5. ユーザのシステムの改良の諸方法 ([Prediction モジュール] の [Method tree]) さらに具体的な問題解決の方法に進んで, ユーザの問題システムを改良する方法につ いて, [TechOptimizer Pro] の [Predictionモジュール] の機能を見ていこう。 2節で は述べなかったが, [Predictionモジュール] の主要な機能は, 実は, 問題解決の事例 のデータベースを持ち, ユーザに対して, 問題解決のために多数の標準解決法を順次思 考実験するように導き, それぞれの場合に適切な問題解決事例をユーザに例示するとこ ろにある。ただし, この機能も複雑であるので, いままでと同様に, まずデータベース の中身を吟味し, それから検索のしかたを説明しよう。 5.1 改良方法のリストと改良事例データベース このモジュールが持っているデータベースは, 248 個の問題解決事例からなる。各事 例は, 古い設計の図と説明の画面 1枚と, 改良した新しい設計の図と説明の画面 1枚と からなる。TRIZでは, これら (および多数の特許事例) の問題解決に際して, どのよう な方法を使ったのかを, 模式的に表現して, 「問題解決アルゴリズム(ARIZ)」としてま とめている。[TechOptimizer Pro] では, これを[Prediction tree] と呼ぶウィンドウ の中に整理している。 〔操作法: [Predictionモジュール] を開くと, 図5.1 のような画面になる。この 中央左部の[Initial modelウィンドウ] に, 本来は, ユーザの問題としている システムの構成とそれを改良する方法とを記述・指定するようになっている。 このうち, システム構成の欄は空白でかまわないが, [Define required change of action] のウィンドウには, どれでもかまわないので, どれか一つ のアクションをクリックして指定する (こうしないとつぎにメニューバーの [Database メニュー] が開けない) 。この指定に伴い画面右上部に,「IM recomends ... 」と出るが無視して進む。メニューバーの[Database メニュー ] を開き, [Prediction treeコマンド] をクリックする。[Prediction treeウ ィンドウ] が開いて, ARIZのアルゴリズム (システムの改良の方法案) が階層 構造で示される。このとき, 画面左端の[Linesボタン] において, [Transform ボタン] または[Measureボタン] をクリックすることによって, [Prediction Tree] の二つの部分を切り換えることができる。〕
図5.1 [Predictionモジュール] の主画面
[Prediction tree] に整理されている問題解決の (要素的な) 方法は, 問題とするシ ステム (あるいは部分システム) の構成を, つぎのように単純化して捉えている。
図5.2 Prediction tree で対象とする単純化したシステム
このように図式化したときに, TRIZの問題解決アルゴリズムで提案する方法は, 表5.1 に示す階層構造をもってまとめられ, 全体で67の方法要素がある。その最上層の方法 はつぎのようである。 ┌─付加物 (物質または場) との相互作用による 問題解決 ┌─変換のための ─┼─相互作用を生じさせることによる の方法 │ 方法 ├─相互作用をなくすことによる ─┤ └─相互作用を乗ずることによる │ └─測定のための ─┬─マークを使うことによる 方法 └─迂回的方法による
表5.1 [Prediction モジュール]の[Prediction Tree] (TRIZの問題解決のアルゴリズム)
Transform: | ||
Interaction with
additives: |
Using new substances: | in obj1, in obj2, between obj1 and obj2,
on obj1, on obj2, around obj1,2, instead of obj1, instead of obj2 |
Using modified substances: | in obj1, in obj2, between obj1 and obj2,
on obj1, on obj2, around obj1,2, instead of obj1, instead of obj2 |
|
Using voids: | in obj1, obj2, between obj1 and obj2 | |
Using fields, forces, : | in obj1, in obj2, around obj1,2 | |
Boosted
interactions: |
Segmenting: | obj1 into parts, obj1 down to particles,
obj1 into porous obj, obj2 into parts, obj2 down to particles, obj2 into porous obj |
Dynamization of : | obj1 by making hinged, obj1 by making flexible,
obj1 by phase transitions, obj2 by making hinged, ovj2 by making flexible, obj2 by phase transitions, action by making pulsed |
|
Structurization of : | obj1, obj2, action | |
Coordinating Rhythm of : | obj1 and action, obj2 and action,
different actions, action's pauses |
|
Trimmed
interactions: |
Combining obj1 and obj2 | |
Removing obj1 (obj2) | ||
Self-serving obj1 (obj2) | ||
Multiplied
interactions: |
Multiplying: | obj1, obj2 |
Multiplying and connecting: | obj1, obj2 | |
Multiplying and differing: | obj1, obj2 | |
Multiplying and combining: | obj1, obj2 | |
Redistributing features : | obj1, obj2 | |
Measure: | ||
Using marks: | Using new substances: | in obj, on obj, around obj |
Using modified substances: | in obj, on obj, around obj | |
Roundabout: | Roundabout: | |
Discrete detecting | ||
Indirect measuring | ||
Measuring derivatives |
これらの方法を具体的に例示するために, [Prediction モジュール] 内に事例データ ベースを持っている ([Effectsモジュール] の事例データベースとは別のもの) 。 〔操作法: [Prediction treea ウィンドウ] 内で一つの方法をクリックした後, 画面右したの[Examples ウィンドウ] 内のリストから適当な事例をクリック する。[Examples of Current Concept] の画面になり, 改良後の設計 [new design] が示される。図の右下の[Show old designボタン] をクリックして , 改良前のシステムの画面[old design]に切り替えて読むとよい。〕 このシステム改良(問題解決)の事例(合計 248事例) を読むと, 大変参考になる。 まず [old design] を読むと, 現行のシステムの目的と構造 (図で説明がある) ととも に, 解決したい課題が述べられている。自分ならどう解決できるだろうかと少し考えて から, [new design]に切り換えて読むと, 頭のトレーニングになる。また, ARIZの各方 法ごとに事例が分類されているから, ARIZの各方法がどのようなことを意味しているの かが分かる。 事例の画面の一例を, 図5.3 と図5.4 に示す。基板の表面に薄い膜を作り, それを剥 がして検査したい。剥がすときに薄膜が破れないようにするには,どうすればよいかと いう問題である。ここでの解決策は, 基板表面に予めハロゲンガスを吸着飽和させてお き, 薄膜形成後加熱すると, 遊離するガスとともに薄膜が無傷で剥がれる, というもの である。 (この例が, どのような組成の基板を扱い, どのような薄膜を扱っているのか は, 明確でない。どれだけ実用になっている技術か, また, どれだけ応用性がある技術 かは, よく知らない。)
図5.3 [Predictionモジュール] の [Example to Current Concept] 画面の例: 薄膜を分離する方法 (旧デザイン)
図5.4 [Predictionモジュール] の [Example to Current Concept] 画面の例: 薄膜を分離する方法 (新デザイン)
筆者は 248の事例を全部読んでみた。分野としては, [Effectsモジュール] の分野と ほぼ同様である。ただし, 事例が随分古いものが多い。また, 思いつきのアイデアを改 良案として示していて, それが本当に実現できた優れた技術であったかは疑問であると 思われるものがかなりの割合である。これらの大部分は, 旧ソ連「特許」で, 1950〜60 年代のものでないかと推測される。旧ソ連の「特許」は, 新規アイデアの登録制度で, 技術的有効性の実証が弱いようである。このあたりの問題指摘は, 東大畑村教授の最近 の編著書「TRIZ入門」 (日刊工業新聞社刊, 1997年) に詳しい。筆者も同感である。こ の点では, [TechOptimizer Pro] の現代化がまだまだ必要であると思う。
5.2 TRIZアルゴリズムに従った改良のための思考実験の方法 さて, TRIZの方法論は,上記に記した改良方法案を, ユーザの問題に対して逐一適用 する思考実験を薦めている。[TechOptimizer Pro] の [Predictionモジュール] は, こ れをつぎのようなしくみで提供しており, これがこのモジュールの主要機能である。 〔操作法: 図5.1 に示す [Predictionモジュール] の主画面において, ユーザが 改良の対象として検討しているシステムについて, 画面中央左の部分に記入 する。本稿の説明では, システム構成として, 「Obj1」, 「Action P」, 「 Obj2」とキーインしたものとする。ついで, 画面中央左下の[Define required change of action ウィンドウ] で, 相互作用を改良したい方向を 示す動詞 (例えば, 「generate」, 「separate」など) を選択してクリック する (ここでは, 選択枝にはない一般的な語として「modify」と指定したと して説明する) 。すると, 画面の右上の[Current Conceptウィンドウ] に, 「IM recommends ..... 」という文と模式図が示され, また, 画面右下に事 例データベースから選択された事例リストが示される。そこで, 前節5.1 の ようにして, 事例を参考にしつつ, ここで提示されている改良方法が, ユー ザの実際の問題にどのように適用可能かを考える。〕 上記の操作をすると,[TechOptimizer Pro] が「IM recommends ....」という文を出 してくるので, ユーザはつい, このソフトツールに高度な人工知能 (に相当するロジッ ク) が備わっていて, 考えた上で適切なヒントを出してきているのかと思ってしまう。 しかし, そうではない。実は, つぎの例に示すようなしくみで, 全く機械的に作ってき た文と事例リストなのである。
[Current Concept] "IM recommends: You may 'modify' 'Action P' (1) (2) by 'introducing new substance' 'between' 'obj1' 'and' 'obj2'. " (3) (4) (5) (4) (6)
(1) ← [Define required change of action ウィンドウ] で指定した動詞 (2) ← システム構成の記述の [Actionウィンドウ] で指定した相互作用 (3) ← [Prediction tree] で指定した方法 (の上部階層の表現) (4) ← [Prediction tree] で指定した方法の下部階層の表現 (5) ← システム構成の記述の [Object 1ウィンドウ] で指定したオブジェクト (6) ← システム構成の記述の [Object 2ウィンドウ] で指定したオブジェクト [模式図] ← [Prediction tree]で指定した方法に対応する図 [事例リスト] ← [Prediction tree]で指定した方法に対応する事例リスト
このしくみは単純であるがうまくできているので, 「IM recommends ... 」と言われ ると, 非常にもっともらしいヒントに見える。しかし, 注意するべきことは, ユーザが 画面左半分で指定したことに対して, このツールでは[Prediction tree] で表現されて いる多数の要素的改良法を順番に試していくことを想定しているのである。また, 事例 そのものは, ユーザのシステムの指定とは無関係に, [Prediction tree] で指定した改 良法に対応して同じものを見せているにすぎない。 なお, [Current Conceptウィンドウ] の右下には,[Prediction tree] で指定した方 法に応じて, つぎの 4種のボタンが現れる場合がある。
[Substanceボタン] (物質の諸形態のリスト) [Modified substance ボタン] (物質をモディファイした諸形態のリスト) [Void ボタン] (空・孔の諸形態のリスト) [Fieldボタン] (場・力・相互作用の諸形態のリスト)
これらをクリックすると, それぞれの詳細リスト (図2.2, 図2.3 と同様の趣旨のもの ) が出てくる。リストの中の一つをクリックすると, [Current Concept] の文章の一部 が置き替わって, より特定化される (例えば, 'new substance' が 'porous substance ' で置き替わる) 。 また, 事例データベースの検索には,キーワード検索の機能もある。主画面において , メニューバーの[Databaeメニュー] を開き, [Find コマンド] をクリックする。キー ワードを指定すると, 関連する事例が検索される。例えば, 「'joint' or 'hinge'」で 検索すると, 7件の事例リストが得られた。
さて, 実際の問題解決に使うことを考えると, このソフトツールのこのようなしくみ を理解して, 本当に考慮すべきことだけを効率よく調べていくことが大事であろう。そ うでないと, ツールの膨大さに呑み込まれてしまい, 良く理解せずに「すごい」と思う か, そうでなければ, 大抵は, 途中で嫌になってしまうであろう。
6. 「発明の原理」を学ぶ ([Principles モジュール] の[Principles]と[Examples]) つぎに, [Principles モジュール] を学ぼう。このモジュールには, TRIZの核心 ともいうべき思想が納められている。いままでと同様に, まず, そのデータベースを学 び, それから, その使い方を習得することにする。データベースを構成するのは, 「発 明の40の原理」とその事例集210 件である。また, 使い方としては, キーワード検索の 他に, 次節で説明する「矛盾解消のマトリクス」による方法がエッセンスをなす。 〔操作法: [Principles モジュール] を開いた主画面において,メニューバーの [Database メニュー] から[Principles listコマンド] をクリックする。する と図6.1 の画面が現れる。画面下部に, 「発明の原理」([Principles]) の40 の名前が番号つきで示される。この原理の一つをクリックすると, 画面右上部 にその原理の説明が現れる。説明は, シンボライズした図と, 数行の簡潔な文 で構成される。画面右上の[Examples ボタン] をクリックすると, 対応する事 例が 5件程度 (3 〜8 件) 図入りで説明される。〕 「発明の40の原理」は, TRIZ法の創始者Altshullerが多数の特許の内容分析から 抽出した, 具体的な発明 (技術革新) における問題解決の指導原理をまとめたものであ る。AltshullerのTRIZの入門書を読むと, これらの発明の原理を一つ一つ懇切に, 事例をあげつつ説明していっている。これらの原理を深く理解し, いつでも使えるよう にできたならば,TRIZを身につけたと言える。[TechOptimizer Pro] のすべての機 能は, これらの発明の原理を理解し・適用するためのものであるといってよい。 「発明の40の原理」の一覧を持っているとよい。表6.1 には, [TechOptimizer Pro] の記述の要点レベルのものを一覧にした。日本語での訳は, 例えば, 日経BP社刊の超発 明術TRIZシリーズ1. 入門編「原理と概念に見る全体像」 (1997年12月) の付録を参照 するとよい (注: 日経メカニカル誌の96年の訳から大分改善されている) 。
表6.1 「発明の40の原理」の一覧
1. Segmentation | Divide object;
Disassemble; Divide into smallest possible parts |
21. Skipping | Skip harmful actions |
2. Taking out | Take out harmful part;
Single out useful part |
22. 'Blessing in
disguise' |
Rearrange harmful actions
to get a useful result; Compensate two harmful actions |
3. Local Quality | Make object non-uniform | 23. Feedback | Use feedback loop;
Regulate feedback loop |
4. Asymmetry | Make object asymmetric | 24. 'Intermediary' | Control action using an
intermediary |
5. Merging | Merge objects | 25. Self-service | Use self-performed
actions |
6. Universality | Make object universal | 26. Copying | Make copy of the object;
Optical copies; Invisible copies |
7. 'Nested doll' | Place many in one;
Move one inside another |
27. Cheap
short-living |
Use less-costly disposable
objects |
8. Anti-weight | Compensate weight using
another object; Using a medium |
28. Mechanics
substitution |
Replace mechanical
devices with physical fields |
9. Preliminary
anti-action |
Perform anti-action in
advance |
29. Pneumatics and
hydraulics |
Make part of object
gaseous or liquid |
10. Preliminary
action |
Perform partial action in
advance |
30. Flexible shells
and thin films |
Make part of object out
of shells; Isolate using shells |
11. Beforehand
cushioning |
Use protective and curative
measures |
31. Porous materials | Make object porous;
Fill pores |
12. Equipotentiality | Eliminate the need to
elevate object |
32. Color changes | Change object's color;
Make object transparent |
13. 'The other way
around' |
Replace the action eith its
converse; Invert movement/position |
33. Homogeneity | Use similar features for
contiguous objects |
14. Spheroidality | Use no-flat shapes;
Rollers; Rotation |
34. Discarding and
recovering |
Eject used parts;
Rebuild object during action |
15. Dynamics | Optimize object's
parameters Movable parts; Adaptive parts |
35. Parameter
changes |
Use different phases;
Consistency; Flexibility; Temperature |
16. Partial or
excessive actions |
Make action excessive;
Make action 'deficient' |
36. Phase
transitions |
Use phase transitions |
17. Another
dimension |
Move object in 3 dimensions;
Use 'multistories' and 'back sides' |
37. Thermal
expansion |
Use thermal expansion
and contraction; Use poly-expansion |
18. Mechanical
vibration |
Shake object ...;
using ultrasonic, el-magn. fields; using resonance |
38. Strong oxidants | Use strong oxidants |
19. Periodic
action |
Make action pulsatory;
Change period; Use pauses |
39. Inert
atmosphere |
Use an inert medium;
Use inert parts |
20. Continuity of
useful action |
Continuously perform same
action |
40. Composite
material |
Use 'armature' |
発明の原理がどのようなものであるかを知るために, 第 1の原理, Segmentation (細 分化) (図6.1 )を例にして説明しよう 。この原理は, 「一つの物体を部分に分け る」ことを基本とする概念である。その各部分が独立なものであるようにするのがポイ ントであるという。また, 容易に取り外し (disassemble)できるようにしておくのもよ い。分割の程度をずっと大きくして, できるだけ小さな部分に分けることも薦めている 。 (この観点は, [Predictionモジュール] にまとめている「技術トレンド」でも強調 している。トレンドの1/20〜4/20がSegmentationに関連していて, それぞれ, ツール, 動いて働くもの, 面, および空間についての細分化を扱っている。)
図6.1 [Principles モジュール] の [Principles画面] の「発明の原理」の例
この原理を説明するための事例の一つを図6.2 に示す。他のモジュールの事例と同様 に, 図と簡潔な説明とからなっている。説明文がつぎのような構成になっていることに 注意されたい。
発明の原理 (一行の文による説明) 事例のタイトル (主として応用テーマ) 事例で解決したい課題 (現行技術の説明と問題点など) 用いた発明の原理の名称 (複数の発明の原理を使っている場合も多い) 課題を解決した技術の具体的な記述 (新技術の提案) 新技術の効果, 利点, 良くなった点 (注: 問題点や課題は述べていない) 出典 (特許番号, ハンドブック,論文出典など)
図6.2 [Principles モジュール] の [Examples画面] の事例の例
この事例データベースには,合計210 の事例が含まれていて, 扱っている分野などは 他のモジュールの事例データベースと同様である。各原理には通常 5個(3〜 8個) の事 例が属していて, (原理から参照する場合には)互いに重なり合っていない。 事例データベースを, キーワード検索で調べることもでき, 大事な方法である。 〔操作法: [Principles モジュール] の主画面において,メニューバーの [Database メニュー] で [Findコマンド] をクリックする。検索したいキーワ ードを入力して, [Find ボタン] をクリックする。〕 例えば,キーワードとして「Segment 」 (Segmentationの語幹部分) を指定して検索 すると, 14件の事例が検索された。これは, 第1 の原理 (Segmentation) から直接参照 できる 5件の事例の他に, 他の原理から参照するように設定されている事例 9件も, Segment(ation)というキーワードを含んでいるからである。キーワード検索で得られた 事例の説明文では, 検索に用いたキーワードとマッチした部分が青色の文字になって示 されている。
7. 矛盾を解決する発明の原理をヒントとして得る ([Principles モジュール] ) [Principles モジュール] の本来の用い方は, つぎの 3段階で進む。
・ まず, ユーザが自分の具体的な問題について, それがどのような困難・矛盾を持 つ問題であるかを明確にして,入力する。
・ すると, ツールが, それと同様な矛盾問題を解決した先例で使われたいくつかの 「発明の原理」とその事例をユーザに示す。
・ そして, ユーザがそれらの情報を自分の問題解決のヒントとして利用する。
この過程において, ツールは, TRIZの核心である「矛盾解消のマトリクス」を内部 のロジックとして使っている。 7.1 問題・矛盾を表現する 前節の図6.1 の[Principles モジュール] 主画面をもう一度見よう。TechOptimizer Pro はこの主画面の先頭で, ユーザに自分の問題を簡潔に記述することを求めている。
何を目的としているのか? どのような方法・手段を使おうとしているのか? その過程で問題となっていることは何か?
これらの記述は画面の最上部の 3行に記述される。ただ, この記述自体は, ユーザの思 考の整理を助けるためであって, ソフトツールの内部処理に使われることはない。 そして, TRIZは, ユーザがその問題を突き詰めて, 問題の中の「矛盾」を明確に するように求める。ユーザが, 目的として改良しようとしているFeature(側面, 属性, バラメタ) が何であるか, そして, そのFeature を改良しようとすると, 逆に悪くなる (だから困っている) ようなFeature は何であるか, を明確にすることを要求する。こ れらのFeature を, 画面左上の[Improving Feature] および画面左下の[Worsening Feature]の中に, 選択してクリックすることを求めている。 TRIZの方法論では, これらのFeature を自由に記述するのではなく, 予め用意し た選択枝リストの39個の中から選ばせる。改良するFeature も, 悪くなるFeature も, 同じFeature リストの中から選ぶ。Feature リストの一覧は 表7.1 のようである。
表7.1 「矛盾解消のマトリクス」を規定する39個のFeature ( 側面, 属性)
1. weight of moving object
2. weight of stationary object 3. length of moving object 4. length of stationary object 5. area of moving object 6. area of stationary object 7. volume of moving object 8. volume of stationary object 9. speed 10. force (intensity) 11. stress or pressure 12. shape 13. stability of object's composition 14. strength 15. duration of action of moving object 16. duration of action of stationary object 17. temperature 18. illumination intensity 19. use of energy by moving object 20. use of energy by stationary object |
21. power
22. loss of energy 23. loss of substance 24. loss of information 25. loss of time 26. quantity of substance 27. reliability 28. measurement accuracy 29. manufacturing precision 30. object-affected harmful factors 31. object-generated harmful factors 32. ease of manufacture 33. ease of operation 34. ease of repair 35. adaptability or versatility 36. device complexity 37. difficulty of detecting and measuring 38. extent of automation 39. productivity |
〔操作法: 通常は[Improving Feature] をまず左上のリストの中から選んでクリ ックする。ついで, 左下の[Worsening Feature] をリストの中から選ぶ。注意 して見ていると, 左上で選んだ[Improving Feature] の項目に応じて, 左下の リストに現れるFeature の順番が変化することが分かる。従来の事例から経験 的に知られているユーザの問題の出現頻度を考慮しているものと思われる。 悪くなるFeature を先に選んでも良い。このためには,[Worsening Feature ] の左のボタンをクリックしてから, リストの中から選択する。〕7.2 「発明の原理」をヒントとして得る
このように, [Improving Feature] と[Worsening Feature] を指定すると,
画面右上
の[Principles ウィンドウ] に, 「IM recommends:」として,選択された発明の原理が
表示され,また,画面右下には,その原理を説明する事例のリストが表示される。発明
の原理としては, 4件までが示される。これらを順次クリックして読み, また,
その事
例をクリックして読んでいくとよい。
ここで, 「IM recommends:」と言っているのは, ( [Predictionモジュール]
の場合
(5.2 節参照) とは異なり,) TRIZ法の貴重なノウハウをバックにして言っている
のである。TRIZは, 上記で指定したような, [Improving Feature] と[Worsening
Feature]の39×39の場合について, どの「発明の原理」が従来の特許事例で用いられた
かを分析して, それぞれ上位 4件までの「発明の原理」の表を作成している。この表が
TRIZの「矛盾解消のマトリクス」である。その一覧表は, 上記の日経BP社の入門編
でも見ることができる。ソフトツールとしての[TechOptimizer Pro] の便利な点は,
こ
の大きな表でいちいち発明の原理の番号を調べないでも, すぐにTRIZが推奨する発
明の原理を引き出せることである。
上記で, 「IM recommends: ... 」というのは, ユーザの問題解決に対するヒントを
このツール (あるいはTRIZ法) が提示していることを意味している。そのヒントは
適切かもしれないし, 見当はずれであるかもしれない。さらに, 同じようにヒントを出
されても, それを活かせるかどうかは, ユーザ次第である。発明の原理の本質的な理解
を高め, いろいろな事例を見て, これらのヒントを自分の問題解決に取り込めるように
, ユーザは自分のセンスを磨いておかねばならない。
ただ,実際にやってみて, 自分の問題を上記の39×39のマトリクスの一つとして定式
化するのは, 必ずしも容易でないと感じる。その理由の一つは, 39のFeature
リストが
必ずしも全ての側面 (あるいは属性, パラメタ) を網羅していないからである。
(ただ
し, もしこの個数を増やすと, それだけ先例の分析を精密にする必要があり,
まして,
自由記述にすると先例分析を有効に使うことができないことになる。) そのような制約
の中で, うまく使っていく必要がある。Altshullerの入門書を読んでいても,
この点に
は苦労しているようである。実際的には,39×39のマトリクスの一つの枡目だけが正解
であると捉えるのではなく, いろいろな観点から, マトリクス上のいくつかの枡目を考
察してみることが薦められている。所詮は「ヒント」なのだから, これで良いのである
。一つの解を得るだけでなく, 多数の問題解決のヒントを得た上で, 後日に試作や実験
をして, その中で最良のものを選べばよいのである。もっと言えば, このマトリクスを
経由しなくても, ユーザの問題の根本的解決に有効な「発明の原理」を思い至れば良い
のである。
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5-1 Prediction モジュール | 表5-1 Prediction Tree | 5-3 事例旧デザイン | 5-4 事例新デザイン | 次の
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||
6-1発明原理の一覧画面 | 6-2 発明原理の事例 | 表7-1 39の側面 |
1. はじめに | 2.
技術トレンド
(Prediction 1) |
3.
科学技術体系
(Effects 1) |
4. 目標を実現する方法
(Effects 2) |
5. システム改良法
(Prediction) 2 |
6.
発明の原理
(Principles 1) |
7.
矛盾の解決
(Principles 2) |
8.
問題の記述
(TechOptimizer 1) |
9.
システムの機能分析
(TechOptimizer 2) |
10.
トリミングと機能移転
(TechOpt. 3 ) |
11.
レポート機能
(Reporting) |
12. おわりに |
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最終更新日 : 1998.11. 1
連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp