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TRIZの学び方/教え方
-- Savranskyの本に関する私見 |
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Kalevi
Rantanen (TRIZ OY, フィンランド),
TRIZ Journal, Dec. 2000 訳: 中川 徹 (大阪学院大学) 2000.12.04 [掲載: 2000.12.13 ] |
編集ノート
(中川
徹, 2000.12.13)
カレビ・ランタネンの本稿はTRIZ
Journalの本年12月号に掲載されたものです。セミヨン・D・サブランスキーの新著『創造性工学』ノ対するエレン・ドウムの書評を補足する形で掲載されました。小生はランタネンの記事を読んで,
特にTRIZの教え方について「理論が先か, ヒューリスティクスとツールが先か」という,
彼の経験と新しい見方に強い印象を受けました。そこで著者とTRIZ Journalにメールを送り,この記事を日本語に翻訳して本ホームページに掲載させていただきたい旨を依頼しました。著者カレビ・ランタネン氏およびTRIZ
Journalから早速に日本語への翻訳と掲載の許可, および英文記事の再掲載の許可をいただいたことを,
感謝いたします。このページには, ランタネンの記事, および中川, ランタネン,
ドウムの三者の電子メールでのコミュニケーションを, 日本語に翻訳して掲載しています。また,
読者の理解と便宜のために, サブランスキーの本の目次を最後に(仮の)日本語訳で掲載しました。オリジナルのものは本ホームページの英語ページを参照下さい。
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Savranskyの本に関する私見
Kalevi Rantanen (TRIZ OY, フィンランド),
TRIZ Journal, Dec. 2000
訳: 中川
徹 (大阪学院大学) 2000.12.04
セミヨン・D・サブランスキーの新しい本『創造性工学』 (Boca Raton 2000, CRC出版)は, 19章で約400ぺージから成り, TRIZの多くの概念とツールをカバーしている。その全体的なレビューを書く代わりに, 私が最も重要だと考えるいくつかの点に話を絞りたい。
まず最初に, この本から3箇所を引用しよう。
特に, つぎの言葉を太字で書いておきたい。
「TRIZの概念をしっかり理解しないでTRIZを効果的に使うことは不可能である。」
この文は,ちょっと見て思うより以上の重要性を持っている。フィンランドでわれわれは,「概念が先か,それとも,ヒューリスティクスとツールが先か」という問題について,多くの経験を積んで来た。1980年代に多数のワークショップを行った。それは通常, 合計 5日間の教室での講義・演習と宿題とからなるものであった。それらのワークショップの主要な内容はARIZであった。物質-場モデルがもう一つの重要な項目であった。矛盾, リソース, 究極の理想解, そして進化のパターンといった概念は, 前記の主トピックスに対する導入として, 手短かに考察した。明らかに, 最も重要とみなされたのが「ヒューリスティクスとツール」であり, 概念は二次的なものとして扱われた。また, その当時は, TRIZ (理論) とARIZ (step-by-step guide, 手順を踏んだ処理法ガイド) という略称は, しばしばほぼ同義語として使われた。
1999年から2000年にかけての冬に, 私が10年以上前に行ったこれらのコースの参加者にインタビューをした。コースの内容のうち,
どんなものをその後実際に使ったかを, 私はかれらに尋ねた。その回答は以下のようであった。
この驚くべき結果が説得力のある説明を得たのは, 行動理論 (Activity Theory, AT) の成果を使ってそれを解析したときであった。行動理論は人間の行動を研究する分野である。この学派が見出したことの一つは, 「いかなる主題 (subject matter) であっても, 人々が, 理解し, 使い, 評価し, 発展させ, 応用するためには, 簡潔なモデル, ビジョン, あるいは方向付けの土台が必要である」ということである。
1990年代の経験, 例えば, TRIZに基づくソフトウェアやアルトシュラーのマトリクスから「TRIZに至る」という試みは, 上記の [インタビューの] 結果を確認したにすぎない。顧客からのフィードバックも [ATの] 理論も, 同一の結論を示した。TRIZの [訓練の] 主題を上下にひっくり返すことが必要になった。そこでは, 基礎的な理論モデルが明確に第一義になり, さまざまのツール, 手順を踏んだ処理法ガイド, およびジョブプランは第二義となる。全く新しいTRIZワークショップが開発され, 2000年初めにテストされて, 成功した。新しい教科書, 演習帳, 教師用指導書が書かれた。
この仕事をして後に, サブランスキーの本を入手した。その本には, 基礎的な概念をより強調するという, 同じ傾向が顕れているのを見た。第2章でTRIZの全容を述べ, 第3章で技術システムについて考察している。矛盾, 理想性, 物質-場のリソース, および技術の進化について, 4章〜7章で学ぶ。その後で, さまざまのツールやヒューリスティックスの詳細な情報が説明されている。[訳注: 本ページ末尾に掲載した目次の日本語訳を参照されたい。]
この本の構成は事後になって見ると自明であるかのように見えるが, 従来の文献と比較してみると, 長くて, ときには痛みを伴う変化があったことが分かる。アルトシュラーの最も有名な著書『厳密科学としての創造性』においては, つぎのような章立てになっている。「物質-場分析の原理」, 「発明の戦術」, 「有能な思想」, 「40の基本的な方法」, その他。矛盾その他の基礎概念は, サブの節で考察されたり, 本全体のあちこちで言及されたりしている。アルトシュラーの最後の著書『アイデアの見つけ方』 (英語では未出版)では, 「他の諸方法論の批判」, 「さまざまなシステムのレベルの研究」, 「9画面モデル」, などの後ろに, 「進化のパターン」と「理想性」の章がある。一般にアルトシュラーの著作には, 歴史的に不可避のことであるが, 「天才の無頓着」がある。中心になる最も価値あるものが, 膨大なアイデアと研究課題および行間に, 埋め込まれてしまっていることが多い。
そのために, アルトシュラーの本は, TRIZについての全体的な初期モデルを与えないのである。認知心理学の用語で言えば, アルトシュラーの著作, そしてTRIZの文献は全般的に, 方向付けの土台 (orienting basis) を欠いている。
サブランスキーの本は, 膨大な量の情報の中から, 理論の核心を掘り出して来るのを助けてくれる。
これらのステートメントは, 不可避的に, いくらかの単純化を含んでいる。 3つ4つの基本概念を強調することは, 決して, さまざまのヒューリスティクスや手順を踏んだ処理法ガイドが無用である, という意味ではない。基本概念から始めるべきである, と言っているだけである。例えば, もしこの本を実際的なガイドとして使うのならば, まず最初に, 矛盾, 究極の理想解, リソース, そして進化のパスを, 4〜7章で推奨されていることだけに従ってモデル化するのが, 最も望ましいだろう。その後に, この本の第5部 [TRIZのヒューリスティクスとツール〕に書かれているヒューリスティクスを用いて, 解決策を強化・改良することができるだろう。手順を踏んだ処理法ガイドから始める, 例えば, 矛盾マトリクス(13章) から始めるのは, 実際的方法としてベストではない。
年季を積んだTRIZエキスパートの一部の人達にとっては, 手直の [方法の] 推奨から理論へと強調点を移すことは, あまり興味がないかもしれない。なぜなら, かれらは, いつもそのように考え, そのように仕事をしてきたのだから。しかしながら, ますます多くの人々がTRIZを使い, さらに教えるように, なるだろう。そのような人々の多くにとって, TRIZの核心を明確に提示することは有用であろうと, 私は信じている。
通信: 中川, ランタネン, ドウム間のメール
(1) 中川 徹 より カレビ・ランタネンへ (写: エレン・ドウム) 2000年12月 2日
TRIZ Journal掲載のあなたの記事を読み, あなたの最近の経験と新しい見方について, 強い印象を受けました。先日のメールで書きましたように, また, ドウム博士の配慮で編集者への手紙としてTRIZ Journalに紹介されていますように, 私たちはサラマトフのTRIZ教科書の日本語版を翻訳出版したところです。その本を通じて私はTRIZの思想をエッセンスを学び, あなたと非常に近い見方をするようになりました。私のホームページに英語で掲載しました日本語版への私の序文を読んでくださると幸いです。
つきましては,あなたの記事を日本語に翻訳して,私のWebサイト『TRIZホームページ』の日本語ページに掲載させていただきたく,許可をお願いいたします。また,あなたの英語の記事を私のWebサイトの英語ページに再掲載することの許可をいただけますと大変ありがたいのですが。よろしくお願いします。
私の記事の日本語への翻訳および英文記事をホームページに再掲載することに関して, もちろん許可いたします。ただ一つの条件は, TRIZ Journalが翻訳と再掲載を許可することです。(3) エレン・ドウム から カレビ・ランタネン と 中川 徹 へ 2000年12月 3日私の小さな文にあなたが興味をもち, 日本語への翻訳までしようと考えておられることを聞いて, 大変うれしく思います。サラマトフの教科書の日本語版へのあなたの序文を読みました。そこには, 私にとって貴重な情報がありました。特に次の文が重要です。 「私たちが それ[TRIZのエッセンス] をいったん身につけると, TRIZの膨大な知識ベースや問題解決法の一々に頼らないで, もっと自由自在にTRIZの精神を使って創造的な技術開発が行えるのだ (と私は思います)」
あなたのメールと同じ時に, 私は英国の会社の人からメッセージをもらいました。TRIZを1年間学んだその人は, フィンランドでわれわれが見つけたことに全く共感すると書いておりました。
私はまた, 昨年10月にあなたのサイトに載ったホーメンコ氏のコメントを思い出しています。「矛盾の解決がTRIZの主要ツールである」と彼は書いています。
経験を蓄積するにつれて, TRIZを導入し・使うための最良の方法は, 少数の基礎的な概念から始めることだということが分かってきました。私はいま, TRIZと行動科学との間に橋を架けようとしています。認知心理学, 行動理論 (AT), あるいは, 文化歴史行動理論 (cultural-historical activity theory, CHAT) などです。例えば, 認知心理学では, 効果的な学習プロセスは6つの主要段階を含むべきだと教えます。動機付け, 方向付け, 内面化 (interiorization), 外面化 (exteriorization, すなわち応用), 評価, そして制御, です。私はこの枠組みを使って, TRIZの新しいコースと教科書を作り上げました。矛盾, リソース, 理想性, そして進化のパターンという概念たちは, 方向づけの土台を与えます。
歴史の皮肉は, 文化歴史行動理論(CHAT) の創始者, レフ・ビゴツキー (Lev Vygotski) (1896-1934) もまた, ロシアに住んでいたのです。それなのに, TRIZとCHATの間には, これまで非常にわずかの接触しかありませんでした。Engestr? 教授の本『拡張による学習』(1987年)が例外です。その328〜330頁には, アルトシュラーの業績について短いコメントがあります。
あなたがたの討論に私も加えていただいてどうもありがとう。このような地球規模での対話と, ランタネンの仕事が翻訳を通してさらに多くの読者に知られるようになることに, TRIZ Journal が役に立っていることを非常にうれしく思っています。CHAT法とTRIZを結合するというあなたの研究の成果に期待しています。人々がTRIZを学び, 応用するのを一層容易にするものなら何でも大歓迎です!
参考: 『創造性工学--
発明問題解決のためのTRIZ方法論入門』, セミヨン・D・サブランスキー著
サブランスキーのWebサイト
目次 (仮訳: 中川 徹, 2000年12月13日)序
第1部: 問題解決支援
1章 われわれは問題をどのように解いているのか?
2章 TRIZの概要
第2部: TRIZの主要概念
3章 技法のまとめ
4章 矛盾
5章 理想性
6章 物質-場のリソース
7章 技術の進化
第3部: TRIZ情報
8章 発明
9章 効果 [科学的原理]
第4部: 問題解決への準備
10章 始める前に
11章 発明性 (Inventivity)
12章 物質-場
第5部: TRIZのヒューリスティクスとツール
13章 技術的矛盾の解決 (対矛盾, pair contradictions)
14章 物理的矛盾: その分類と解決 (点矛盾, point contradictions)
15章 発明問題の標準解
16章 システムのエネルギー合成
17章 エージェント法
18章 ARIZ
結論
付録 9編
参考文献
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