講演: 創造性プロセス:


あなたの創造的天分を解き放つ、習慣としての実践法

Keith Sawyer (Professor, The University of North Carolina at Chapel Hill)、
2017年12月14日、Future Frontiers 講演 

YouTube:

和訳: 中川 徹 (大阪学院大学) 2020年 5月 1日

掲載:  2020.5.10; 更新: 2020. 5.25

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  編集ノート (中川 徹、2020年 5月10日)

本件は表記のように、YouTube に掲載されている Keith Sawyer 教授の講演動画(字幕つき)から、中川が英文テキストを起こし、さらに和訳したものです。Dr. Ed Sickafusの USIT NewsLetter を読みなおしている過程で、Keyth Sawyer教授の研究に導かれ、Internet 検索をして本講演の動画に遭遇しました。英文・和文のテキストを作り、Sawyer教授の快諾を得て、ここに掲載します。(主催者の Future Frontiers 社に掲載許可の申請をしていますが、COVID-19のために同社の今年のイベントは計画中止となり、活動を停止しているようで、応答がありません。)-- 同社のBecky AndersonとLinkedInを通じて連絡がとれ、5月21日につぎの返答をもらいました。「連絡をつけてくれて、ありがとう。Covid-19のために、Future Frontiers社のプロジェクトが停止しているため、応答ができなくて、すみません。本件どうぞ掲載下さい。Future Frontiersは祝福します。」(2020.5.25)

Keith Sawyer 教授は認知心理学の立場から、創造性と創造性プロセスについて研究し、発表・著作しておられます。本講演は、Future Frontiersのイベント(多数の著名な講師による、講演と研修・討論のフェスティバル)での、13分弱の講演です。教授の講演は、短い簡潔な文を、テンポよく論理的につないでいくスタイルで、体系的で明快です。(英語での発表練習のテキストとしても、日本語での講演の構成の教材としても、優れた教材だと思っています。)

「創造性は謎めいたものではない。誰にでも習得でき、実現できるものだ」というのが、本講演の趣旨です。スライドもなく、明確な休止もなくて聴衆を引き付けていく講演ですが、教授の話しのテンポ・間合いと論理から、私が段落分けをし、各段落の先頭の文を太字にしました。この太字部分を読んでいけば、全体の論旨が明確に分かります。最後には、全体をきちんとまとめています。これを見ると、緻密に構成された名講演だとうなづけます。

(なお、本ページ末尾の、編集ノート追記(中川のコメント) も参照下さい。)

 

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講演のまとめ

編集ノート追記: 中川のコメント 

講演動画(YouTube)

英文ページ 

 


  Future Frontiers Seeds 講演   

 

あなたの創造的天分を解き放つ、習慣としての実践法

Keith Sawyer (Professor, The University of North Carolina at Chapel Hill) 
2017年12月14日  

Future Frontiers Seeds 講演

YouTube:  https://www.youtube.com/watch?v=TCiqrH39tRE  (2020.4.28)

和訳: 中川 徹 (大阪学院大学)、2020年5月 1日

 

[概要: Future Frontiers]

Future Frontiers Seeds 講演において、Keith Sawyer は創造性への道筋を拓いている。Sawyerによれば、大抵の創造的なアイデアは、鮮やかなインスピレーションが雷光のごとくに閃くといったものではなく、以前には遠く離れているように見えた複数のアイデアが再結合したものだ、という。創造的な領域で仕事をしている人々は、Sawyerのこの洞察で恩恵を受けるだろう。より良いアイデアを、ときには偶然に、思いつく実際的なステップを提供しているのだから。

 

創造性は謎めいたものではない。創造性は、一つの稀なアイデアで、人生に一度やってきて、世界を変えてしまう、といったものではない。まったくその反対である。創造性とは「生き方」である。創造性は、創造的な成果へと一貫して導く一つのプロセスである。創造的プロセスの出発点は一つのアイデアであるが、それは一瞬の閃きなのではない。それは一つの小さなアイデアである。しかし、一つの小さなアイデアでは、世界を変えるには十分でない。創造的プロセスは、多数の小さなアイデアが関与する。それらは、長期にわたって、あなたが創造性へのプロセスに従って進むにつれて出逢う。そして、そのような小さなアイデアに、あなたは毎週出逢う。実際、毎日出遭う。毎時間出逢う。創造的な生き方なら、これらのアイデアはひっきりなしにやってくる。あなたは、これらの多くの小さなアイデアを絶えずもたらす習慣と実践を身につける。

いまや、心理学の研究で、アイデアを得るのに何が関係しているのが、分かるようになってきた。一つのアイデアというのは、既存の複数のアイデアが結合したものである。あなたの頭の中にすでに持っていたメンタルな素材の結合である。記憶、経験、考え、など。そしてあなたがそれらの考えを結合させたとき、それがあなたがアイデアを得たときである。ただ、創造性研究から分かっているのは、最も大きなアイデアというのは最も創造的なアイデアであり、それは非常にかけ離れた概念を結合したアイデアだ、ということである。それらを「疎遠結合」と呼ぶ。そして、そのように非常に違った複数の概念を一緒にして「疎遠結合」を創ったとき、あなたは本当に良い創造的なアイデアを得た可能性がある。

しかし、私たちは大抵、非常に焦点を絞った日常を送っている。自分たちの問題に集中している。自分たちの仕事に集中している。私たちは自分の分野の専門性を持っている。私たちは学卒の資格を持っている。私たちは特定の所と組織で働いている。だから、私たちが頭の中に持っているメンタルな素材の大部分は非常に似ている。そうだろう?それらは相互に密に繋がっている。同一の概念ネットワークの一部分である。それで、あなたたちが持つアイデアの大部分は、非常に似通った概念やアイデアたちを結合したものである。

それでは、いったいどのようにして「疎遠結合」を作り、創造的プロセスを前進させる可能性をより高くしていけるのだろう? さて、その鍵は、さまざまに違うことを沢山自分の頭に入れることだ。自分の頭を、非常に大きなバライエティのある概念と概念領域で満たすこと、記憶や経験で満たすようにすることだ。そのための最もよい方法の一つは、簡単で、いつも注意を払っていることだ。毎日の生活で、注意を払うこと。上を見てみよう。周りの建物を見よう。ビルのてっぺんに何があるかを見よう。道の脇の割れ目を覗き込んでみよう。いつもは気に留めないいろいろなものがある。創造性は、注意深い意識の一つの形態である。このような意識が、あなたが自分のことに集中しているときには気がつかないような、新しい素材をあなたの頭に持ち込むのだ。鍵は、そのようなメンタルな素材、そのような多様性を、あなたの頭の中に得ることである。

あなたの頭を多様な情報で満たすための、もうひとつの実によい方法は、さまざまに違う多くの人々に会うことだ。普通には交渉がないような人々と話をすることである。あなたと随分違う人々、普通には出逢うことがないような人々と。そこで、例外的に創造的な人たちは、このような違うタイプの人たちと出逢う可能性が高くなるように、毎日実践している。それが、このさまざまな概念の素材をあなたの頭の中に持ち込むことができる、もうひとつの方法である。あなたが得たこれらの沢山の小さなアイデアが、創造的プロセスを前進させる。それらが一緒になって「疎遠結合」をもたらせるのだから。創造的プロセスの核心はこれらの小さなアイデアなのである。そして、もしあなたがこの創造的なライフスタイルを本当に実践しているなら、それらの小さなアイデアをあなたは毎日得ている。それらを実に頻繁に得ている。それこそが創造的プロセスを前進させる。

しかしながら、一つの小さなアイデアはどれ一つとして、世界を変えるには十分でない。そうだろう?創造性プロセスには多数のアイデアが関与しており、そのどの一つのアイデアも孤立してはいない。あなたは、時間をかけて、それらを結合させることができる。それこそが創造性プロセスを前進させる。

この創造性プロセスの重要な特徴の一つは、それが「直線的でない」ことだ。創造性プロセスは直線的でない。それは、彷徨い、即興的に進むプロセスである。出発時点では、それがどこに行こうとしているのかを、あなたは予測できない。あなたはともかく出発しなければならない。そのプロセスが一つの解決策に最終的に到達するものと信じて。それは一種のジグザグのプロセスである。そうだろう?方向を変えながら、それは常に前進するが、それがどこに行こうとしているのかをあなたは知ることができない。

創造性に関して最もよいことの一つは、私たちが「問題発見」と「創造性研究」と呼んでいるものだ。問題解決にはしばしば創造性が関わる。あなたがアイデアを思いついて、それらが問題を解決するとき、それらは絶対に創造性に関与している。しかし、大抵の並外れた創造性は、あなたがそのプロセスを始めたときで、何が問題かもまだよく分かっていなかったときに、やってくる。あなたがまだ、どう質問したらよいのかが分かっていず、あるいは、問題を立て直さなければならないとき、である。あなたの問題の立て方が、その問題を解決する最善の方法でない。あなたは、あるタイプの問題、あるバージョンの質問を考えて、そのプロセスを開始しなければならない。しかし、そのプロセスを進めていくにつれて、新しい質問が生じてくることを、あなたは受け入れねばならない。そのような問題発見が、より並外れた創造性を生み出すのである。それが、並外れたブレイクスルーの洞察の大部分をもたらせている。

その一つの例は、2004年に遡り、コンピュータープログラマのKevin Systromが、スマートフォン上で場所共有のアプリを開発しようと決めたときのことである。場所共有はあまり成功しなかった。それは,Burbn(B-U-R-B-N) という名前だったが、きっとあなたたちの誰一人もBurbnを自分のスマホにインストールしたことはないだろう。それはあまり成功しなかった。そこでKevin Systromは、世の中に場所共有のアプリを広めるという問題を解決しようとしていた。付け足しとして、彼は写真共有の機能をBurbnに入れた。そして彼はBurbn を使っている人たち、それを使っていた少数のユーザーを観察した。彼らがみんな写真共有をしていて、場所共有をしていないことを、彼は知った。そして彼は、問うべき質問が「どのように写真共有アプリを作ればよいのか?」だと悟った。そして彼はInstagramを作り上げた。Instagramは、創造性プロセスから生じた一つの問題を探した結果である。そのようなタイプの問題発見創造性は、並外れた驚くべきブレイクスルーのアイデアを生み出す。 

創造的プロセスは直線的ではない。あなたはそのプロセスをともかく開始しなければならない。だがそれは、すでに述べたように、一つの「生き方」である。あなたはそのプロセスに毎日従事する。あなたはこれらのアイデアを持つ。あなたはそのプロセスを開始する。あなたは、それがどこに行こうとしているのかを知らない。それがどこに行こうとしているかを知ることができないのである。あなたは、そのプロセスの、彷徨い、即興的な、ジグザグの性質を受け入れなければならない。なぜなら、それが、頻繁で絶えることがない小さなアイデアたちに導くものだからである。

創造的プロセスのもう一つの重要な側面は、これらの小さなアイデアたちが、時を経て一緒に結合することである。一つづつのアイデアは孤立していることができない。なぜなら、あなたは沢山の小さいアイデアを持っているのだから。小さなアイデアは、どれも一つだけではあなたを前進させることはできない。並外れた創造性をもたらすことはできない。世の中に違いを作り出せるような創造的な成果をもたらすことはできない。創造的プロセスの鍵になるのは、あなたが、時間をかけて、毎日、そして毎週、さまざまなアイデアを結合させることである。そして、それをするための最善の方法の一つは、あなたは多くのアイデアを持っているのだから、あなたを前進させる可能性を持っているように見えるアイデアを探すことである。

そのアイデアには何か興味深いことがある。それが何かをあなたは知らない。個々のアイデアに対してYes/Noを言うようなことではない。アイデアを選択しているというのでもない。あなたは創造的な人生において、毎日あまりにも沢山のアイデアを得ているのだから、それらすべてを追求することはできない。沢山のアイデアはそこに留まっている。あなたはノートをつけているかもしれない。あるいは、スマホのアプリに登録しているかもしれない。それらの記録を取っておく必要がある。しかし、あまりにも沢山のアイデアがあるのだから、あなたはそのプロセスの中でどのように前進するかを、いったいどのようにして決めるのか?並外れた創造者たちは、その可能性、一つのアイデアの可能性、に対して敏感である。そのアイデアは何か興味深いが、それが何かはまだ分からない。重要なことは、それらのアイデアがプロセスを前進させることである。そして、各アイデアが、逆説的に、後方に結合する、すなわち、あなたがすでに持っていたアイデアたちに戻って結合する。

そして、このような創造的な生き方においてあなたが持っていることは、一つ一つのアイデアが絶えず蘇っていることである。アイデアが編集される。改良される。どれ一つのアイデアも最終形ではない。あなたは決してプロセスの終点には来ていない。なぜなら、一つ一つのアイデアが、たとえあなたがそのアイデアを得て、その意味を理解したと思ったにしても、その数日後にはもう一つのアイデアを得て、前のものを解釈し直す。そのアイデアが意味することを分かっていたと思っていたが、いまやそれがまったく違う意味だとわかった、とあなたは思い始める。それこそが、可能性があるアイデアたちを得たときに起こることである。それらがあなたのプロセスを前進させる可能性を持っている。アイデアの何が興味深いかに対する感受性が鍵である。あなたがそのような心構えを持っているとき、このような日常の実践をしているとき、これらのアイデア群が、時間をかけて結合し、創造的プロセスを前進させる。

 

さて、いままで私が話してきたのは、三つの実践、あるいは三つの心がけの習慣であり、並外れた創造者たちが行っていることである。

その第一は、より大きな創造性をもたらす、このような「疎遠結合」を持つことであり、日常の実践において、本当にさまざまなセットの概念、情報、経験によって、あなたの精神を満たすことが、より多くなるようにすることである。一種の心がけであり、一種の関心の持ち方である。それがあなたの創造性を強化する一つの方法である。

私が話した第二の方法は、プロセスの中で生じる問題を探すことである。それは「問題発見」である。創造性プロセスは直線的ではない。あなたが出発したときの問題に固執し過ぎてはいけない。あなたは方向を変えることを受け入れる備えをしておくべきである。本当の問題、解決するべき本当に面白い問題が、プロセスの中から生じるかもしれないことを受け入れるべきである。

私が話した第三の実践法、心がけの習慣は、アイデア群を時間をかけて結合させることである。それは、まだ何故かはわからないが、可能性があると思うアイデアを、探す心がけである。そしてまた、振り返って、すでに持っているアイデアを再解釈することである。後にならないと、アイデアの意味の可能性が分からないのだから。それが創造的プロセスの力である。それが、創造的プロセスを、即興的で、彷徨わせ、ジグザグにするのである。

創造性は謎めいたものではない。それは良いニュースだ。なぜなら、私たちみんながそのような創造的実践に取り組む可能性を持っていることを意味しているのだから。誰でもみんなアイデアを得る能力を持っている。私たちはいつもいつもアイデアを得る。そして、私が話したこれらの実践は、あなたがこの創造的プロセスに従事し、そのプロセスを前進させるようなアイデアを得る能力を強化する。私たちは、最も並外れた創造者たちと同じメンタル能力を持っている。心理学の研究から、これらは何一つ私たちの能力を超えるものでない、と分かっている。私たちはみんな、創造的な人生を送り、創造的な可能性を存分に実現する、同等の能力を持っている。それはハードワークである。ハードワークであるが、幸いなことに、それは面白いことであり、大事なことであり、学べることである。

心理学の研究に基づけば、あなた方は、創造的可能性を存分に実現することができる。創造的プロセスに従事して成功する可能性を持っている。

ありがとう。

 


 

  編集ノート追記: 中川のコメント (2020. 5.10)

なお、Sawyer教授のいう「創造性プロセス」は、いろいろなアイデアに遭遇しながらジグザグに彷徨うように進む、模索と探求の人生を意味しています。そこには、「構造化された創造的問題解決のプロセス」は言及されていません。Ed Sickafus 博士は、当初の「構造化発明思考法」としてのUSITから、徐々により自由な「構造にとらわれない」「ヒューリスティック・イノベーション(HI)法」に進んで行きました(たとえば、TRIZシンポ2006の基調講演参照)から、このSawyer教授に共感する点があったものと思います。

しかし、Sawyer教授の所論は、ジグザグのプロセスの一つ一つの時点で、「構造化された創造的問題解決のプロセス」(例えば、「6箱方式」によるプロセス)の適用を排除したりその効果を否定するものではありません。(もし、排除・否定するなら、それは科学的なアプローチを否定する、単なる無手勝流の精神主義になってしまいます。)この点を留意したうえで、Sawyer教授のいう「直線的でない、創造性プロセス」のための心構え・実践・習慣を身につけ、私たちすべてが「創造性の天分」を解き放てるようにしたいと思います。

 

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最終更新日 : 2020. 7.15     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp