Darrell Mann : ICMM Book  3. イノベーション総論

『イノベーション能力成熟度モデル (Innovation Capability Maturity Model (ICMM)) 入門編』

   第3章  イノベーション総論

Darrell Mann (Systematic Innovation, 英) 著 (2012年、IFRプレス)

中川 徹 和訳(大阪学院大学&クレプス研究所) (2021年 2月 3日

掲載:  2021. 2. 6

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  編集ノート (中川 徹、2021年 2月 3日)

 Darrelll Mann の本の第3章です。本ページの記述は第1章と同様で、詳細目次、導入のための簡単な解説、そして本文です。訳文中の、( )は著者の挿入句など、[ ]は訳者の補足です。

 


 

 本章の詳細目次

第3章  イノベーション総論

3.1 イノベーションの中核プロセス: 6ステップのサイクル型プロセス

3.1.1  ステップ1:  感知する(Sense)     
3.1.2  ステップ2:  解釈する(Interpret) 
3.1.3  ステップ3:  設計する(Design)    
3.1.4  ステップ4:  決定する(Decide)   
3.1.5  ステップ5:  調整する(Align)      
3.1.6  ステップ6:  応答する(Response) 
3.1.7  ステップ1:  感知する(Sense)

3.2  サイクルを回す

 


 

 本章への導入 (中川 徹、2021. 2. 4)

本章では、後述の5つのレベルに関係なく、どんなレベルであっても、イノベーションをするために、共通に(普遍的に)必要なことを述べています。それは、次の6ステップからなるサイクル型のプロセス(図3.1) を回すことだと言います。

(1) まず、感知することです。自分の周りをできるだけ広く見張っていて、他の場所でステップチェンジが起こると、それが自分に「脅威」を与えるなら、自分のステップチェンジが必要になるでしょう。一方、自分たちがステップチェンジを起し、周りにそれを持ち込めば、自分の利益になるかもしれない。それは「機会」です。

(2) 感知した「脅威」または「機会」を、解釈して、自分たちが何をするべきか、どんなステップチェンジをするべきかを判断します。この判断は、イノベーションの目標を決めることです。顧客に提供する成果ですが、自分たちにできることが望めるものでなければ、なりません。

(3) つぎは、その目標を達成できるだろうソリューションを一つまたは複数作り出すことが必要です。今までの常識にとらわれない、ジャンプをしたソリューションが求められています。

(4) そして、実行するべきソリューション(一つ)を決定します。良い案がなければ、もちろん前に戻ってやり直さなければなりません。

(5) 実行するとなれば、組織として全力でやる必要がありますから、組織の人々の「心を捉える」体制作り、「調整」が必要です。

(6) そして「応答」です。作りあげたソリューション(プロセスや製品やサービス)を実地に、顧客・市場・社会に提供します。その結果については、もちろん注視し、フィードバック、対処しなければなりません。それは(1)にもどり、次のサイクルが始まることです。

上記の(1)から(6)のステップをぐるぐると回して、イノベーションを成功させていきます。サイクルを回す速さは、競合他社(他者)より速いことが、競争・戦闘には必要だと述べています。

 

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本章の目次

導入(中川)

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3.1 イノベーションのサイクル型プロセス

(1)感知する

(2)解釈する

(3)設計する

(4)決定する (5)調整する (6)応答する 3.2 サイクルを回す

編集後記

英文ページ


 

 原著第3章の和訳

第3章  イノベーション総論

「人類が歴史の教訓からあまり学ばなかったということが、
歴史の教訓のすべての中で最も重要なものです。」
Aldous Huxley

 

組織またはイノベーションチームが自分自身をどのICMMレベルに見つけるかに関係なく、いくつかのイノベーションの基本(原理)があり、それがプロジェクトの成功/不成功を導きます。非常に大きな程度に、ICMMが行うことのすべては、多数の補助的機能と決定ポイントをこれらの普遍的なものの周りに配置し、特定の状況においてそれらを使用するための最良の方法を教えてくれることです。レベル1のチームではできないことが沢山ありますが、私たちが得る可能性のあるすべてのことに対して、ここで説明しようとしている普遍的なものが本質的に関与します。本章では、これらのいわゆる「ユニバーサル(普遍的なもの)」の基本について説明しましょう。それには次の二つの理由があります。

1) 本章の後に続くものについて、適切な基盤と文脈を設定すること。    
2) これらのイノベーションの基本(原理)が実際に何であるかについて、すべての読者が共通の理解から出発するように保証すること。    

この2番目の理由に関して、私たちが強く思っている(そうだろうと疑っている)ことは、「イノベーション・プロジェクトのかなりの割合が失敗する一つの理由は、ICMMのストーリーとはまったく関係がなく、チームが、文字通り「基本的」なもののいくつかについて、認識していないか、あるいは行動する意思がない/できないためである」という点です。。

 

3.1  イノベーションの中核プロセス: 6ステップのサイクル型プロセス

私たちは、イノベーションプロセスの中核であると私たちが信じているもの、を見ることから説明を始めましょう。図3.1は、このプロセスの6つの必須のステップを示しています。

図3.1: 一つのイノベーションプロセスの6つのコア(中核)ステップ

6つのステップのそれぞれの詳細に入る前に、最初に全体のプロセスの循環的な性質を記録しておく価値があります。まず「何か」(この段階では私たちは単にこのように記述します)を「感知する(Sense)」必要から出発し、[図のように一周して] 私たちの「応答する(Response)」で終わります。この応答は、(うまくいけば)私たちの「成功したステップチェンジ」の出力になるでしょう。

これらの2つの端点 [始点と終点] の間には、それぞれ解釈する(Interpret)、設計する(Design)、決定する(Decide)、および調整する(Align) があります。それでは、これらの6つのステップのすべてを、より詳細なレンズで見てみましょう。

 

3.1.1  ステップ1:  感知する(Sense)

最初のステップは、私たちの周囲の諸システムを見回して、脅威たちまたは機会たちのいずれかを特定することです。脅威は、他の場所で起こったステップチェンジで、私たち自身のステップチェンジを起させる可能性があるものに、大きく関係しています。機会は、ステップチェンジで、私たちが私たちの益になるように、他の諸システムに注入できるかもしれないもの、に関係しています。

これらの探索のいずれかを行おうとするとき、私たちのレーダー画面上に保持する必要があるのは、基本

的に5つの場所です。その5つの場所を図3.2に示します。

図3. 2: 「感知する(Sense)」入力の、5つの基本的な場所

簡単に言うと、私たちはステップチェンジの脅威と機会のレーダーを、つぎの点に焦点を当てておく必要があります。

1) 当社の提供物と直接競合するような、外部のテクノロジー環境の変化(図の「IT」)[このITは、外界のものの単数形it]    

2) 外部環境の全体像における外部の変化。たとえば、顧客の行動、人口分布のシフト、市場や政府の規制やその他の補完的/収束的な市場セクターなど、における変化。(たとえば、電気通信セクターに対する最大の脅威は現在、他の電気通信プロバイダーではなく、グーグルのような非伝統的なプレーヤーで、彼ら自身のセクターを支配していて、別のセクターの取り込みのステップチェンジをしようと見まわしているような企業。)このセグメントは、図の「ITS」象限(右下)です。[このITSは、外界のものitの複数の意味]  

3) 内部環境の個々の変化(「I」)(図の左上)。私たちがここで探している種類のステップチェンジは、組織を離れる(または加入する)キーパーソンたち、人々が開発する新しいスキル、そして(すべての中でおそらく最も重要なのは)上級経営チームの変更です。一つの組織のトップにいる一人の変更は、その組織の他のすべての部分に非常に明確な波及効果を起すでしょう。良い方向にも悪い方向にも。[このIは主体の単数の意味]   

4) レーダーを向けるべき次のカテゴリーは、図の「WE」の象限(左下) [すなわち、内部環境の全体像における内部の変化] であり、特に、顧客と市場の需要に対する私たちのインタフェースです。私たちがここで興味を持っているのは、(私たちの)組織の構造、労働慣行、その他の内部プロセスで複数の人々が関与するものにおけるステップチェンジ、あるいは、私たちが顧客とやり取りする(また顧客が私たちとやり取りする)やり方の変化です。[このWEは主体の複数の意味]   

5) 理論的には、図3.1の最初の4つの象限は、世界の包括的な地図を提供するはずです。確かに「万物の理論」の第一人者Ken Wilberによれば、4つの象限で提供しています。しかし、私たちは何年にもわたって、数多くのイノベーションの試みの失敗が、Wilberの4つの領域のそれぞれの間で起こったステップチェンジを特定するのに失敗した結果として生じたことを、見てきました。そこで私たちは、5番目のレーダーの焦点「Coordination(調整)」[を新しく作り、それ] を、(言わば)他の4つのレーダー焦点の上に置き、それらを見下ろして、二つ以上の異なる象限間での潜在的な予期しない相互作用に特に焦点を当てたレンズで見ています。この5番目の焦点領域は、ステップチェンジを効果的に感知する仕事を行うために、私たちが考慮するべき5つの領域の中で、最も困難であり、同時に最も重要なものです。    

 

3.1.2  ステップ2:  解釈する(Interpret)

一つのステップチェンジが発生したこと、あるいは、私たちが一つのステップチェンジをうまく導入する機会があること、を感知したなら、その次にするべきイノベーションプロセスの基本ステップは、この情報を解釈し、私たちがするべきことは何かを、考え出すことです。簡単に言えば、ここでのタスクは「正しい」イノベーション仕様を定義することです。ここで、設計チームに取り組んでもらうように送り出す「正しい」質問を考え出します。

後に、私たちがさまざまに異なるICMMレベルの詳細を取り上げるときにわかるように、「正しい」をどのように定義するかは、[その組織の] 支配的な能力レベルに非常に大きく依存するでしょう。私たちがレベル1またはレベル5の能力の組織にいるなら、私たちの「正しい」の定義は180度離れている可能性があるでしょう。しかしいずれの場合でも、この段階での本来のタスクは、正しい「正しい」(イノベーション仕様)を考えだすことであり、それは、顧客への成果として、私たちが提供することを望めるもの/望めないものと整合性がなければなりません。

 

3.1.3  ステップ3:  設計する(Design)

解釈段階が「正しい質問」(を創る)段階と見なすことができるならば、この3番目の「設計する」段階は、考えられる候補ソリューションを作成し、「正しいソリューション」を推奨することです。繰り返しになりますが、「正しい」の定義は、[私たちの組織で] 支配的なICMMレベルに応じて変わる可能性があります。しかし、基本的に、イノベーションサイクルのある時点で、設計チームは、述べられた質問に対する最善の解決策を導き出す責任があります。このすべてを念頭に置いて、プロセスの後続ステップがここで提案したソリューションを達成および提供できる/できないを私たちに報告してくると、私たちはしばしばもう一つの別のミニループに入ることがよくあります。…

 

3.1.4  ステップ4:  決定する(Decide)

… 前述のミニループが実施されるかどうかは、サイクル全体のこの「決定する」段階に依存します。繰り返しになりますが、イノベーションプロジェクトの基本は、ある時点で、実行するべきソリューション、または多くの場合、複数のソリューションを絞り込むことが必要です。ここでも、ICMM能力によって推進される意思決定プロセスの仕組みと意思決定の質にかなりのばらつきがありますが、この段階でイノベーションチームは、利用可能なリソースを調べて、(いまや決まり文句の表現でいうと)「投資に対して最大の価値」を提供するように、それらのリソースを割り当てる必要があります。

 

3.1.5  ステップ5:  調整する(Align) 

チームが行動方針を決定したとき、次の段階は、影響を受ける当事者たちの感情的な賛同を得るための通常もっと厄介な仕事です。私たちが次章で聞く内容に基づけば、イノベーションチームはふつう組織内の他の部署に友達をほとんど持っていません(ただ、心配しすぎないでください。あなたの組織がレベル4に達すると変わります)、特に、すでに完全に精細に、驚くほど最適化された既存のソリューションに対して、それを破壊しょうとするものだとみなされる場合はそうでしょう。イノベーションプロセスの調整段階では、私たちが前進して [私たちのソリューションを] 構築するのに十分な、人々の心を捉えます。…

 

3.1.6  ステップ6:  応答する(Response)

…最初の変更のシグナル対する、私たちの最終的な応答 [私たちのソリューションの提出] です。再度繰り返しますが、私たちがどのように対応するかはICMM能力に非常に依存しますが、私たちがいるのが「旅」の最初か最後かを問わず、遅かれ早かれ(理想的にはますますアジャイル [迅速性] が支配する世界に)、私たちは私たちの明るく輝く新しいステップチェンジのソリューションを、大きく広い世界に向けて、解き放たなければなりません。…

3.1.7  ステップ1:  感知する(Sense) 

…その時点で、私たちは私たちのセンスレーダーに警戒態勢を取らせ、私たちの応答が私たちが意図したことを行ったかどうかを、見るように見張らさせる必要があります。そして、[それらの情報の感知に携わっているので、すでに] 私たちは [イノベーションサイクル(図3.1) の] 最初に戻っており、すべてがもう一つの新しいサイクルに向けて設定されていることに、私たちは気づきます。

 

3.2  サイクルを回す

そして安心してください、遅かれ早かれもう一つの新しいサイクルがあるでしょう。この時点でのただ一つの本当の質問は「どれくらい早く?」です。それに対する唯一の本当の答えは、(究極的にはやはり再びICMMのレベルに依存しますが)本質的に他のすべての人々がいかに速くサイクルを回しているかに、関連します。

私たちはこの点で、米空軍のパイロットJohn Boydの素晴らしい仕事を手本にします。彼の非常に単純な戦略は、空対空の戦闘状況で常に勝つ(競合する業界に対する類比として、極端で、そして非常に良い例えです)ためには、感知-応答サイクルタイムを、対戦相手よりも速いものにすることです。図3.3 参照。

 

図3.3: イノベーションサイクルの時間の決定

 

 

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3.1 イノベーションのサイクル型プロセス

(1)感知する

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最終更新日 : 2021. 2. 6     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp