がある、と言う種類の問題だからです。そのため、「何か新しい考え方(理論や「もの」なども)を創り出すための方法」が必要だというのが、「創造的な問題解決の方法」が必要だということです。

 (a3) 「科学技術は次々に新しいものを生み出しているではないか」という論点: [C-6]関連

「科学技術が、次々に新しいものを生み出してきた」ということを、本論文は否定していません。しかし、それは、確立ずみの多数のモデル(理論)を、「模範」として示す(教える)ことによって、「それらを見習って作りなさい」と教えてきているのです。「新しいモデル(理論)を創る方法」を、明確に(「方法」として)教えることがほとんどできなくて、「それは先生(教授、師匠、達人)のやっていることを見て、あるいは著名な科学者の伝記などを読んで、自分で体得しなさい(はっきりとは教えられないから)」というのが実状です。その点では一種の徒弟制の教え方です。大学院の教育でも、個別の具体的な内容の研究指導はしても、もっと一般的な、「新しい理論を創るための方法」が教えられていることは(日本でも海外でも)ほとんどないでしょう。

端的には、「発明をする方法論」とか、「科学技術において新理論を創り出す方法論」とか、「創造的な問題解決の方法論」とかは、(民間ではそのような出版がいろいろあるにしても、)正式の授業やカリキュラムはほとんど行われていません。そのような(一般的な、学問的な)「方法論」が存在しているとは、学術界(科学技術の世界)であまり受け入れられていないという状況です。「発明」にしても、「新理論」にしても、その成立は個別の体験談、成功事例として語られているだけで、きちんとした「方法論」にはまだなっていないのです。
この論点に関して、科学分野の大先生の問題提起と私の応答からなる(同様な)討論を、『TRIZホームページ』に掲載しています(2016)。https://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/ jforum/2016Forum/Naka-Academia-2016/Naka-Academic-CrePS-160727.html#Inquiery 
「科学技術の研究・開発に、「創造的な問題解決の方法論」を持ち込む(創り出す)ことが必要であり、有効なのだ」というのが、筆者の主張であり、本論文で具体的に示そうとしていることです。「科学技術の基本を否定する説明」をしているのでは、まったくありません。

  (a4) 科学技術の発展には、「抽象化の4箱方式」以外に、新しい基本方式が必要だという理解:

上記(a2)(a3)の言い換えになりますが、「「抽象化の4箱方式」は、既存の理論(モデル)の適用のための方式であり、新しい理論(モデル)を創出するための方式ではないのだ」、と言う理解が非常に大事なことです。
これを1.1節で述べました。私自身も、このような表現で明確に述べたのはつい最近、昨年の創造学会研究大会の予稿集(2021)[2]が初めてです。2016年の[19]でさえ、「「4箱方式」は創造的な問題解決の指針としては不明瞭で使えない」といった説明でした。ここで述べた一文の理解を、明瞭に述べた他文献を私は見たことがありません。

 

(b) 「創造性技法」(「創造的問題解決の諸方法」)のさまざまなアプローチと、基本パラダイムの不在について

   (b1) 「ひらめき」を得る過程の記述について

古来から、発明や発見などを得たときの体験について、多くが語られていて、「ひらめきを得た」と表現されていることが多いので、これを1.2節の議論の導入に使いました。その過程を表現した基礎は G. Wallace の4段階説でしょうが、ここでは第2段階(b)の説明を、脳内の無意識下の熟成の期間というだけでなく、(それに並行しておもてで行われている)強い問題意識をもった長期の試行錯誤の期間と表現しました。その方が多数の人々のいろいろな研究や体験として、より広く理解されている形であると思いますので。

  (b2) 「創造性技法」を模索するさまざまなアプローチ:

上述の「ひらめきを得る4段階」の理解は、「では何をするとよいのか?」という質問に明確な答えを与えません。そのために、沢山の方向への模索が行われています。1.2節の1から10に書きました項目は、そのような様々なアプローチを平易な言葉で(私が)表現したものです。そして表1には、それらのアプローチをもう少し整理して(8項目)で表現しました。既存技法の例は膨大な数にのぼります。それらのうちの代表的なものを表1の第2列に記し、また後述のTRIZ/USITでの技法例を第3列に記しました。なお、査読意見[C-7]は、「これらの技法の列挙に整合性がとれない部分が散見される」と述べています。どの技法について、どのような観点からの批判であるかは不明です。ただ、本表は各アプローチについての技法例を列挙しており、同項目中の複数の例が互いに似ているかどうかは問題にしていないことを、お断りしておきます。

  (b3) 「創造性技法」・「創造的な問題解決の諸方法」のための基本パラダイムの不在

「上記(b2)のさまざまなアプローチが、ばらばらに模索されている」、「ばらばらである原因は、それらの根底に「基本パラダイム」(基本的な方式、指導原理)がまだ見出されていない(不在である)からだ」というのが、本論文が指摘していることです。これらのアプローチは、日本創造学会の研究分野の大半/主要部を占めていますから、当学会にとっては非常に大きな問題の指摘です。「多方向に、ばらばらにある」というのは、ある程度の共通認識になっているだろうと思います。そして、「群盲象をなでるという状況にある」と思っている人もあるでしょう。しかし、「その根底に基本パラダイムがないからだ」、「基本パラダイムが必要なのだ」ということを、今まで主張した文献を見たことがありません。それは日本創造学会だけでなく、日本全体でも、おそらく世界中でもいないだろうと思います。

よく考えてみると、「創造性技法の研究がその基本パラダイムを欠いている」ということと、「科学技術が新しいモデル(理論)を創り出す適切な基本パラダイムを持っていない」ということは、同じことを言っているのです。(科学技術において)「新しい考え方(モデル・理論)を創り出すためのやり方(方法)」が、すなわち、「創造性技法」であり、それを主課題としている学術研究団体が日本創造学会なのですから。また、「創造性技法」を使って、やりたいことが「創造的な問題解決」なのですから、いままで「創造的な問題解決のための基本パラダイムが未解明であった」というのも、同じことを言っていると理解されます。

そして、これら三者(「科学技術での新しい考え方の創出」、「創造性技法の研究」、「創造的な問題解決の方法」)の共通の「基本パラダイム」が不在であると指摘して、その新しい「基本パラダイム」を提唱しているのが、本論文です。

 

(c)  TRIZとUSITが、新しい展開を準備した

  (c1) TRIZ(発明問題解決の理論)の寄与

TRIZは、2.1節に述べましたように、旧ソ連の民間で開発樹立されたのちに、1990年代から世界に広がり、現在多くの国で使われています。日本には1996年に紹介され、民間の大企業に一時広がりましたが、この10年ほどやや停滞しています。日本で大学や学術界に十分浸透できていないことも、大きな課題です。韓国では、1990年代の末から、サムスンなどの財閥大企業がこぞってTRIZを導入し、現在の韓国経済の躍進の大きな原動力になりました。

TRIZは、発明(あるいは創造的問題解決)のための一つの技法という理解よりも、はるかに大きく豊富なもので、思想、技法体系、科学技術知識ベース、ソフトウェアツールシステムなどを備えた体系になっています。技術一般からスタートし、生物・ビジネス・社会などの分野でも適用されてきています。

図3のように、TRIZの主要4技法は、「4箱方式」をベースにし、それぞれ独自に整理・開発した膨大な科学技術の知識ベースを持っています。これらの技法も知識ベースも、科学技術の諸分野を横断して参照・利用でき、近年どんどん拡充されています。TRIZの諸概念は非常に基本的ですから、科学技術の諸分野(さらに非技術の分野)に、分野を横断して適用可能なのです。システム思考、システム進化の概念、矛盾の解決、など基本的な考え方・思想を持っていることも、大きな特徴です。TRIZの基本パラダイムは図3のように「4箱方式」であるといえますが、その分野横断の特長が、「創造的問題解決の方法論」の基本パラダイムを構築しようとした本論文の研究に、大きな寄与をしました。

なお、3.2節の図9と図10で、「節水トイレの節水化」の事例をとりあげ、TRIZにおける「矛盾を解決する方法」を例示しました。「矛盾の解決」は「創造的問題解決」にとって、非常に重要な方法の一つです。

なお、図2も図3も、筆者の独自の表現ですが、2.1節のTRIZそのものは創始者Altshuller [7] や西側世界での推進者Darrell Mann [11]らが開発・発展させてきたものを、紹介しています。

  (c2)  USIT(統合的構造化発明思考法)の寄与

2.2節に紹介していますように、USITは、TRIZの(間接的)影響の下に、米国のSickafusが開発したものです。創造的な問題解決のための、簡潔な一貫プロセスを構築し、ハンドブックや知識ベースを(直接には)用いず、(科学技術の素養を持っている一般の)ユーザの直感的洞察を重視して引き出そうとしています。いろいろな点でTRIZとは対極の考え方をしていることが、非常に参考になる興味深い技法です。

筆者は、TRIZ(現代化TRIZを含む)とUSITの両方を導入・消化したうえで、学生の教育や企業技術者の研修では、USITを主体に教育しました。さらに、USITプロセスのフローチャート表現を図4のように改良し、また、図8で説明している「TRIZの解決策生成技法の全体をばらして、簡潔なUSITの5解法に導入・再整理し、USITでの解決策生成のためのオペレータ体系を構築する」ことを行いました(2002)[15]。これらは、SickafusのUSITからの発展であるだけでなく、TRIZの導入・普及のやり方として、日本が世界でユニークな位置を占めるに至りました。

これらの土台の上で、筆者がUSITのプロセスをフローチャート表現からデータフロー表現に書き直し、「6箱方式」という新しい概念を着想しました(2005)[14]。なお、このとき、筆者には「フローチャート表現よりも、データフロー表現の方が、プロセスの仕様記述の面でより基本的で安定である」という情報科学の基本知識が、大いに力になりました。

 

(d)  「6箱方式」の導出、記述例、「創造的問題解決の基本パラダイム」であることの認識

  (d1) 「6箱方式」の導出と、その理解の注意点

「6箱方式」の表現とその理解は、3.1節に説明しているとおりです。これを導出した当時の説明は、(2005) [14] に詳しく書いています。その要点のいくつかをここに書いておきます。まず最初に得た表現は、単純な6箱の図で、箱の内容と進行を説明した図でした。その段階での鍵の一つは、箱3に「現在システムの理解」と「理想のシステムの理解」を併記したことです。SickafusのUSITでは、実際的な観点からどちらか一方だけでも問題解決が進められると説明してきました。また、フローチャート表現(図4)では、この二つを別プロセスとして順次行うという表現です。箱3に両者を併記したことにより、(両者の順序は問題でなく)両者が常に必要であるという基本を明示しました。またこれにより、(「抽象化の4箱方式」でいう)「一般化した問題」がどのような内容(またそれに伴う表現)を持つべきかを、明示できました。もう一つの鍵は、箱6に「ユーザの具体的解決策」を示し、解決策の実現のプロセスを明示したことです。Ford社でUSITを開発・適用してきたSickafusが、USITの後に(外に)「実現」のプロセスがあることを明示していた(図4)ことが、助けになりました。同様に、USITの前段階としての箱1を明示しました。

この段階での「6箱方式」の表示でも、それまでに日本で積み上げてきました(筆者および複数企業での)USITによる問題解決の経験をうまく反映できることを認識しました。特に、箱3の情報をきちんと得ることによって、アイデアの生成がスムーズにできること、また、箱4「新システムのためのアイデア」というのは、非常に基本的で単純なものであること、それを箱5「解決策のコンセプト」(すなわち、概念レベルでの解決策)にして行くのだということ、を明確に表現でき、理解できました。すなわち、箱2→箱3→箱4→箱5のプロセスが、科学技術の「抽象化の4箱方式」(図1)と同様の4箱形式でありながら、「創造的な問題解決」のプロセスとして、非常に一般的で、適切なものであることを、認識しました。

さらに大事なことは、図6のように「思考の世界」と「現実の世界」の分離を明示したことです(TRIZではこの分離は明示されていません)。これはSickafusが、USITでの問題解決は「思考の世界」で、自由に・大胆に・根本に立ち返って考えるのだ、と強調していたことを自然に反映しています。二つの世界の分離を明確にした結果、それぞれが異なる状況にあり、異なる価値判断と指導原理を持つ(持つべき)ことが、理解できるようになりました。二つの世界を分離した表現(図6)は、筆者が初めて作った(2005) [14]のですが、その重要さが後になるほど明確になりました(後述)ので、「創造的な問題解決のための「6箱方式」」としては、必須の要素であるとして扱っています。

  (d2) 問題解決事例の「6箱方式」での記述例、「6箱方式」の有効性の検証について

「6箱方式」という表現の枠組みができましたので、それまでに作ってきたUSITやTRIZでの問題解決事例を「6箱方式」で表現していきました。そのうちの二つを本論文で記述しています。

なお、査読意見には、「学生の卒業研究が4例載せられていますが、単なる過去例の説明モデルになっており[A-4]、「単にプロセスの1から2、および5から6を分離したにすぎない」[B-4]、「製品開発や特許取得などをしたという事例の列挙がほしい」[A-4]、「「6箱方式」の検証可能性が保証されていない」[A-4]  などがありました。ここにそれらへの応答をも合わせて補足説明します。

第1の記述例(図7、図8)は、「裁縫で針より短くなった糸を止める方法を作れ」という卒業研究での事例です。これは、学部生がUSITを用いて作ったものです。まず、図7がUSITによる問題解決の一部始終であり、USITからの順を追った質問に答えていくような形で思考が進められています。この事例は、授業や研修でたびたび使いましたが、学生たちにも、一般の人たちにも、そして技術者たちにも、分かりやすいと好評でした。

その事例を「6箱方式」の図式で表現したのが図8です。「6箱方式」(図6)の各段階(「箱」)でどういうことを要求しているのかを、この事例で理解できます。特に、箱4の「新システムのためのアイデア」が、この問題に即した、随分単純な、それでいて本質的なアイデア(基本的な発想)であることが分かります。それは、「4箱方式」(図1)で一般的な解決策として「ヒント」を得るよりも進んだ段階になっています。

この事例に対する査読意見[B-4]は、図7(USIT)から図8(「6箱方式」)への書き換えがスムーズであることに「驚いて不服を言っている」ように見えます。このスムーズさは、「6箱方式」がUSITのプロセスの基本概念をデータフロー表現にして得たものですから、当然のことです。また、箱1→箱2はUSITにとっての前処理、箱5→箱6はUSITにとっての後処理であり、前述(d1) の趣旨で「現実の世界」で実行するべきこととして分離しているのです。

第2の記述例(図9、図10)は、韓国のK.W. Leeたちが「水洗トイレの節水化」の問題をTRIZを使って解決した例であり、特許取得済みで発表したものです(2003) [18]。[注:原発表が(2003)[18] 、図9のスライド(中川)が(2005)[14]。

水洗トイレは、1874年に米国で特許取得されて以来、現在まで世界中で使われています。その節水化は世界中で大きな需要があり、沢山の人が「本当は、S字管が邪魔なんだけど」と考えたでしょうが、ずっと未解決でした。K.W. Leeたちは、図9のスライドのような思考過程で、鮮やかな解決策を創り出しました。その思考過程はAltshullerの「(物理的)矛盾の解決法」です。「問題を突き詰めて、システムの主要部の一つの属性(性質)に関して正逆の対立する要求があるという、「物理的矛盾」を明確にできれば、「分離原理」を使って必ず解決できる」というのが、Altshullerの方法です。私は、Leeの論文を読んで、「そうか、このように考えればよいんだ」と、「矛盾を解決する方法」を学びました。(その後いくつものTRIZ解決事例を学びましたが、これが一番簡潔で教育的だと思います。)

この事例を「6箱方式」で表現する(図10)と、Altshullerの矛盾解決法が、(箱2→箱3→箱4)のプロセスで明快に表現できました。これは大きな発見でした。「6箱方式」はAltshullerの矛盾解決法を、適切・簡潔に表現し、ガイドしています。それに対して、Altshuller自身が集大成として最後に作り上げたTRIZの問題解決の全体プロセス(ARIZと呼ぶ)は、TRIZの大きな4技法(図3)を次々に使い、最後に物理的矛盾として定式化して解決しようとします。図10の「6箱方式」は、もっともっと簡潔で素直に解決できることを教えてくれました。

本論文では「6箱方式」での問題解決の記述例としてこれら2例を示しました。これらは基本的に「思考の世界」での創造的な問題解決の事例で、比較的小さな問題(テーマ)を扱っています。世界および日本の企業などで、TRIZやUSITを適用して、製品開発や技術開発をした事例はいろいろ発表されており、開発の中身(問題の状況・原因、分析の方法と内容、ビジョンの設定、アイデアの創出の過程、解決策のコンセプト(初期案)、解決策実現の過程など)をトレースできるものもあり、それらを「6箱方式」で記述することは興味深いことです。実際のプロセスにはいろいろな紆余曲折もありますが、「6箱方式」を定義するデータフロー表現(図6)はこれらの紆余曲折をも許容しています。「6箱方式」はこれらのさまざまな例についても「思考の世界」でのプロセスを適切に表現でき、だから、さまざまな創造的問題解決を「思考の世界」でガイドすることができる、と考えています。

なお、査読意見[A-4]に返答しますと、「過去の事例を説明するモデル」というのは、軽んずべきことではありません(もちろん、過去の個別事例を説明する個別モデルで、それがいろいろに変わり一般性がないという場合は論外です)。それに対して、「一般的なモデルを作り、それが過去の(優れた)さまざまの事例の問題解決プロセスを適切に表現する」ことを示すのは大事なことです。それは、提案モデルの検証をしていることであり、モデルの改良や説明の役にも立ちます。

   (d3) 「現実の世界」での「6箱方式」の位置づけ、役割、現状

「6箱方式」の下半分である「現実の世界」での状況や問題は、3.3節および図11で説明していますように、まだまだ未解明で広範なテーマと問題点を抱えています。取り上げようとする「現実の世界」がどんなものなのか?どんな適用分野?どんな型?どんな活動段階?どんな目的?などがまったくさまざまだからです。それに応じてどのように問題を定義する(箱1→箱2)のか?そしてどのようにして解決策を実現する(箱5→箱6)のか?などがいろいろ違うでしょう。この2つの過程に関する従来からの研究や方法もまた膨大にあります。筆者が図11を作ったのは(2016)[19]ですが、その後まだほとんど進展できていません。

それでも明確になったことは、「「6箱方式」によって、上半分の「思考の世界」でのプロセスや指針が確立できているから、それを前提にして、下半分の「現実の世界」を明確にしていけばよい」ということです。「現実の世界」の状況に応じて、「思考の世界」の活動を、簡単化して(繰り返し)行えばよい場合、標準的にきちんと行うのがよい場合、大規模問題の部分ごとに何回も行って統合する必要がある場合、などがあるでしょう。「6箱方式」の「思考の世界」はそれらの違いに適応できる汎用性・順応性を持っています。

 

(e)  「6箱方式」の実践法、簡潔な実践法としてのUSIT

   (e1) 「6箱方式」の実践法、種々の技法の利用可能性

3.1節の最初に記しましたように、「6箱方式」はデータフロー表現で定義されており、各「箱」で規定され説明されているような情報を獲得・創出することによって、プロセスを進めて行きます。箱間の矢印は、基本的な進行方向と進行の概念的な説明を書いているに過ぎず、それ以上の詳細を規定しません。すなわち、各進行段階において、ユーザ(問題解決に取り組んでいる人)が適切と考えるどんな技法を使ってもよく、どんな順序で使ってもよい。さらに、箱間で戻りや跳びや繰り返しなどがあってもよい、のです。だから、すでに開発されてきたいろいろな技法を使うこと、各人がよく知っている有効な方法をいろいろ使うことが奨励されます。それでももちろん、各段階で有効で適用範囲の広い技法が推奨され、技法間の競争があることが望まれます。

また、このような自由さの一方で、もっと簡潔で有効な、そして一貫した方法の標準的な系列を持つことは、実際上大きな必要性と有益性があります。そのような一貫した技法の系列として、筆者はUSIT法を推奨します。

   (e2) USIT法の確立と文書化

「6箱方式」における「思考の世界」での方法として、筆者がUSIT法を推奨するのは当然のことです。USITが理論的・実践的に確立・強化してから、そのプロセスの基本概念を「6箱方式」として表現したのですから。そこで筆者は、USIT法のマニュアルを改めて整備し、また従来のUSIT適用事例をマニュアルに対応した模範例となるように詳細に記述しました (2015) [17]。なお、この事例の一部には、TRIZでの解決事例をUSITのプロセスとして表現し直したものもあります。

 

(f)各種の「創造性技法」を「6箱方式」で位置づけなおし、理解し、統合する試み

   (f1)  各種の「創造性技法」を「6箱方式」で位置づけなおし、理解する

現在さまざまなアプローチで乱立している各種の「創造性技法」(1.2節) を、新しい「6箱方式」という基本パラダイムで位置づけ直すことが有益です。そのやり方の概要を4.1節と図14に示しました。明確な個別の処理段階に対応する技法がある一方で、複数の処理段階に関わったり、全般的な心理的準備に関わったりしている技法もあります。

この位置づけ直しのためには、各方法を理解し、「6箱方式」のどの処理段階で、どんな情報をベースにして、どんな処理を行い、どんな情報を出力しようしているのかを、書きだす必要があります。このためには、まず具体事例を用いて記述し、そのうえで、それを一般化した概念で記述することが適当でしょう。いずれにしても、それらの方法を開発・推進している人、あるいは良く知っている人との、共同作業が望まれます。

   (f2) 「創造性技法」の体系の整理、統合する試み

上記の位置づけ直しは結局、「6箱方式」という基本パラダイムを骨格として、各段階/各側面で有効に利用されている諸技法を、整理・体系化する試みにつながるものです。そのような体系化は、一般ユーザの理解と適用を助け、また同時にこの分野の研究に大きな方向づけを示唆するでしょう。

   (f3)  「創造的な問題解決の一般的方法論」の試み

上記の試みの一つとして、筆者は「創造的な問題解決の一般的方法論」(CrePS)を構想し、図15に示したような構成での方法と文献の収録を始めました(2013) [25]。ただ、この試みは容易でなく、現在一旦停止しています。

 

(g) 「創造的な問題解決」の基本パラダイムをベースにした大きなビジョン

   (g1) 「創造的な問題解決の方法」の適用・普及が望まれる領域の自覚

われわれ研究者も技術者も、つい自分たちの目の前のこと、細部の課題に目を奪われ、かかずらわっています。もっともっと大きなスケールで考えようとしたことを、3.4節に記しました。TRIZの適用・普及が望まれる諸領域を書きだしたのが図12です(2012) [21, 22]。教育、学界・大学、国と地方、産業、マスコミ・出版、社会、家庭、などと書き出して、TRIZの適用・普及が望まれる領域の大きさ、期待されることの大きさに、自分でも驚きました。自分たちが研究・教育・実践に努力しているテーマは、本来ずっとずっと大きな影響を持つことなのだ、と気がつきました。

そして、これはTRIZやUSITなどという個別の技法で進めるべきことではない。もっと大きな 「創造的な問題解決の方法」一般として考えるべきことなのだ、と気が付きました。私はその方法一般に「CrePS (General Methodologies for Creative Problem Solving)」 という名前をつけました。ただ、その後このような固有名詞でなく、もっと一般的な言葉が良いと気づき、(『デザイン科学事典』での解説(2019)[16]や)本論文のように「6箱方式」という概念を前面に出すようにしています。

   (g2) より高い新しい目標

前項の気づきの結果として、「より高い新しい目標(TRIZを超えて)」を得ました(図13)(2012)[19]。

「創造的な問題解決と課題達成のための、一般的な方法論(CrePS)を確立し、
それを広く普及させて、 国中の(そして世界中の)さまざまな領域での問題解決と
課題達成の仕事に それを適用する。」

ただし、ここで、「TRIZを超えて」とか、「CrePS」とかの名前に言及しているのは、まだ当時の(そして現在でも)特定の立場からの表現になっていると、いまは反省しています。

ともかく、この「より高い新しい目標」が、TRIZとかUSITとか、あるいは「創造性技法」のいろいろとか、を乗り越えた、私たち(科学技術や創造性技法の研究・開発・教育・適用などのすべてに関わる同志の人々)の新しい目標である、と思っています。そして、その新しい目標に理論的な基礎・土台を与えるのが、「6箱方式」なのです。

これが、(いま投稿しています)本論文の根幹の主張です。

 

(h) 本論文の「新規性」について、本論文が「総説論文」である必要性、  「総説論文」として発表する意義

   (h1)  本論文を「原著論文」として見たときの「新規性」について

以上(a)〜(g)に、本論文の内容のポイントを、本論文の論理に沿って説明してきました。その中で述べていますように、これらの内容の大部分は、筆者がこの25年の期間のそれぞれの時期に、原著論文や解説やホームページの記事として発表してきたことです。そして、本テーマに関係した筆者の最新の原著論文(国際会議での発表)は(2016) [19]です。

そこで、本論文中の(「原著論文」として扱うときの)狭義の「新規性」は、以下の項目です。

このように、極めて少ない状況です。

しかし、本論文の内容の大部分は、筆者自身がいままで「原著論文」として発表してきた内容です。

他者の研究をベースにして記述している主要項目は、以下のものです。(それでも、図や表現は筆者独自) 

これら以外の部分は筆者自身の研究と考察による記述です。その主要部で他者の研究を言及していないのは、言及するべきなのに無視しているのではなく、言及するべきものがないと判断しているからです。  

   (h2) 本論文が「総説論文」であることの必要性

本論文の内容の要点は、5節のまとめに列挙していますように以下の7点であり、本申請書の(a)〜(g) に逐次補足説明してきましたとおりです。

・ 科学技術の基本パラダイムは「抽象化の4箱方式」であるが、それは「創造的問題解決」のためには有効でない。

・ 創造的問題解決のための従来の諸方法(いわゆる「創造性技法」)は、基本パラダイムを持たずに、乱立してきた。

・ TRIZとUSITが新しい展開を準備した。

・ 「創造的問題解決の6箱方式」を新しい基本パラダイムとして、筆者が提出した。

・ USITが「6箱方式」を実践する簡潔な一つの方法である。

・ 「創造性技法」の各種の方法を、「6箱方式」の枠組みで位置づけなおし、統合することによって、「創造的な問題解決の一般的な方法の体系」(CrePS)が得られる。

・ 「創造的問題解決」の基本パラダイムが得られたことは、あらゆる分野の創造的な研究・開発、あらゆる領域での変革(イノベーション)に重要な指針を与える。

これらの要点をまとめて説明するのに、「総説論文」の形を必要とする理由は以下の点です。

   (h3)  「総説論文」として発表する意義

本論文を「総説論文」として発表する/公表する意義を、以下のように考えます。

説明が長文になりましたが、本件を総説論文として採録いただきたく、再査読を申請いたします。

 


 

なお、以上の記述を踏まえて、本論文の「要旨」の記述を以下のように推敲いたします。

     [要旨]  (旧版 2021.12.18)

科学技術の基本パラダイムは「抽象化の4箱方式」であり、各分野ごとにモデル(理論)が構築されている。しかし、それは「創造的問題解決」のためには有効でない。このため、創造的問題解決を目指した従来の研究は、基本パラダイムを持たずに、多様な「創造性技法」として乱立してきた。その中でTRIZとUSITが新しい展開を準備した。筆者は、膨大なTRIZを簡潔なUSITに統合した上で、USITのプロセスのデータフロー表現から、「6箱方式」を得た。筆者はこれが新しい「創造的問題解決の基本パラダイム」であると提唱している。多様な「創造性技法」の一つ一つを理解し、「6箱方式」で位置づけ直し、統合することが有意義である。[脚注]

 

 [要旨]   (推敲版 2022. 1.30)

科学技術は「抽象化の4箱方式」を基本パラダイムとし、各分野で確立されたモデル(理論)に当てはめて問題を解く。それは新しい考え方(理論)自身を求める「創造的問題解決」には有効でない。このため、創造的問題解決を目指す「創造性技法」の諸研究は、基本パラダイムを持たずに乱立してきた。その中でTRIZとUSITが新しい展開を準備した。筆者は、両方を導入し、膨大なTRIZを簡潔なUSITに統合した上で、USITプロセスのデータフロー表現から、「6箱方式」を得た。TRIZ/USITの問題解決事例を「6箱方式」で表現し、これが新しい「創造的問題解決の基本パラダイム」であると提唱している。この方式で、「思考の世界」での問題解決プロセスが確立できたので、「現実の世界」での問題状況の多様性への対応が今後の研究課題である。「創造性技法」の一つ一つを理解し、「6箱方式」で位置づけ直し、統合することが有意義である。[脚注]

 

    [Abstract]    (Original, 2021.12.18)

The basic paradigm in science and technology in general is the "Four-Box Scheme of Abstraction", which gives foundations to various models (or theories) in every field.  It is not effective, however, for the purpose of Creative Problem Solving.  Thus, researches and works aiming at creative problem solving have been struggling so far without any effective basic paradigm and resulting in confusing situations of different competing approaches in so-called "Creativity Methods".  In such a situation, TRIZ and USIT have prepared for the emergence of a new paradigm.  The present author has integrated voluminous TRIZ tools into much simpler USIT, and, with the hint of data-flow diagram of the USIT process, has formulated the "Six-Box Scheme".  The present paper advocates that the "Six-Box Scheme" is found to be the "Basic Paradigm for Creative Problem Solving".  It will be productive to allocate various methods/approaches of Creativity Methods in their appropriate positions in the "Six-Box Scheme" and to integrate them all in the new Paradigm of Creative Problem Solving.   

 

     [Abstract]    (Revised, 2022. 1.30)

Science and technology have the "Four-Box Scheme of Abstraction" as the basic paradigm, and solve problems by applying them to models (theories) established in each field.  This is not effective for "Creative Problem Solving" where a new way of thinking (theory) itself is to be found.  Thus, various researches on "Creativity Methods" for Creative Problem Solving have different approaches without a basic paradigm.  Among them, TRIZ and USIT have prepared a new development.  The author introduced both, integrated the huge TRIZ into the concise USIT, and from the data-flow representation of the USIT process obtained the "Six-Box Scheme".   Having many TRIZ/USIT problem solving cases shown in the "Six-Box Scheme", he is advocating the Scheme as the new "Basic Paradigm of Creative Problem Solving".  Now that the Scheme has established the problem-solving process in the "Thinking World", the diversity of problem situations in the "Real World" is the focus of research in future. It would be meaningful to examine each of the Creativity Methods and reposition and integrate them in the "Six-Box Scheme".

以上

本ページの先頭

A 主要経過

B 異議申立て書

査読への著者の応答

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

(g)

(h) 要旨推敲   総説論文のページ  

 

 

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最終更新日 : 2022. 7.22    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp