フォーラム: 地震予知研究論文

発電設備における異常予兆の早期発見についての最新状況報告
  (地震直前(30分)の異常現象を検知)

○ 吉岡 匠 (マド・プランニング)、河合 洋明 (北海道工業大学)、
日本機械学会、第15回 動力・エネルギー技術シンポジウム - 動力エネルギーシステム部門20周年、次の20年への新展開 − C102、(2010年6月20日)

『TRIZホームページ』掲載: 2015年 3月 7日
責任編集: 中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授)

掲載:2015. 3. 7

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編集ノート (中川 徹、2015年 3月 4日)

ここに紹介します論文は、吉岡匠氏(現:北海道科学大学客員教授)が河合洋明教授と共同で、2010年6月(東日本大震災の約1年前)に発表されたものです。本サイトの「フォーラム:地震予知研究の紹介」における、吉岡教授の研究の[A2] の文献にあたります。刷り上がり4頁の講演論文集の、原稿Wordファイルを吉岡教授より提供いただき、レイアウトや図等を調整して、HTMLページにしました。

本発表は、表記のように日本機械学会のシンポジウムで発表されたものであり、(機械工学の技術がもちろん必要になる)発電機システムのメンテナンスがその主題です。火力発電機および原子力発電機において、(ボイラーや原子炉の問題とともに)発電機そのものの運転・管理は大事な問題であり、通常の運転をモニターしつつ、いろいろな異常や不調をできるだけ早くに検知し診断することが求められます。筆者らはそのためのモニターシステムに、(オフラインおよびオンラインでの)可視化・診断ソフトウエアを開発し、各地の発電所と協力して運用・検証してきています。

本発表の前半は、その監視・診断システムで、発電機のどのような種類の異常・不調を、どのような情報から検知できる/できたのかを論じています。運転中の発電機に関する多面的でリアルタイムの膨大な生データ(最近はやりの言葉でいえば「ビッグデータ」)から、関連する側面を取り上げて、適切に可視化します。その可視化したデータと実際のシステムの(その後に判明した)異常との関連を明確にし、関連性さらには因果性を検証していきます。また、他所/他社の発電機でも同様なデータの現象と実システムの異常が見られているかを検証します。このようにして検証された結果があれば、いま運転中の発電機の状況を常時モニターして、オンライン(またはオフラインで)診断して、異常あるいは異常の起きる予兆を、速やかに知ることができるようになります。このようなことを筆者らは、いくつもの発電所で実施してきたのだといいます。

このような運転中のシステムの異常を判断することは、発電機/発電所に関わってきた熟練技術者たちのデリケートなノウハウ(「勘と経験」)として積み上げられてきたことです。いま、多くの熟練技術者たちが停年退職していく中で、それらのノウハウをきちんとした(ソフトとハードの)システムにして伝承していきたいというのが、筆者らの開発・研究の基本的な意図だといいます。

本発表の後半は、このような発電機の運転データをモニターする中で、地震の際にそのデータが顕著に変化することを偶然に見出したという報告です。例示している地震は、(  年 月 日の   地震で)、震源地は発電所より200km、マグニチュード6.2、サイトでの震度4でありました。地震の震動(主に横揺れ)があった時点で発電機全体が飛び跳ねている現象が見えます。地震後、飛び跳ねの現象はすぐに(1分以内に)収まるが、その後の毎分のモニター結果は、発電機の無効電力が増加し、激しく変動しつつ長時間続きます。さらに、特記すべきは、「地震発生の30分前から、地震の横揺れとは異なる要因による変化が現れている」ことが分かったというのです。筆者は、(別のときの)系統事故時に所内単独運転を実施した実績データ(正常動作データ)と比較して、地震時の動作の特徴を捉えようとしています。

本発表は、「発電機の運転監視データにより、地震の直前(約30分前)に、横揺れとは異なる要因による地震現象を検知できた/できる」ということを、学界に報告した最初の発表です。この発表の9か月後に東日本大地震が起きました。筆者らは、本方法を用いて同様の現象(地震後の振舞いだけでなく、地震直前の異常信号)を確認しました。そして筆者らは、「地震予知」の新しい方法を確立するために、尽力していく決心をしたのです。

 

本ページの先頭 論文先頭 開発の経緯(と診断データ) 3(1) 起動時リアルタイムでのモニター事例

3(2) 地震直前の特異な異常現象の検知事例

論文PDF 「地震予知研究」フォーラム 英文ページ

 


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  発電設備における異常予兆の早期発見についての最新状況報告

          ○ 吉岡 匠 (マド・プランニング)、河合 洋明 (北海道工業大学)

日本機械学会、第15回 動力・エネルギー技術シンポジウム - 動力エネルギーシステム部門20周年、次の20年への新展開 −
C102、(2010年6月20日)

 

Abstract

This report introduces the operation examples of the real-time online data collection analysis system, which was developed originally. Some extremely effective functions included in this system, that is, double watch of central control room equipment, calibration watch of equipment set up on central post and each site, tuning of various static characteristics and dynamic characteristics, integrated checking of efficiency of system, and etc. were described with the operation case. In addition, possibility of application of this system to power plants, for instance, earlier detection of broken behavior change, trouble sign, and others were referred.

Key Words: Power station, Power plant, Performance diagnostics

 

1. はじめに

本報告は、著者らがこれまで数社の電力会社と検証してきた事例の紹介であり、各社の要望によるオンライン解析およびリアルタイム監視による予兆把握の概況,チューニング作業に対応するために開発してきた解析ツールの要点を報告する。

 

2. 開発の経緯

表1および表2にこれまでに検証してきた評価手法の内容を記載する。本リアルタイムオンラインシステムにより予兆を掴むための準備として各社が経験した内容について、トラブル、傾向管理、診断事例について過去の運転データを用いて要因解析あるいは監視事例に基づいた検証を行い、そこで取り纏めた運転データ群(ノウハウの入った状態を基準として要約したもの)を将来の監視に適用可能なものとして整理した。

この検証作業に4年間を要している。

Table 1 Evaluation of the analysis results of the collected data by off-line processing

 

Table 2 Evaluation of the analysis results of the collected data by on-line processing

 

3.これまで検証を行ってきた設備と主な解析事例

@ 検証設備

原子力・火力設備・石炭火力・石油火力・ガスコンバインド・P−FBC

A 主な検証事例

・ 原子力設備の2次系統の効率管理、

・ 大型回転機器震動監視検討―CBM監視

・ 特殊事例としてリアルタイム監視検討1―コンバインド系の起動時振動対策

・ 特殊事例としてリアルタイム監視検討2―発電設備における地震時の前後の評価

 

3.  検証事例の紹介

(1)  コンバインドサイクル発電所の起動時リアルタイムオンライン化の検証事例

図1に正常起動状態と振動異状によるトリップした状態の生データの表示例を、図2にソフトウェアによる解析結果をそれぞれ示す。

Fig. 1 Comparison of the observational data when it normality starts and when it starts attended with tripping

 

Fig. 2 Visualization of the data processing results

解析の目的はトリップするケースのウォーミング時に特有な現象およびそれに関与するデータを特定することである.解析内容の観察と監視すべきデータの抽出という視点からトリップしたケースの状況の詳細を見ると、タービン昇速中のクリティカルポイントよりも前の400回転から振動の増大傾向が出始め、860回転のタービン昇速停止に伴って一旦振動は収まるが、その後の昇速により1180回転付近のクリティカルポイントで急激な振動増大へ繋がっている。

トリップの予兆を捉えるためにはメタル温度、熱歪、軸位置の移動等の要因にも注目する必要が考えられるが、当該設備においては主要監データであるタービンの振動値の変化に最も顕著な変化がみられた。さらに、確認のためトリップには至らないが振動が高かった2つの起動ケースを解析し,ウォーミング時にタービン軸振動にトリップ時と同様の挙動が見られないことが確認できた。従ってウォーミング時にタービン振動を監視することが一つの有効な対策と判断できる。

この結果は解析作業ソフトによる絞り込みの成果であり,その監視には図3のようなオンラインリアルタイム監視システムが必須・有効である。

Fig. 3 Example of the real-time data observation at warming

(2)地震時におけるタービン発電機の特異な直前の状況についての事例紹介

以下に紹介する事例は、地震によるタービン発電機の内部状態把握とダメージの評価についての調査の中で偶然発見されたものである。これまでの調査では、地震発生時には発電機の無効電力が増加するとともに、激しい変動を起こしている。本事例での地震情報では、震源地は発電所より200km、マグニチュード6.2、サイトでの震度4であった。

地震時の設備の影響を評価する方法として、地震の発生10分前から50分間前の運転データ群(90データ)を基準として設定し、比較する対象データは基準データを含め地震発生後2時間として比較検討を行った。地震時の比較評価の結果、前述の基準とした期間において特異な変化を含んだデータが得られたことから、当該発電所において系統事故時に所内単独運転を実施した実績データ(正常動作データ)との比較評価を試みた。

図4に解析ソフトウェアによる検証結果を示す。これによれば、タービン全体の振動挙動の全貌がきわめて把握しやすい形で表現されていることがわかる。具体的に観察すると、横波の到達直後にタービン発電機全体(1から9軸)が跳ね上がっている現象が見え、その1分後(データサンプリング周期)には収まり、低圧タービンの位相は大きく変化し、それが継続している。

Fig. 4 Comparison of the states of turbo-generator when it is in normal and in earthquake occurrence

つまり、この時からタービン軸位置も同時に変化していることから、地震の影響でタービンの納まり状態が変化していることが想定される。さらに注目すべきことは、地震の発生30分前から、地震の横揺れとは異なる要因による変化が現れていることである。

次に、地震発生前の状態についての挙動解析について述べる。図5は地震発生前の解析ソフトによる状況を示したものである。なお、発電所はこの時間帯発電機出力は一定運転を行っており系統変更操作も実施していない。次に、解析ソフトでの検証の確認をとる手法として、生データにおいて詳細に検討を進めると、発電機軸受位相がタービン本体の軸受位相の挙動と明らかに異なっていることが再確認できた。つまり、発電機軸受位相を除くタービン本体の位相の大きな変化は横波の到達と合致しており、これが主因と考えられ、さらにタービン軸位置の変化がそれを裏付けている。

 

Fig. 5 Assessment of the condition before earthquake (Shaft vibration and the reactive power)

また、横波到達以前の状態を確認する為に解析ソフトにより現れる変化量ではなく、所内単独運転時の生データと比較評価を実施した。

地震時と所内単独運転における状態比較を行うため、図6〜9に示す生データを見ると、無効電力および発電機振動の挙動が地震時と所内単独運転では異なることがわかる。  

Fig. 6 Dynamo output

   

Fig. 7 Position of the turbine shaft

無効電力(図8)については、所内単独運転のように出力が変化していないにも関わらず地震時では無効電力は全体に増加しており、観測値の変動も大きい。  

Fig. 8 Reactive power of the dynamo

さらに発電機振動(図9)についても、地震発生前に大きな周期をもって片揺れしている状況が見られ、振動状態が変化する頻度も多くなっている。また、図9からその挙動は所内単独運転状態と大きく異なることも解る。  

Fig. 9 Vibration of the dynamo

 

4.  おわりに

今回の報告では,表1〜2の検証結果のうちオンライン監視が期待される検討事項2件の概要を取り纏め紹介した。

以上に述べた成果は電力マンの努力の結果の一部であり、自らの責任で課題解決するという信念とその継続の賜物でもある。そのチャレンジの成果として,解析ソフトウェアの機能についても多くの電力マンの要望により熟成を果たし、そのニーズはオンライン化システムの開発にまで到達している。今後は、発電所における運転情報の効率的管理(予兆監視も含む)の実践と既存の監視・診断技術・各種解析ツールとの組み合わせにより,従来に比べてより理解し易く質の高い管理が期待できる。

また、本技術が発展・応用されることにより、保守に関する手法については電力会社のノウハウの蓄積および共用化が進み、従来型とは全く異なった判断手法の多様化を図ることができる。

ここで、本質的な感想を述べる。これまでの評価作業の成果は人間感覚と現状のセンサー情報による総合評価の成果の一例である。つまり、ソフトはツールに過ぎず,解析作業を共にして感じたことは,彼等と今まで感じられなかったことを感じ、見えなかったことが見えてきたという仲間の実感を伝えたい。また、今後の保守技術は,協力メーカーあるいは診断会社の新技術の提案により,新たな段階へ入ることが期待される。

最後に、本解析作業に関わった電力関係者等の多くが機械技術者であることを伝えたい。

 

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3(2) 地震直前の特異な異常現象の検知事例

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最終更新日 : 2015. 3. 7     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp