TRIZ 解説 (翻訳)
TRIZの四つの見方
   Valeri Souchkov (Insytec B.V.)
   The TRIZ Journal, March 1999

  訳:   中川  徹 (大阪学院大学)  1999. 3.29 
    (著者およびTRIZ Journalの許可を得て, 翻訳し, 本ページに掲載 1999. 3.29)

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訳者まえがき  ("TRIZ Home Page in Japan"  への和訳掲載にあたって, 中川 1999. 3.29)

  この記事は, 表記のようにTRIZ Journal 誌に発表されたものであり, 原題は
      Four Views on TRIZ
である。 著者および同誌の許可を得て, 訳出し, 本ページに掲載する。翻訳・掲載の許可に対して,

    著者 Valeri Souchkov 氏    vs@insytec.com  http://www.insytec.com/     
   TRIZ Journal 編集長Ellen Domb博士    editor@triz-journal.com
                        http://www.triz-journal.com/  
に感謝する。 

   この記事は, 「TRIZとは何か」という問いに対して, その全体像を簡潔に表明している。
TRIZの個別の「木」 (個別の技法) を説明するのでなく, TRIZという「森」全体を明瞭に見
せてくれている点に, 本記事の価値がある。ぜひ参考にしていただきたい。なお, 赤色の太字
は訳者の判断でつけたものである。

(英語の原論文はTRIZ Journalを参照されたい。
      http://www.triz-journal.com/archives/99mar/99mar_article4/99mar_article4.htm)



最初に, この記事を科学論文とはみないでほしい。ここに論じているアイデアは, TRIZを
どのように見るかということだけである。この論点が極めて重要であると私は思う。なぜなら,
TRIZとは何かについて, 多くの誤解がある, 特にTRIZに初めて出会った人々の間に誤
解がある, からである。私が繰り返し繰り返し聞く質問は,  (TRIZの研修を受けた人達から
さえ聞くことだが),「TRIZとは何か? それは問題解決法か? それは科学か? それは方法論
か? それは道具箱か? それは, 我々の心理的障害を破るのを助け, 我々の創造性を改善
する何かだろうか? 」などなどである。そこで私は, TRIZとは実際何かについて, 簡単に全
貌を述べ, これらの質問に対していくらかの光を当てることに, 決心したのである。

専門家としての私の意見では, 現代のTRIZは四つのはっきり分かれた方向を持っている:

  (1) 技術の起源と進化に関する理論
  (2) 心理的慣性を克服するための技法 (テクニック)
  (3) 発明的問題を分析し, 定式化し, 解決するための技法 (テクニック)
  (4) 技術機能を, 特定の設計解決法や, 技術 (テクノロジー) や, 自然科学の知識な
        どとの間に, マッピングを組織するところの, ポインタ

TRIZにおいて, これらの方向は独立に進化したわけではない。それでも, このようでしかあり
えなかった。なぜなら, TRIZは技術・特許情報の厖大な研究から出発し, そしてそれ以後,
科学としてではなく, 工学的創造性を改良するための方法論として発展してきたからである。

TRIZは, 技術世界の一つの体系的な見方を基礎にした, 一つの問題解決ツールとして生ま
れた。TRIZアプローチの背後にある基本的なアイデアは, 問題を解決するには, 「特定の問
題についての情報をまず一般化し, ついで, 解決策のコンセプトを生成し, それからそのコン
セプトを実現可能な解決策に具体化するべきである」という。一般化は非常に強力なツールで
あり, 予め定義した解決策のパターンによって新しい問題を識別することをねらっている。その
パターンをTRIZの中に見出すことが可能だ, というのである。

Altshullerは, 多数の特許を研究して, 「その解決策の2%だけが本当に先進的な発明である。
その他のものは, すでに知られているアイデアやコンセプトを, ただ新しいしかたで使うもので
ある」ことを明らかにした。そこで得られた結論は, 「新しい問題に対する解決策のアイデアは,
すでに分かっているものかもしれない」ということである。しかし, このアイデアをどこで見つけれ
ばよいのだろう? TRIZは, 無数の試行錯誤を避けて, 既存の解決策の一般化したパターン
使って問題を解決することを助ける。TRIZの背後にある基本的な仮定は, 「異なる技術分野の
二つの問題がもし同一のモデルに帰結するなら, それらは類似の解決策パターンを持っている
はずである」と考える。

その後, 共通のパターンが存在するのが, 個別の解決策の間だけではないことが見出された。
異なる技術システムや設計製品の進化の間にも, 時代を越えて, 類似のパターンが観察された。
技術の進化は規則的であり, ランダムではないとの結論が得られ, その後, この方向での研究が
一層追求された。このようにしてTRIZは強固な科学的基礎を獲得し, 単一の設計方法論や,
問題解決技法の一つの集合といったものを越えるものになった。

(1) 技術の起源と進化に関する理論

提案したスキームから分かるように, TRIZを一つの科学であるとみなすことができるのは, 技術
の起源と進化に関する理論というレベルだけである。主要な理論的知見と発見がここに属する。
つぎのようなものがある:

  ・  「技術 (テクノロジ) は矛盾の解決を通して進化する」という表明
  ・  発明とは「潜在的に矛盾するパラメタ間の一つの矛盾を解消した成果である」という定義
  ・  発明的解決策の新しい分類法
  ・  理想性 (Ideality) の概念
  ・  技術 (テクノロジ) の進化についての一般的な規則性とパターンの発見
  ・  技術進化の法則とトレンドの定式化

現在, TRIZはまだ, 厳密で形式的な科学というカテゴリには属していない。TRIZが扱っている
非厳密な知識カテゴリ群の大きな広がりを考えると, それはほとんど不可能であろう。だが, TRIZ
の背後に形式的理論を創成することは時間の問題であろうと, 私は信じたい。

(2) 心理的慣性

心理的慣性を克復する技法 (テクニック) は, 発明家の心を心理的障害物から自由にし, 比喩
レベルでのより広い思考を助けることに, 使われている。心理学から知られているように, 言語的
情報は視覚的情報と強く関連づけられており, そのため, 個々の思考プロセスがどのように組み
立てられているかに関わらず, 人間の心の中には心理的な障害物がある可能性がある。特定化
する技術用語を避けるという簡単な操作でさえ,困難な問題の解決を助けることがある。

心理的慣性を組み止めるのに, TRIZはつぎの諸方法を導入している:

  ・  高度な思考のための, Multi-screen diagram (多画面図)
  ・  理想機能と理想システム (Ideal Functions and Ideal Systems)という用語による思考
  ・  心理的慣性を解消し,  "箱から出て" 思考するための, その他の方法。
        例えば, "Size-Time-Costs" Operator (STC 演算子)
  ・  Miniature dwarfs (魔法の小人たち) を用いたモデル化
  ・  創造的個性を形成するための戦略,    など

Altshullerが言っているように, 有能な (あるいは, 高度な) 思考法と伝統的な思考法との主要
な違いは, 前者が問題を見るときには, その問題が生じたシステムの他の部分との関連だけで
なく, 他の問題との関連をも常に見ていることである。それに加えて, 高度な思考のもう一つの
性質は, システムとその環境における諸関係の原因結果の分析を頭でしていることである。これ
らの能力はふつう,  "visionary" (洞察力のある) 推論法を身につけた人々の特権であると見な
されているけれども,システム思考は訓練・習得できるのであり, それを備えるとTRIZ技法は
大変有用となる。

(3) 問題解決

TRIZの問題解決技法は抽象化のプロセスを使う。そこでは,問題の核心を抽出し,そして
それを一般化する。問題を持っている製品についてのすべての情報を扱うのではなく,その
問題を起こしている部分に焦点を絞る。特定の状況を一般化する方法は,一つの問題を,
一つの矛盾,一つの物質−場モデル,あるいは,単に一つの要求機能として表現する方法を
用いる。それから,ガイドラインを用い,あるいは一般化解決策パターンを用いて,問題を一つ
の解決策コンセプトに変換する。つぎのステップは,そのコンセプトの具体例で,特定の実現
可能な解決策を与えるものを,見出すことである。もし特定化が成功しなければ,問題を洗練し
定式化をやり直す。

TRIZの問題解決技法にはつぎのものがある:

  ・ 技術的矛盾を解消するための発明の原理(Inventive Principles)
  ・  物理的矛盾を解消するための原理
  ・  発明の標準解 (Inventive Standards)
  ・  発明問題解決のアルゴリズム(Algorithm for Inventive Problem Solving (ARIZ))・  機能・
         コスト分析とトリミング
  ・  Feature Transfer (特徴移転) , およびその他の技法

TRIZに欠けているものは,特定化(specialization)の部分である。問題解決から得られるコン
セプトは通常非常に一般的であり,そのコンセプトの実現可能性について結論づけることを許
すような詳細情報を欠いている。特定化に失敗しても, 生成したコンセプトが間違っていたこと
を必ずしも意味しない。多分, その問題を解決する特定の知識を我々が持っていなかっただけ
かもしれない。Effects(自然科学的原理) と技術へのポインタ [次節参照] は,TRIZの原理や
解決策パターンよりももっと具体的な知識を含んでいるから, このフェーズに必要な知識を見つ
けるのをしばしば助けてくれる。しかし, それがいつも可能なわけではない。それでもなお, 私の
経験によれば, 問題分野のエキスパートがTRIZツールを用いて問題を解くと, 実際の解決策
に到達する機会は随分高い。それは, TRIZが問題を違う角度から見ることを助けてくれること
に拠っている。

しかしながら, TRIZが問題を扱う方法には,二つの分離した方法がある。第一の方法が提案
するのは,問題を一つの矛盾あるいは一つの物質- 場モデルとしてモデル化し, その後, TRIZ
のパターンやガイドラインを用いて, 問題を解決策に変換することである。第二の方法によれば,
技術進化のトレンドに従って, 問題を解決策に変換することができる。いつ, どの方法を用いる
べきかについて, TRIZは明確な答えを提供しない。一般的に推奨されるのは, 設計製品が将来
どのように進化するだろうかを予測したいときに, 第二の方法を使うべきだということである。他方で,
TRIZの問題解決技法には,多数の特定の進化パターンが組み込まれている。この状況は, 新し
い人がTRIZを学び始めて, まだTRIZの知識体系の明確なイメージを持たないときに, 混乱を生じ
かねない。

(4) 機能-効果のマッピング (Function-Effect Mapping)

Effects へのポインタ (あるいは索引) は, 厳正科学 (exact sciences) と技術 (テクノロジ) との間
のギャップに橋渡しをする。TRIZはつぎのようなポインタを提供する。

  ・ 物理学,化学,および幾何学的な現象と効果(Effects) へのポインタ
  ・  特定技術で広い応用を持つ可能性があるものに対するポインタ

ポインタはTRIZの中でおそらく最も使うのが簡単なツールであるが, その一方で, それらを生成する
ことは簡単ではない。ポインタは純粋に機能的なアプローチを提供する。それは, 技術的機能と,
それらの機能を提供できるEffects との間のマッピングを確立する。Effects とは, 物理学, 化学,
および幾何学において知られている自然の効果および現象である。それに加えて, ポインタは,
一般的な技術機能と特定の技術とを関係づける。

ポインタを問題解決に直接的に使用できるけれども, 多くの場合にはやはり, 問題の十分な分析が
必要である。特に, 問題の定式化が不十分なもの (ill-defined problem)を扱う場合には, 分析の必要
がある。問題解決過程の極く初期においては, その問題を解決するのにどんな特定の機能(function)
が必要かという知識は, 必ずしもすぐ手に入るわけではない。

(5) 結論

ここに提案したTRIZの見方は, TRIZの知識を体系づけるのを助け, また, TRIZとは何か, どの
ように見ればよいのかという課題に, より明確に答えてくれる。私はまた, いくつかの問題に光を当
て, それらが一層の研究を必要とすることを示した。

TRIZを開発することにより,Altshullerは, すべての方向で一層研究を進めるための, 極めて有望な
バックグラウンドを創り出した。彼とその協力者たちは,四つのすべてのカテゴリを一緒にして一つの
問題解決技法に持ち込むことを試みた。それは, 発明問題解決のアルゴリズム (Algorithm of
Inventive Problem Solving (ARIZ))として知られている。いうまでもなく, ARIZは, 物理的矛盾を含んだ
最も困難な発明問題を解決することを目指した, 最も強力なTRIZツールである。

今日においては,Altshullerによって導入された問題解決のアプローチは, その他の非技術的分野に
広がっている。現代のTRIZは, 工学的問題の解決のための方法論, あるいは, 新製品開発プロセス
としてだけみなされるべきものではない。TRIZの背後にある主要なアイデアは, 知識を管理・運用
(manage) し, 矛盾を含んでいる多くの分野の問題を解決するための, 強力なツールとなった。社会,
ビジネス, マーケッティング, および管理の問題を解決するのに成功した結果が, 沢山報告されている。
つい最近, 私自身, ビジネス問題を解決するのにTRIZコンセプトを使って非常にうまくいった経験を
持った。その問題は, 既存の解決策がどれも, 核心の矛盾を解消しなかったので, 解決不能だと以前
には見られていたものである。これはTRIZの一般的な特性により可能となった。すなわち, TRIZは,
系的な思考, 心理的慣性に曇らされない思考を組織し, 革新的変革のパターンを提案する

謝辞

本主題に対する有益な討論に対して, Dmitry Koutcheriavy, Yuri Salamatov,  およびMaria Strogaya
に, 深く感謝する。

著者について:

Valeri Souchkov はTRIZ関連の活動に10年以上の経験を持つ。彼の主たる科学・実践の背景は,
知識ベースシステムの開発および知識工学の分野にある。彼はInsytec B.V.の共同創立者であり,
その製品開発責任者である。同社はオランダに本部を持つ国際企業であり, 技術革新と品質知識管理
のシステムの開発に焦点を当てている。

以上

              
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最終更新日 : 1999. 3.29    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp