TRIZシンポジウム 基調講演 (2)

TRIZのクリティカルなSWOT (強み・弱み・機会・脅威):
体系的技術革新の今日と明日

Darrell Mann (英国)
第1回TRIZシンポジウム (主催: 日本TRIZ協議会)、
基調講演(2)、
2005年 9月 1日〜3日、ラフォーレ修善寺、伊豆市

訳: 中川 徹 (大阪学院大学)

[掲載:2005. 9.20]

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編集ノート (中川徹、2005年 9月17日)

本稿は、標記のように、日本TRIZ協議会主催の第1回TRIZシンポジウムにおける、基調講演であり、第2日の朝一番で話されたものです。本ホームページに同シンポジウムの発表を今後順次掲載していく予定です。

このHTMLページには、Proceedingsに印刷された英文の概要を新たに和訳して記載し、リンクを張ります。一方、当日にProceedingsの補足として配布された発表スライドの和訳版をPDFファイルの形式で掲載します。このスライドの目次を今回作って、著者の概要の後ろに掲載しています。なお、英文ページにMannの原文を掲載していますので、対比しつつ読んで下さい。

 

 


「第1回TRIZシンポジウム」 基調講演 (2)

TRIZのクリティカルなSWOT (強み・弱み・機会・脅威):
体系的技術革新の今日と明日

Darrell Mann (Systematic Innovation社、英国)

E-mail: darrell.mann@systematic-innovation.com

概要:

TRIZはいま、その歴史の中でクリティカルな [死活を決する] 段階に差しかかっている。いまからの2年ないし3年で起こることが、TRIZが世界的に受け入れられるものになるか、それともカルト的な難解なものに縮んでしまうかを、決定することになるだろう。

本講演ではまず最初に、今日のこの方法のクリティカルな強み、弱み、機会、および脅威 (すなわち、SWOT) について検討し、それらが将来においてどのように変化していくだろうかを検討する。そしてその分析を基礎にして、TRIZが成功する道を進むためには克服しなければならない、鍵となる対立・矛盾を明確にしよう。

そのようにして明確になった矛盾のうちのいくつかを本講演で取り上げ、それらに対する実際的で有効な解決策を導き出すのにTRIZ自身をどのように使えるかを、探索していこう。

ここで議論する矛盾としては、TRIZが、構造化されているとともに非構造化されている必要、単純でありかつ複雑である必要、独立していてなお統合されている必要、一貫していてかつ適応力がある必要、など [の「物理的矛盾」] がある。

この講演ではまた、事例研究がもつ危険と落し穴、ひとびとが変わろうとしない理由、そして、TRIZを最もよく知っている人たちが、TRIZを推進するのを助けるのに最も少なくしか適していない理由、についても検討しよう。

最後のまとめにおいて、TRIZが個人・企業・世界の各スケールで成長し栄えるのを助けられるだろうような、TRIZの遺伝構造を修正するやり方をいくつか提案しよう。

 

目次 (作成: 中川 徹 2005. 9.17)

導入:

TRIZはいま進化の分岐点にいる
理想の創造性&技術革新の方法は? 他の諸方法との比較
本講演の全体構造: SWOT

TRIZの強み:

(1) 広範な研究基盤をもつ
(2) 「成功」を再定義した (理想性、緊急性、機能性、矛盾、リソース、時間・空間・インターフェイス、再帰性)
(3) 役に立つ! (使いものになる!)

TRIZの弱み:

(1) 学習曲線: 簡単さ vs 複雑さ の葛藤
(2) 「ひとびとの問題」/「混沌」: 人的/ビジネス/社会的問題に弱かった、非線形性への対応が弱い
(3) 学界からの孤立

TRIZにとっての機会:

(1) 沢山の大問題への適用: 水、エネルギー、癌、地雷などの大問題への適用
(2) 「すべてのものを含む理論」: 'Theory of Everything' とTRIZのシステムオペレータ (9画面法)
(3) ビジネスと政策への適用: ビジネス書は氾濫している、政治的スペクトルの新しい見方、政策と有力者に入り込むべきこと

TRIZにとっての脅威:

(1) 創始者たちがもつ問題: 創始者とその後継者たちの言動のダメージ、自分のやり方しか認めない
(2) 成功事例に対する信仰の誤り: TRIZはシックスシグマレベルの成功事例を創り出し報告するだろうか? 解決策を導出するのに要する時間は解決策の設計・提供・改良に要する時間よりはるかに少ない、最終的な解決策は「あなた (だけ)」の解決策 (事例に頼る限界)
(3) あまりにも多数の人々にあまりにも多くの苦痛を与えること:

人間の動機の二つの基本要素: 苦痛を避ける、快楽を求める
(マネジャは) しばしば (TRIZの受容などの変化に対して) 考えられる「拒絶できる理由」を探す
Maslowの「ニーズの階層」: 生理学的ニーズ、安全のニーズ、社会的ニーズ、名声、自己実現
Spiral Dynamicsの考え方: 意識の発展レベル、新しいレベルへのシフトは矛盾が生じたときに初めて起こる、変化に対する受容性の3種 (オープン、とらわれ、クローズド)、受容者たちと同じレベルで相互作用せよ
人間の動機の二つの基本要素へのはたらきかけ

まとめ: TRIZが克服しなければならない鍵となる矛盾

(1) 単純 そして 複雑
(2) 他人の発明 そして 自分たちの発明: 最良の解決策とはあなた自身のために開発されたもの
(3) 「ステーキ」 そして 「焼ける音」: TRIZが「本当に離陸する」ための条件
(4) 自分流 そして あなた流: 政策と有力者に入り込むこと
(5) 学術的 そして 実践的 : 学界からの孤立の克服: 実際問題への参加が学術関係者に価値があるようにする

全体がひとまとまりなのだ
鍛練千日、勝負一瞬
Systematic Innovation社



 

発表スライド (PDFファイル) (4スライド/ページ、全 59スライド) ここをクリック

 


編集ノート 追記 (中川 徹、2005. 9.17)

今日、Darrell Mann のAbstract を和訳し、また、Mannのスライドを眺めまわしながら「目次」を作成してみて、彼が感じている「TRIZの将来に対する危機感」をひしひしと感じている。「TRIZにとっての脅威」でMann が最初に挙げている「創始者たちがもつ問題」は、人間社会で一つのものが確立されたとき、すなわち「権威」あるいは「体制」となったときに、常に生じる問題である。TRIZでは、昨年のETRIA国際会議でのVictor Fey (TRIZマスターの一人) の基調講演で、「Don't Touch TRIZ!」と非常に明確に主張されたものが論文になっている。これにはっきりと反論したのが、中川のTRIZCON2005の論文であり、それを発展させたのが本シンポジウムでの中川の基調講演である。TRIZが本当に発展するためには、TRIZが変わらないといけない。Darrell Mannはそのための変革を必死で創り出そうとしているのである。

Mann が述べているTRIZにとっての「矛盾」は興味深い。その中心は第一の「単純さ 対 複雑さ」であると思う。ただ、この矛盾をブレイクスルーするための指針をMannはほとんど示していない。中川は、「単純さ 対 複雑さ」の矛盾のブレイクスルーは一般に、「複雑なもののエッセンスを取り出して、統合し、構造化して、再編成することである」と考える。その中心は、「Unification」と「Re-Structure」である。中川の基調講演で述べたように、複雑なTRIZから、そのエッセンスを取り出し、統合し、構造化して、再編成してきたのが、USITである。USITの開発者Ed Sickafus は、これを「Unified Structured Inventive Thinking」という命名したのである。新しい世代のTRIZとして台頭しつつあるUSITが、まさに適切な名前を持っていると思う。

Mann はまた、TRIZの学界からの孤立を指摘し、大学関係者たちがTRIZを用いて実際問題に参加することに価値を見出すようにするとよいと述べている。また、政策などにも入り込んで、TRIZを支援しないとリスクが高くなることを認識してもらうようにするとよいと述べている。日本においても、TRIZを推進するわれわれが具体策を考えるべきときである。

Mann が「TRIZにとっての機会」を大きなスケールで提示してくれていることは、大いに励みになる。技術分野だけに限っても、「沢山の大問題」が人類の前に横たわっているのだという認識は、たしかに重要なことである。TRIZが寄与するべきテーマは、まさに無尽蔵にある。「すべてのものを包括する見方」というのは概念的な話であるが、システムオペレータ (9画面法) などをもっと活用していくことが有効であろう。

日本におけるTRIZは、いまようやく定着し始めている (定着したといってよい先行例ができた) といえる。伝統的なTRIZとその普及という体制から、比較的早い時期に自立路線が生まれ、企業内での独自の活動が行なわれてきているのが、効果を挙げてきたのであろう。今回のTRIZシンポジウムが新しく力強い息吹を感じさせてくれている。Darrell Mannがいう「世界中のひとびとに受け入れられるものになる」ための先行事例を日本において創っていきたいものである。

 

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最終更新日 : 2005. 9.20    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp